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獣人傭兵物語 ーいかにしてこの無知なる傭兵は獣人〈けものびと〉の王たり得ることができたのかー  作者: べあうるふ
ラッシュ 初めて城に行く

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リオネング城へ

 それから日を置かずに、一枚の手紙が俺のところに届いた。

 留めてあった封蝋を割って、書いてある字を読んでみる……大丈夫、きちんと勉強はしたから今度は全部読めた。

 

 うん。ラザトの言ったとおりだ。明日リオネング城へ来いと書いてある。一応異議申し立てはしてくれるみたいだ。

 恥ずかしい話だが、俺は今までリオネングの城へ一度も足を向けたことがなかった。

 そう、あの生意気な騎士の連中にこのことを話さなきゃならねえんだ……が。こういうかしこまった場所はやっぱり心細い。

 ということで、ラザトと一緒に俺はリオネング城へ向かうことにした。

 分かるだろ? 俺がこういうかしこまった場所が大嫌いなことが?


「お前、意外と小心者なんだな」

 城へと向かう重い足取りの中、ラザトは俺にそう言った。

 いや、小心者というか……戦場で暴れるのとはわけが違うし。例えばこれで誰かと一騎打ちして、それで罪が帳消しになるのなら俺にとってこれ以上のものはない。だが話術となるととにかく苦手だ。言い訳でもウソでも弁解でも。


 ラザトにこのことは無論話したさ、けどあいつは「悪ぃがここから先は俺は無理だ、お前ひとりで行ってくれ」って。城門を前にしていきなり俺を突き放してきやがった。

 そうだったな、親方とラザトは若いころにこの中で大ゲンカやらかして追放処分になったって話だし。

 若いころから好き勝手やってたとは聞いていたが、軍をクビになるくらいって……残念ながらラザトはそのことに関しては教えてはくれなかったが、一言だけ「堅苦しいトコは大嫌いだったんだ」だと。

 わかる、リオネングの城の門からここに至るまでの間、衛兵に変な目で見られるわ、見たことない動きにくい服を着た連中にジロジロ見られてきたわで、傭兵として戦地に行くとき感じた……あのイヤな雰囲気がここにも感じられたんだ。

「リオネングは獣人には寛容とは前々から言われてはいるが、俺にはそうは感じねえ。だからこそお前はその強さで見返してやれ!」

 ウチの親方はことあるごとに俺にそう話していたっけな。

「お前たち獣人も俺たち人間も、仲良く暮らしていける世の中こそ理想ってもんよ」

 残念ながらこのリオネング城にいる連中はそうでもないらしい。以前殴り飛ばしてやった奴らどもと同じ目つきしてやがる。


「遅かったな、さあ入れ……と言いたいところだが、こちらもまだ団長が戻ってきていないんだ。しばらく中庭で待っていろ」先日うちに来た態度のクソでかい騎士が、奥の大きなドアの前で待っていた。

 なんなんだもう、さっさと来いといえば今度は待ってろって……いい気なもんだ。チビを連れてこなくてよかった。あいつならすぐに退屈でぐずってしまうだろう。

 とにかくここにずっと居たって息苦しいだけだ、ということで俺は道を教えてもらい、さっさと中庭へと向かった。


 ……んだが、お城の中庭ってもうちょっと豪華なもんじゃなかったのか? と思うくらいの雑草ぼうぼうっぷりだった。要は手入れが全然されていないんだ。

枯れたツタが壁面を覆いつくし、花の一つも咲いちゃいない。まるでここは……そう、ジャングルだ。

 でも不思議と居心地はいい。逆に見渡す限りの花畑だったら、匂いで気持ち悪くなっていたかもしれないし。


「時間潰すったってなぁ……」壁同様ツタに埋め尽くされ、水の枯れた噴水のわきに、俺は腰を下ろした。

「親方……俺一体どうされちゃうんだろ」庭は荒れ果てていても、唯一見上げる空だけは底抜けに青かった。

 ため息に交じって、俺らしくない気弱な言葉が口から漏れ出た。


 ガサッ!


 突然、俺の目の前の草むらが妙な揺れ方をした。

 風とは違う……いや、風なんかまったく吹いてない。あきらかに何かが潜んでいる不自然な揺れ方だ。

 おれは腰に下げたナイフに手を伸ばし……あ、いや、城に入る前に武器は全部持ってかれたんだったか。


「……誰だ?」と言ってはみたものの、当然のことながら答えは返ってこない。

「おい、隠し通せてるかもしれねえが、こっちからはバレバレだぞ、いい加減姿見せろ!」だが相変わらず草むらは右へ左へがさがさと揺れ続けるだけだった。

 となると、俺を狙ってきたやつか……俺は意を決して、草むらの中へ足を踏み入れた。こうなったら捕まえて首をへし折ってやる!

 以前はおそらく花が咲き乱れていたんだろうが、今ではそんなもの一個も咲いていない。俺のひざ下が埋まるくらいまでの長い雑草たちが一面に生えているだけだ。

 不思議なことに、俺が来たら逃げるかと思っていたそれが、今度は猛スピードでこっちに近づいてきた。なんだこいつ!?

 ルースみたいな小柄な獣人か、なんて思いながら、俺は接近してくる存在に身をかがめてのぞき込もうとした、その時だった。


「ば……!」

 ゴン! と飛び出てきたそいつの頭が、俺のあごに思いきりヒットした。

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