対決 その2
「ん? ああ、私はリオネング騎士団長のドールである、ぞ? 誰だ貴様、は?」
バケモノ化が進んでくると頭まで変になってくるのだろうか、話す言葉もおかしくなっている。
「おやお、や、誰かと、思えばケモノ、ビトではない、か。まだ、生きていたのかね?」
「あいにくだったなドールさんよ。下にベッドが敷いてあったんだ、フカフカで寝そうになっちまった」
「ほほう、そうだった、のか。やっぱり、君は、悪運だけ、は強いように思え、るんだがね?」
ルースのためにもとにかく時間を稼がなけりゃ……と俺は柄にもないジョークをあれこれ試した。
「悪運だとはこれっぽっちも思っちゃいねえさ。ただ落ちたところが寝室だったってだけで」
ドールの姿はまさに生きた枯れ木そのものだった。しかし唯一違うところといえば、奴の顔だ。
幹の真ん中あたりだろうか、蝋のように真っ白に染まったドールの顔がその部分にはめ込まれているかのように存在している。とても不気味だ。
これがマシャンヴァルの力なのか……確かに今まで夜目が効くすばしっこい人間もどきの兵とは戦ってきたが、ここまで異形化するとは……
「なんでリオネングの騎士団……いや、みんなを殺したんだ⁉ お前の部下だろ?」
「ああ、私に、刃を向ける、奴なぞ、部下とは、全く思ってな、いのでな。そいつら、にはお仕置き、が必要な、のだ」
「だからって皆殺しは……!」直後、俺の左の頬にシュッと風を切る音が聞こえた。
「ラッシュ君にも、お仕置きが、必要かも、しれないな」
頬をなでるとうっすらと血が付いていた……なるほど、これがお前の答えってことか。
左右の手に剣と槍を握り締め、俺は枯れ木のバケモノへと一気に駆け出す。懐へ飛び込めば奴も攻撃しづらいだろう。
……その瞬間、俺の身体は思いきり弾き飛ばされ、広間の壁へと叩きつけられた。まるで見えない空気の鞭みたいなものを叩きつけられたようだ。
「な、なん、だ……いきなり」久々に感じる衝撃だ。だが俺にしてみればこれくらい大したことない。親方の棍棒の一撃の方がもっと痛激だ。
「ラッシュ君、私に近づこう、としても無駄、だよ」ドールは長く伸びた自分の両腕を、まるで鞭のように高速で振り回している。なるほど。あれに弾き飛ばされたんだな……人間なら全身の骨を砕かれて即死といったところか。
ならば……! と、今度は手にした槍を投げつけ、奴がはじいた隙を狙って一気に近づく!
そのまま、剣をドールの顔面に突き刺そうとしたのだ……が。
硬い。
まるで岩に切っ先を突き立てたかのように、剣は砕けてしまった。
「なん……だと⁉」
「そんな粗悪な剣では傷もつけられないさ、ラッシュ君!」ドールのデスマスクのような白い顔が、醜悪な笑みを見せる。
「ふざけんなぁぁあああああっ!」俺は顔面にパンチを食らわそうとしたが、やっぱり鉄のように硬い。これじゃ俺の拳の方が砕けちまう。
「だから言った、じゃないか、私と組まない、かって、ね」ドールの歪んだ口から発せられた言葉が、くどいほどに胸に突き刺さる。
「で、お前みたいなバケモノになれってか……ふざけんなカス野郎!」
瞬間、俺の両手足に鞭が巻き付いた。振りほどこうにも全く解けない!
「ならばいま一度試してみようか、このまま君が死んだらウソだと認めてあげよう。だがもし死ななかったら……」
持ち上げられた身体はぎりぎりと、ものすごい力で上下に引っ張られる、俺の身体を千切ろうっていうのか……!
って、おい、これ、やべえ……マジで、身体が……!




