父とわたし
ヒルダを伴って、私はお父様の執務室を訪れた。
いや、ヒルダから、会いたい会いたいってせがまれちゃってさぁ。
昨日までお姫様と思って会わせないようにしてたのに、あの苦労はなんだったのか。
少し目が遠くなった私を許して欲しい。
お部屋をノック。
「入れ」
と、すぐに声がする。
お父様ったら格好付けちゃって。
はいはい、失礼しますよー。
重厚なオーク材の机を前に、父は椅子に腰掛けていた。
木製の折りたたみ式の椅子を持っていって、その前に座る。
出会い頭に威厳を粉砕していくスタイル。
さてハイランドの王にして私の父は名をカイルレインという。
御年三十一歳。
金髪緑目は私とおそろいだ。
身びいきで無ければ、精悍でカッコいいお父様だとおもう。
強いて言うなら、獅子の雰囲気かな。
まぁ、中身はお姫様趣味のモテない蛮族首長なのだけど……。
ちなみにお母様には逃げられた。
あまりに田舎でげんなりされてしまったらしい。
哀れ。
お父様の前に進み出たヒルダが、うやうやしくお辞儀する。
「カイルレイン陛下。御意を得ます。私、ヒルデガルド・ハートフェルと申します」
完璧な礼。
これだけで我が父の頬が染まる。
あかん、即落ちだ。
父はお姫様が大好きなのだ。
頭を下げていてヒルダには見られていないけど……。
何も見ていないヒルダが口を開いた。
「まずは、私の話を聞いていただきたいのです」
「ああ、わかった。」
そして私達はヒルダの身の上話を聞いた。
なんでもヒルダは王族から疎まれていたそうだ。
王国では最近、無為な戦が多く、そのために重税が課されていた。
それで、庶民や領主にも増税が課されることになりそれが結果的に国内の混乱につながっている。
内乱や盗賊の被害が膨らんでいたそうだ。
ゆえにヒルダは諫言を繰り返した。
王妃殿下経由でも伝手があり、また、どうも、ヒルダ自身もちょっと特殊な立場であったらしい。
にごされちゃったけど。
それで、国王の勘気を受けることになったのだそうだ。
また王太子は浮気中で、婚約者ヒルダが邪魔だったとのこと。
さてこの場合、はたしてどっちが酷いのか。
議論は置くとして、ヒルダは冤罪をでっち上げられて追放されてしまったのだそうだ。
うーん。
私は挙手をした。
「質問があるのだけど、いいかしら」
私も横で話を聞いていたんだけど、よくわからないことがあったんだ。
「ヒルダが追放された理由について、聞きたいの。王太子の浮気相手を学園でいじめた? 罪って、王国だとそんなに重の? 貴族のあなたを追放出来ちゃうぐらい」
「ああ、俺もそれは気になった。相手は王族でもなかったようなんだが……。裁判も無し、立証も浮気相手本人とその友人の証言だけで追放処分? それで、コンヤクハキなる仕儀になって、なし崩し的に国外追放にされる……。王国にはそういう法律があるのか?」
お父様も疑問でしたか。
だよねぇ。
ヒルダはなんとも言えない苦笑を浮かべた。
「……ございませんけれど、そういう事態が起きたりもするようですわ」
へー。
王国は先進国。
だから私達はその仕組みを教えてもらうつもりだったのだけど……。
そんな国の制度を取り入れて大丈夫なのかな?
私とお父様は目と目でちょっとだけ通じ合った。
ヒルダは続けて言う。
「行く宛も無い身なのですが、助けていただいた事、私の働きで返したく考えております」
「わかった」
「それと。厚かましいお願いになるのですが、私の家族についても受け入れもおねがいしたいのです。両親と、何より兄の。彼等にもし何かあったときに逃げ込ませていただけませんでしょうか」
「うむ、お安い御用だ」
我が父の安請け合いに、ヒルダがびっくりした顔を見せた。
ヒルダの実家の状況も聞かずに返事しちゃったからかな?
「あの……。状況によっては王国軍と事を構えることにもなりかねません。よろしいのですか?」
父にやりと笑う。
私は苦笑。
「ヒルダ。俺たちの国を見たか?」
「はい」
「大軍は攻め上がれそうか?」
「あっ」
ヒルダのびっくりした顔に、私達の得意げな顔が被さる。
気付いてくれましたか。
私達の領地はまさに陸の孤島。
山岳地帯の合間を抜ける細い街道が一本だけ通るのみ。
行きも辛けりゃ出るのも辛い、そんな土地柄なのだ。
「だから安全だよ。うちの国は。ヒルダのご家族が引っ越してくるなら大歓迎」
のんびりその日暮らしになっちゃうけどね。
「ありがとうございます!」
そう言ってヒルダは頭を下げてくれた。
良きかな良きかな。
それから、私達はこれからの話をした。
そして彼女と話していて、父も私も一つの重大な事実に気がついたのだ。
そう、ヒルダが言ってることが高度すぎて、何言ってるのかよくわからないってことに。
フクリケイサンとかトウシタイコウカみたいな単語がぽろぽろ出てきて、その度に私と父はヒルダにレクチャーをお願いすることになってしまった。
結果、ヒルダはうちの父の特別顧問に就任することになった。
だんだん話してるうちにヒルダが変な顔になっていって、最終的には「お二方とも、詐欺師に騙されそうで不安になったのです……」言われちゃったのだ。
面目ない。
ヒルダはこれからお父様にいろいろと助言をしてくれるそうだ。
とりあえずお父様のお部屋で机を並べてお仕事をするらしい。
父は、とても嬉しそうな顔をして頷いていた。
綺麗なお姫様大好きだもんね。
お話しも終わって、お互いにほっとひと息吐いたとき、父がおもむろに口を開いた。
「それで、ヒルダ嬢。少し二人きりで話があるんだが……」
あっ、不味い雰囲気!
「お父様!」
「いや、ちょっと話すだけだ、ちょっと話すだけだから!」
ヒルダが私を訝しげな顔で見てる。
うーん。
「……ヒルダ。困ったことがあったら私を頼ってくれていいからね」
「わかったわ」
そう言い置いて私はお部屋をお暇した。
翌日、父はちょっとご機嫌で、ヒルダはなぜだか照れていた。
君ら、密室で一体何をしていたんだい?




