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獣人傭兵物語 ーいかにしてこの無知なる傭兵は獣人〈けものびと〉の王たり得ることができたのかー  作者: べあうるふ
囚われのラッシュ

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戦い終わって

 ゲイルの奴は何か捨てゼリフを放つわけでもなく、よろよろと朝日のさす方へと一人去っていった。

 どこへ行くのか知らないが、もう残念ながら俺にはあいつを討つまでの力は残されていなかったし、さっきも言った通り、同族に刃を向けたくもなかった。一応人の姿になったとはいえ、やはり心の隅には、まだ獣人としてのあいつの姿がチラついていたから。

 だが、あいつがまたリオネングに楯突くようなことがあれば、やはり……

 

 さて、敵が全ていなくなったことを伝えると、アスティは突然地べたにへなへなと座り込んでしまった。

「よかった……シスターがこれ以上待てないって言うんで先に行ってしまって、すぐに僕も追いかけてったんです、登りきったところで悲鳴が聞こえてきたから、僕だけはなんとしても気づかれないようにすぐ身を隠して……」

 そのやり方が功を奏したんだ、ありがとな。って俺は労いの言葉をかけてやった。こいつが居なければ、ヘタしたらロレンタの命に危険が及んでいただろう。

 それにしても立て続けに2人の頭に命中させるだなんて、アスティの奴なかなかやるな。

 こいつ……割とヘタレっぽく見えてはいるが、いざとなるとかなりの集中力を発揮するタイプなのかも知れない。

 例えるなら……そう、トガリだな。あいつも普段からヘラヘラしてるけど、メシ作りとなると俺を眼力で黙らすほどの気迫で厨房に向かってるし。

 いつかこの二人を会わせ……

じゃない! まずはロレンタに説教だ。

 ……っと、当の本人はというと。

 廃屋の壊れかけた壁に背中を預けてうつむいたまま。

 俺が戻っても別に反省する気もなさそうだ……まったく。でもガツンと言ってやらなきゃな。聖女だかなんだかバカな理由でもう俺を尾行するなって。

「ごめんなさい、まだ理由は話したくなかったんですけど、あの男の気迫に、つい……」

 

 うん。ダメだこいつ、反省してねえわ。

 アスティがさっき俺に言ってたっけ「シスターは小さな頃からディナレ様に一生を捧げているんです。かなり世間ズレしているところがあるので、そこは大目に見てもらえればと」

 なるほど、俺が小さな頃から剣と修行しかやってなかったように、あいつもディナレの事しか頭に入ってない……ってわけかな。ちょっと極端かもしれないが、まあ合ってはいるんじゃないかな。

 

「俺のこの鼻の傷だけでディナレの生まれ変わりだとかって、妄想も大概にしてもらいたいもんだな、シスターさんよ」

「いえ、それが全ての証拠です、あなたは……」

 いいかげんにしろ! といらつき気味に俺は壁をバン! と叩いてしまった。だが彼女はそれにビビることなく俺の目をジッと見つめていた。


 ……うわ、これマジメな目つきだ。逆に俺の方が飲まれてしまうくらい。

「この地に来たのも、きっとディナレ様のお導きなのです。ル=マルデ……ここは狼聖女ディナレ様が降臨された場所でもあります」

 え……こいつ、この場所がル=マルデだってことを知っていたのか!?

  っていうか、ディナレ降臨のことも。


 ロレンタはすっくと立ち上がり、外へと向かった。

 外はようやく朝日が上りはじめた……と思ったのだが。

 ……一面、濃い霧に包まれていた。

 なんなんだこりゃ、深夜の時はこんな霧すら出てなかったっていうのに。

 まるで、俺たちがここから離れるのを邪魔しているかのように、手を伸ばした先すらも分からぬほどの白い世界だった。

「聞いたことがあります……ル=マルデの地は攻城戦が終わって以来、日中はずっと濃い霧に包まれるようになってしまったって。さらにはその霧の中をさまようたくさんの人たちの姿も……」と、アスティは言う。

 それが有名なル=マルデの怪奇現象ってわけだな。

「この霧こそがいまだに天に召されることのできない、さ迷う兵たちの無念の想いなのです」

 と言って、ロレンタは地面に膝をつき、手を胸に合わせた。

「……わたしとラッシュ様がここに来られたことは偶然ではないことを、今から証明してみせます」

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