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獣人傭兵物語 ーいかにしてこの無知なる傭兵は獣人〈けものびと〉の王たり得ることができたのかー  作者: べあうるふ
囚われのラッシュ

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隠された真実

 つまりはこういうことだ。


兄弟王のいさかいから生まれ、三百年近くにわたる戦争をしていたはいいが、獣人を軍に引き入れたリオネングにオコニドはもはや崩壊寸前だった。

 

 そして残された唯一の道、それは隣国のマシャンバル神国に助けを求めること。

 だがしかし、それは容易な道ではなかった。

 マシャンバルの王にして絶対神である《ディ=ディズゥ》にオコニドのすべてを明け渡すこと。それが絶対条件。

 オコニドは同盟を結んだといわれてはいるが、あくまで表向きのことだ。


 そして、これ以後オコニドの歴史は闇へと消えた。

 住民も、そしてオコニドの現王リューセル12世も。残っていたのはオコニドの土地とわずかな物資だけ。

 すべては、マシャンバルに『吸収』されてしまったのだ……と。


「でな、リオネングにいたとき風のうわさで聞いたんだ。マシャンバルは俺たち獣人にとってもいいところだぞって。今のリオネングやオコニドみたいな徹底された獣人差別なんて存在しない。むしろ俺たちを暖かく迎え入れてくれる国だとな」

「で、お前はあっちに亡命したわけか……」そういうこと、とゲイルはうなづいた。


「しかし、よくわかんねえのが……お前のその恰好。なんか皮を剥がされたみたいで、どうなってんだ?」

「そう! よくそこに気が付いたねラッシュ君!」と単にゲイルの顔が気味の悪い笑みに変わった。

「マシャンバルになんとしてでも行きたかったのは、実はこのためでもあったんだ!」

 さあ、分かるかな? と、ゲイルは突然のクイズを出してきやがった。分かるかそんなの。

 今のゲイル……獣人としての厳つさが消え、むしろ人間そのものな姿になっている。


 ……人間? 人間⁉


「お、おまえ、まさか人間になるために……⁉」

「ご名答! マシャンバルはな、俺たちを、いや、獣人をだな!」

 突然、夜空に響き渡りそうな高笑いをした後、ゲイルはようやく言葉を続けた。なんだコイツの上機嫌な勿体ぶり方は。

「そうだ、俺たち獣人を人間にしてくれるんだよ!」


 ゲイルはまるで自分に酔っているかのように、一人くるくるとダンスを始めやがった。おかしい。こいつ頭までどうにかなっちまったのか。


「ラッシュ君、マシャンバルは最高の国、いや神の国だ! こうやって俺を人間の姿にしてくれたんだからね~!」

 そうだ、この違和感の正体……人間の皮だ。人間になれたんじゃなくて、生皮を着たみたいな……

「人間の皮でもかぶったみてえだが、いったいどうやって⁉」俺は尋ねた。

「そんな残酷なことはしないさ、ディズゥ様の最も親愛なる側近、ヴェール大司教様の作られた秘薬に定期的に漬かるだけでこの通りさ! まあ最初のころは全身の毛が抜けたりして痛かったけどね。ヴェール様はまだまだ改良の余地があるともおっしゃっておられたし」


 俺はもう一つ、気になっていたことを尋ねた。そう、森で戦った人間ともつかない謎の連中の事を。

「フフン、よくそこに気が付いたねラッシュ君。俺みたいに、獣人から人になれるのだったら……その逆もまた存在する。わかるかい?」

「人間を俺たちみたいにしたってことか……⁉」

「そういうことさ、これも同じくヴェール様の作られた秘薬でもって、俺たち獣人が生まれつき備えた感覚を人間に植え付けるのさ! まあこれに関してはまだまだ実験段階だがね」

 獣人を人間に。そして人間を獣人にする……そんな薬を作り出したってことか。マシャンバルは。


「ラッシュ、思い出してごらんよ、リオネングで一緒に戦っていた時の頃を」

 ゲイルはそうは言ってきたが、あいにくコイツとは一度しか戦場で肩を並べたことがない。しかも気が弱いのか、前線に出た瞬間に怖気付いて逃げだしそうになりやがったし。そのとき俺は一発殴って……

「獣人というだけで俺たちは人間どもから避けられ、煙たがられ、あまつさえ最前線にほっぽり出される始末さ。ひどいとは思わんかね?」

 

 ああ。確かにそれは言えてる。戦いの最中はリオネングの兵にマトモな待遇なんて一切されなかった。だけど俺はこの拳で乗り切ってきたがな。うるさい連中は殴って黙らせた、中にはそのまま動かなくなった奴も結構いたけど、それはそれで好都合だったし。

「もうちょっとで俺は念願の人間の身体になれるんだ。そうすりゃもう人間の社会へも行けることができる、誰も俺を獣人だとは言わないし、思ったりもしないしな」


 ゲイルのその考えが歪んでいるように思えてきた。差別されたからって、その差別する側の存在になるって……?


「ラッシュ、お前をここに呼び寄せたのはそういうことだったのさ。リオネングの方でわざとそういう情報を裏から提供してやってね、でもって来る途中でお前ひとりにさせた」

つまり、ここまで来るのは仕組まれていた……しかもリオネングの方でってことは、内通者がいるってことか⁉


「お前も俺みたいに人間になって幸せになろうぜ、今なら俺の親友だってことでヴェール様にすぐさま取り入ってもらえるさ。でもって人間になってもう一度リオネングに行って、今度は中からあのクソな大国をかき回してやるのさ!」


 一瞬、俺の心が揺らいだ。

 確かに人間の身体になること、それは人の生活にも難なく溶け込めるってことかもしれない。しかし……しかし!


「なあラッシュ。ディ=ディズゥ神王に忠誠を誓えばすぐにでもお前はマシャンバルの一員、いや国民になれるんだ、さらにはこの身体を生かして軍を率いることだって……そう、すぐ将軍にまで上り詰めることが可能さ。獣人の力を持った人間と人間の姿を持った獣人……わかるか? マシャンバルは新しい人間を作って、リオネングを……いや、世界を征服して、より良い、差別のない自由な新しい世界を創り上げようとしたいんだ! みんな幸せになれる新しい世界なんだぞ!」


 ゲイルは俺に延々と力説した。言いたいことはわかる……

 わかる、が、なぜか同意できねえ。


 人になることがそんなにいいことなのか?


 自分を変えてまでこれからを生きていくことが、それほどまでに夢だったのか?


 今の自分じゃダメなのか?


 すべてを捨てて、また新たな自分を生きる……新しい世界を創る。そこに幸せとか自由はあるのか?


 教えてくれ、親方……どうすりゃいいんだ。

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