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獣人傭兵物語 ーいかにしてこの無知なる傭兵は獣人〈けものびと〉の王たり得ることができたのかー  作者: べあうるふ
ラッシュ 初めて城に行く

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矛盾

大丈夫だよな、もう死んだよな? なんて3人でビクビクしながら、沼と化した床をずーっと眺めていた。

石で造られた床だというのに、この部分だけ完全に溶けてしまっている……ルースが言ったとおり、俺たちがこの液体を浴びていたりでもしたら、同じくこんな姿になっていたんだろうな。


化け物の始末を終え、俺はこのなんとも形容し難い臭いが充満した部屋から出ようとした時だった。

「ぼくの剣をかえせええええええ! あれは我が家に代々伝わる伝説の剣なんだぁぁあ!」

 そういやルースの作った薬でこいつの剣も溶かしちゃったんだっけか。しかしドールを前に逃げだしたり、俺に泣きながら逆ギレしてくるしでマジでウザいな。

「あーうっせえ」この前散々威張り散らしていた割には、武器取り上げると結構ヘタレなんだな……なんて思い、心を込めておでこにデコピンを決めてやった。

「よくも! よくもこの僕に暴力を振るったなぁぁあ! 父上に言いつけてやる! 王様にも全部報告してやる!!」

おでこを真っ赤にしながらなおも引き下がらない。その執念だけは認めてやろうかな。

「リオネングの騎士団は前々からこういうお坊ちゃまばかりで腐敗しきってましたからね……ほぼ壊滅したのは気の毒ですが、いい気味です」と、毒交じりの言葉をルースが投げかけた。


さて問題はジールの方。この前は風呂場に突入してしまったし、そして今回……

「あのバケモノも男なら、効くと俺は思ってたんだ」とっさの思いつきだった。失敗するだなんて全く思っていなかったんだ……だがジールの方はどう思っているか、だな。

「いいよ。あたしもあの時本気でダメだと思ってたし。今回は真面目なラッシュに免じて許すわ。ただし……」

ただし……って?

「風呂のぞかれた件に関してはまだ許す気ないから」

ああ、やっぱり……な。

「許してあげる条件として、まず毎日身体を洗うこと……かな」

おいコラ! いきなり高難度の条件突きつけてきやがったし!

「クサい男は好かれないぞ。チビちゃんなら別に慣れてるから平気だとしても、街中やこういう場所で臭い振りまかれたら、たまったモンじゃないしね」

まあ、こいつの言うことは確かに合ってるとは……思う。


……って、思い出した。

「そうだ、さっきは助けてくれてありがとな」無論忘れない、ここで最初にドールの奴と対峙したときだ。身体を引きちぎらされそうになったあの時……



「へ? そんな事あったの?」


え……助けてくれたんじゃ? 絡み付いた蔓に酸をぶつけて、溶かして脱出できたから……

「知らない。あたしが来た時にはもうラッシュは尻尾押さえてこっち逃げてた時だったし」

「離れろって、俺に言わなかったか?」

「言ってないってば。あたしも他の人を避難させたりルース探すのに手一杯だったし」


え。

ウソじゃないよな……?


「あたしウソなんてつかないってば。 あんたなんか勘違いしてるんじゃないの?」

「じゃあ、一体誰があの時俺を……?」

「えっと、そのことについてお二方に聞きたいことがあるんですが……」


ジールとの会話に、今度はルースも参戦してきた。なんなんだもう。訳わからねえ!


「私はあの時、酸の入った瓶を最初に2つ持って行ったんですよ。でもこの広間に着いた時に、それが無くなってたんです……」

移動中に大惨事にならないよう、ルースは小さなポーチに入れてここまで持ってきたんだとか。それがそっくりそのまま消えてしまった……

「ザイレンに聞いても知らないそうですし、それにラッシュさんも覚えはないと言ってますし……正直あれ持ってても危険なだけですから……」


どうなってるんだ……俺たちの他に一緒にドールと戦った仲間なんていないのに。

それに声は上から聞こえてきた。ジールみたいなサーカス上がりの軽業使いでもない限り、そんな芸当やれる奴なんていないぞ。

「じ、じゃあ一体だれがラッシュを助けたのよ……?」

「わ、分からないです……該当する人が誰もいないんですよ。でも一つだけ分かることはあります」

「……一体なんだ?」

「私たちの味方ってこと……ですかね?」


当たり前じゃねーか。

俺はいつも通りルースを一発殴って黙らせた。








あ。

そういえば……すっかりドールの騒動で忘れちまってた。


俺の剥奪されたギルドの権利。

一体どうなるんだ?

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