第18話 歓迎会
リオン達が話し合っているうちに日も落ちてきて、街は日中とはまた違った賑わいを見せていた。
それが特に顕著なのが酒場で、それぞれのテーブルから楽しそうな声が聞こえて来る。
新規メンバーの歓迎会もかねて酒場にやって来ていたリオン達のテーブルにも酒と食事が並び、酒を楽しんでいる面々の中でもテッサが特に嬉しそうにジョッキを傾けている。
「はぁ~~~~それにしても、まさかリオンが女の子になってくれるなんて……こんな素晴らしいことがあっていいの?」
「て、テッサ……酔ってるのか?」
「ええ~? そりゃ飲めば酔うに決まってんじゃ~ん。ああっ……このほっそりした腰、たまらないよぉ~~」
既に3度もジョッキを空にしたテッサは、ちゃっかりリオンの隣に座ってその腰に手を回している。
「私ね、ず~~~~~っと、リオンが女の子だったらな~って思ってたんだ~それが叶ったんだもん……私がどれだけ喜んでるか分かる? わからないでしょ~?」
「そんなにボクが女の子の方が良かったのか……?」
「それはそうでしょ! だってこの細い腰! しなやかな腕、柔らかい太もも、それにこの豊かなお胸……あんなにたくましかったリオンが、こんなに可愛くなっちゃうなんて……」
テッサは我慢しきれないと言った感じでリオンにぎゅ~~~っと抱きつき、そこをクレアから引きはがされた。
「こらっ、人前ではしたないわよっ」
「ええ~~いいじゃない、こんなに可愛いんだし、それに女の子同士なんだよ?」
「女の子同士でもやりすぎよっ。それに……その、リオンが可愛くなったって言うけど、リオンは男の頃から可愛かったじゃない」
「いや、クレア……男が可愛かったって言われても嬉しくないんだが……」
「それは確かに、顔は可愛かったよ? でも体は鍛えてたからガッチリしてたじゃん!」
「ま、まぁ、それは確かに……」
クレア自身、今のリオンの方がしっくり来ていることは事実だった。
以前のリオンはその女顔とは対照的に鍛錬によって体を鍛え上げていたので、どうにもアンバランスだな、とは感じていたからだ。
それが女の子になることで、どこからどう見ても完璧な美少女として完成していた。
「っ……!?」
そのリオンの姿を改めてまじまじと見つめてしまい、胸がきゅっとしたクレアが思わず胸に手を当てた。
将来はリオンと結婚して家庭を持ちたいと密かに思っていたほど、リオンに恋をしていたクレアだったが、リオンが女の子になった今でもその恋心が全く変わっていないどころか、むしろ強くなっていることにクレア自身も驚いていた。
「どうした? クレア」
「な、なんでもないわよっ……」
若いころから教会という女性だらけの環境で過ごし、そこに住む神官たちは皆女の子同士で恋をしていたのでむしろそれが当たり前だと思っていた。
自分も将来は女の子と結婚するんだろうと思っていたが、それがリオンへの恋心を自覚してからは信仰と恋心の間で悩み――リオンが女の子になったことで全部解決するなんて思ってもみなかったことなのだ。
「こういう運命だったのかしら……」
クレアはぼそりと呟いてジョッキに口を付けた。
そんなリオンを挟んでいる2人を眺めているのは、テーブルの対面に座っている3人だ。
「いやいや、青春ねぇ~」
「そう言うコゼットは、リオンの隣に行かなくていいのかしら?」
「え? 私はだってほら、もうリオンのものだから。今更焦る必要も無いし」
コゼットはそう誇らしげにイザベラに言うと、自分の首輪を指さした。
「それ……魔力で編まれているのよね? 触ってもいい?」
「ええ、いいわよ」
「……凄い魔力ね……これだけの魅了を浴びたらひとたまりもなかったでしょ?」
「そうね、一瞬で魂まで虜にされちゃったわ。もう私はリオンから離れられないもの」
コゼットの口調は、とても明るいものだった。
「いいの……? だって魅了、なんでしょ? 本心かどうかも分からないんじゃ……」
「いいわよ。だってリオンといたら遅かれ早かれ恋をしていたでしょうし……それはあなたも分かるでしょ? あれだけ可愛いんだもの」
「……何のことかしら?」
「ふふっ、愛しいリオンを守るため、冒険者を辞めさせてパーティーから外す、か。健気ねぇ」
「……ご想像にお任せするわ」
イザベラは染まった頬をごまかすようにぐいとジョッキをあおる。
「イザベラってば意外に尽くすタイプなんですよね~。まぁもっとも、20歳過ぎて彼女も彼氏もいたことないんですけど――あだだだだ!!」
「黙りましょうね? マール?」
「ギブ! ギブっ!!」
顔面を細い指で鷲掴みにされ、マールがテーブルをタップする。
「まったくもう……そう言うあなたはどうなのよ」
「私? 私はさっき言った通り、リオンちゃんの妻になりたいって思ってますよ?」
「つ、妻って……一足飛びすぎない?」
「だって、神官は女の子と結婚するのが当たり前ですし」
「それはそうだけど……」
「相手がリオンちゃんってのはびっくりですけどね、これも運命かなって」
ニコニコと語るマールの顔には、一切の迷いが無い。
「……ところで、明日になってテッサ、今夜のこと覚えてると思う?」
「覚えてるわけないですね~。弱いのに飲み過ぎですし」
「そんなに弱いんだ」
コゼットが空になった2人と自分のジョッキにワインを注ぐ。
取り立てて上物というわけでもなくいつものワインだが、今日のワインは全員がとても美味しく感じていた。
「とっくに許容量超えているわ。後でリオンが背負う羽目になるでしょうね……もう、そんなに嬉しかったのね」
「あ~、彼女って、その」
「ええ、女の子しか好きになれないのよ。それで、リオンが女の子になってくれたからあんなに喜んでるってわけ。ほんと、わかりやすいわよね」
「あなたと違ってね」
「もうっ、うるさいわねぇ」
イザベラとコゼットがジョッキをぶつけ合うと、ゴツリと乾いた音を立てた。




