120話:提案
「アリウスはんに会うのも、久しぶりやな」
その日の夜。イズリーの街の酒場の個室でアリサに会った。勿論、『防音』は発動済みだ。
グレイ、セレナ、エリスの3人は、セレナの『認識阻害』と『透明化』で姿を隠している。
ちなみに俺たちの話が聞きたいって言うから。グレイたち3人は『防音』の内側にいるし。これからアリサに何を話すか、みんなには事前に伝えてある。
「しばらく見んうちに。アリウスはんは、さらに凄みが増したみたいやな」
俺のレベルが上がっていることに、アリサは気づいているみたいだけど。
「そういうのは良いから。アベルとイシュトバル王国軍の現状について教えてくれよ」
「アリウスはんはツレへんな。今夜は2人きりやさかい、ゆっくり話をしようやないの」
アリサは俺の隣りに移動して、グラスに酒を注ぐ。俺の肩にしな垂れ掛かるようにして。こいつ、わざとやっているな。
「アリウスはんも知っとると思うけど。うちらは2週間くらい前に、魔族のイルバラって氏族の城を陥落させたんや。とりあえず、これでイルバラが支配していた地域は占領した訳やが。魔族も直ぐに反撃に出るやろうから、何日もせんうちにまた戦いになると思うわ」
アリサも魔族の動きを正確に把握しているってことか。こいつの情報収集能力は高いからな。
「まあ、今回のはあくまでも前哨戦で。勇者の力を見せつけることと、魔族の領域に足掛かりを作ることが目的やからな。本格的に戦線を拡大するのは、勇者を支援する同盟国から援軍が到着する1ヶ月後ってところやで」
イシュトバル王国軍が先行して動いた目的は予想通りだし。同盟国の動きについても、こっちで掴んでいる情報と合致している。
アリサは嘘をついていないみたいだけど。もう少し踏み込んでみるか。
「イシュトバル王国軍にも結構な被害が出たって話だけど。それってアベルの能力のせいだろう」
俺はカマを掛けるつもりだったけど。
「さすがそれは、いくらアリウスはんでもタダでは教えられんな。被害が出たのは事実やけど、当面は兵力は傭兵と冒険者で補充するから問題ないで」
ほとんど肯定しているようなモノだけど。アリサはアッサリと答える。本気で隠すつもりはないってことだろう。
アベルの能力については、こいつらが再び魔族と戦うことになったら。自分の目で確かめれば良いだけの話だからな。
「俺はおまえたちが魔族の領域に侵攻した時点で、止めなかったことを後悔してるよ。間抜けな話だけど、おまえたちが魔族の村を滅ぼすなんて思っていなかったんだ」
魔族の領域にアベルたちが侵攻すれば、どんなことが起きるか。魔族がいなくなった村を見るまで、俺は本当の意味で理解していなかった。
戦争が起きれば、一般人にも被害が出るのは当たり前で。しかも魔族は敵だと認識している人間が、魔族の領域に侵攻したらどうなるか。少し考えれば解ることなのに。
だけど俺はアラニスの『魔族でも血の気の多い武闘派が支配する地域だから傍観する』という台詞を真に受けて、何もしなかった。想像力が足りなかったってことだな。
「言っとくが、うちは武装してない魔族は殺してないで。だけどアリウスはんは青臭いことを言うんやな。うちらがいた世界では一般人を無差別に殺すのは戦争犯罪やけど。自分に都合の良い理屈を付けて、似たようなことをやっとったやろう」
アリサも転生者だからな。俺の感覚を理解しているみたいだけど。
「綺麗ごとを言っても、結局戦争なんて利益のためにやるもんやけど。世界を救うために魔王を倒すって大義名分があるんや。自分が正義だと思っとる人間は、いくらでも残酷になれるで。アリウスはんが止めたところで、どうなるもんでもないやろ」
アリサは人間と魔族の戦いをドライに受け止めている。こいつがアベルに従っているのも、利益のためだからな。
「アリサが言っていることは間違いじゃないと思うし。俺も少し前までは、仕方ないと考えていたけど。今は自分にできることをやるつもりだ。何もしないよりはマシだからな」
「アリウスはんは何を考えとるんや?」
アリサが訝しそうな顔をする。
「まさか本気で勇者と魔王の戦いそのものを止めるとか言わんやろ。いくらSSS級冒険者のアリウスはんでも無理や。たとえアベルを殺したとしても、今さら戦争の流れは止められんし。アベルを殺したアリウスはんは世界中の人間を敵に回すことになるで」
アベルを殺したとしても、すでに戦争は始まっているし。互いに被害も出ているから、なかったことになんてできない。
それに勇者を支援する国の本当の狙いは、魔族の領域の資源の利権だから。何かと理屈をつけて戦争を続けるだろう。
俺が勇者を殺したら。魔王に操られたとか嘘の宣伝して、戦争の火種に利用するとかな。
「勿論、俺もそんなことは解っているし。今のところは、アベルを殺すつもりはない。だけど俺は自分の大切なモノを守るためなら、世界中を敵に回しても構わないと思っているよ」
勇者と魔王の戦いを止めることが、みんなを守ることに直接繋がる訳じゃない。だからそこまでするつもりはないけど。
やり方はあるからな。俺は自分にできることをしないで、勇者と魔王の戦いを放置するつもりはない。
「アリウスはんは本気なんやな。だけどこんな話を勇者パーティーのうちにする目的はなんや?」
アリサが疑問に思うのは当然だろう。俺が勇者と敵対するにしても、勇者パーティーのアリサにわざわざ宣言する必要はない。むしろ黙っているか、逆のことを伝えた方が得策だからな。
「俺はアリサという人間を理解しているつもりだよ。なあ、アリサ。俺から提案があるんだけど――その前に。騙し討ちしたようで悪いけど、それはお互い様だよな。アリサは俺たちを監視していたから、グレイたちが一緒にいるのは気づいていただろう」
セレナが『認識阻害』と『透明化』を解除して、3人が姿を現す。
俺たちが最初にイズリーの街に着いた時点から、アリサが監視していたことには気づいていた。
アリサのやり方は、レベルの低い監視役を街中に紛れ込ませて『伝言』で情報を伝えるから。『索敵』で気づくのは難しいけど。警戒していれば監視されていることくらい見抜くことはできる。
監視させていたのがアリサかどうかは解らないけど。こんなことをするのは、アリサくらいだからな。
まあ、俺も本気でアリサに隠すつもりなら。グレイたちに王都を出発する時点で『認識阻害』と『透明化』を解除するなって伝えたけど。
「うちも今さら隠し立てするつもりはないで。一応、初めましてやな。SSS級冒険者のグレイ殿にセレナ殿。それにロナウディア王国のエリス王女殿下。うちは勇者パーティーのサブリーダー、アリサ・クスノキや」
アリサは悪びれずに言った。
※ ※ ※ ※
アリウス・ジルベルト 16歳
レベル:5,621
HP:59,186
MP:90,424




