402話:それぞれの選択
佐藤誠たち異世界転移者五人を向こうの世界に送り出して一週間が過ぎた。今日は誠たちに向こうの世界に留まるか、こっちの世界に戻るか確認しに行く。
この一週間、何かあったときに『伝言』で連絡が取れるように『異世界転移門』は開いておいた。向こうに残る奴のために魔力の無駄遣いをするつもりはないから、今日で『異世界転移門』は閉じるつもりだ。
監視カメラ対策もしておいた。『認識阻害』に電子機器にジャミングを掛ける能力を追加して、『映像阻害』という新しい魔法を作った。これで姿を現していてもカメラに映ることはない。
約束の場所は都内某所にある小さな公園。誠たちを向こうの世界に連れて行ったときに近くに会った公園だ。せっかく向こうの世界に行くから、今日は俺が前世で住んでいた世界を見たいというソフィアとノエルを連れて来た。
他のみんなも来たいみたいだけど、全員一緒だと子供たちの面倒を見ることができないから、次に来るときはエリスとジェシカを連れて来るということで話が纏まった。
「ここが前世のアリウスが住んでいた世界なのね……」
「アリウス君、高い建物がたくさんあるね。アリウス君から聞いていたけど、地上を走る乗り物も馬車よりずっと早く走るんだね」
ミリアと二人で来たときにみんなの服を買っておいたから、ソフィアとノエルの服は違和感がない。俺の服もシンプルだけど、こっちの世界で買ったモノだ。
だけどソフィアとノエルは、とても日本人には見えない美人だから目立つ。ノエルは元々格好が地味なだけで美人だけど、ミリアたちのアドバイスで垢抜けた。
「私たちよりもアリウスが一番目立っているわね」
「そうだよ、アリウス君はカッコいいから……」
まあ俺は身長2m近い銀髪だから目立っている自覚はある。
「誠たちとの約束の時間まで少しあるな。昼飯とデザートの美味い店に行こうか」
『転移魔法』で移動して、二人を鰻屋とスイーツ専門店に連れていく。
「何これ……アリウス君、甘くて身がふっくらとして美味しいよ……」
「ええ、そうね……これまでに食べたことがない美味しさだわ……」
さすがにミリアも再現できない老舗の鰻の味は好評で、その後に行ったふわふわカキ氷の店も二人は満足したみたいだ――
削り方次第で氷ってこんなに触感が違うんだな。今度セレナに相談して、ふわふわに氷を削る魔導具を作ってみるか。
そろそろ時間だから公園に向かう。公園には五人全員が集まっていた。
「アリウス……私はこの世界に残るわ」
最初に言ったのは水原七瀬。七瀬は元の世界に戻りたがっていたからな。
「七瀬は家族に会えたのか?」
「ええ……アリウス、ありがとう……」
この反応を見れば他に言うことはないな。こっちの世界が七瀬が元々いた世界ってことは確定みたいだな。ソフィアとノエルも事情を知っているから涙ぐんでいる。
「アリウス……私もここに残る……」
小野寺小百合が声を絞り出すように言う。喋ることが苦手なのに必死に声を出したんだろう。
「そうか。小百合も家族に会えたんだな?」
「……うん」
「だったら何の問題もないだろう」
「小百合さん……良かったね……」
人見知りのノエルが小百合に抱きつく。自分のことのように嬉しいんだろう。
「アリウスさん、僕は向こうに戻るつもりですが、少し問題がありまして……」
「まこっちも、たぶんあーしと同じじゃん? 異世界に戻るって言っても、親が信じないんだよね」
誠とギャルの小鳥遊優里亜は家族と再会して、自分が経験したことを話したけど親は信じてくれなかったらしい。まあ普通に考えたら異世界にいたなんて、信じる筈がないだろう。
「誠と優里亜が戻りたいなら、俺が協力しようか?」
異世界に行くことを信じさせることが無理でも、外資系企業にスカウトされて海外に行くと言えば少しは現実味があるだろう。そのための会社は用意してある。某国にあるスタートアップ企業を買ったんだよ。
俺の筋書きはこうだ――二人が外資系企業にスカウトされて数年単位で海外で働くことになった。この話を家族が信じたとしても、今後連絡が取れないと不審に思われるから、メールやSNSでやり取りをする方法も考えてある。
「アリウスさん……本当に良いんですか?」
「あーしもアリウスがそうしてくれるなら、親を説得できるわ」
とういうことで『認識阻害』と『透明化』を発動して、高速移動で誠と優里亜の実家に向かう。
二人の両親にCEOの名刺を見せて雇用条件を説明する。ソフィアとノエルは秘書ということにした。雇用条件は悪くない。三人の外国人がわざわざ挨拶に来たことで、二人の家族は信用した。罪悪感はあるけど、誰も不幸にならないなら構わないだろう。
「アリウスさん、本当にありがとうございます!」
「あーしもアリウスに感謝しているし」
誠と優里亜のことは片付いたけど――最後の一人、藤崎冬也の話題がここまで一切出ていない。
「アリウス先輩、俺は当然向こうに戻りますよ」
異世界転移が二度目の冬也の家族は、異世界に戻るという話をアッサリと信じたらしい。二回も長期間行方不明になっていただけじゃなくて、冬也は魔法を使うところを見せているから、家族も信じるしかなかった。
「話は変わりますが、公安の覚醒者対策課の奴を見つけましたよ」
冬也は魔力を隠すことに慣れているから、隠し通すこともできた。だけど俺から公安の話を聞いていたから、反応を探るために少しだけ魔力を解放した状態で街中を歩いたところ、公安を名乗る奴に声を掛けられたそうだ。
「俺は大した魔力は見せていないから、住所と名前を訊かれて人前で魔力を使うなって言われただけですが、自分たちが正しいみたいな態度がムカつきましたよ」
監視カメラ対策はしたから無視することもできるけど、こっちの世界で活動するなら、公安対策もしておいた方が良さそうだな。




