表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
獣人傭兵物語 ーいかにしてこの無知なる傭兵は獣人〈けものびと〉の王たり得ることができたのかー  作者: べあうるふ
傭兵ラッシュ 子供を拾う

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

13/620

子供 その3

 ここから先はかなり道が荒れている。馬車から降りて歩いて行ったほうが手っ取り早い。  

 しかし……さっきからここ一帯、妙に焦げた臭いが鼻をつく。

 今回の依頼をしてきた軍の人間は、もう一週間前に撤退をしたと聞いたんだが……この臭いはまだかなり新しい。 

 ちなみに、掃除の仕事そのものに報酬はない。代わりに回収してきたモノーいわゆる戦場の落とし物ーが、ほぼ俺たちのものになるって寸法だ。

 鍛冶屋に拾った武具を持って行ってクズとして換金してもらう。しかしそんなものを集めたところで大した額になるわけがない。だから掃除仕事は嫌われているんだ。親方なんていつもこの仕事を突っぱねていたしな。 


 そうだ、親方が掃除が大嫌いなのには、金にならない他にもう一つ大きな理由がある。

 風呂に入る親方の身体を見たときだったか……ズボンを脱いで初めて分かった。左足が無かったんだ。足首から下が。 杖こそついていなかったけど、いつも歩くのがぎこちなかったのを覚えている。

 木製の義足をつけて、それに靴を履かせていたんだっけ。だからはた目から見てもあまり違和感がなかった。 

 最初、親方は「戦いのさなかにぶった切られたんだ、まあ名誉の負傷ってやつだな」なんて言ってガハハと笑って答えていたけど、後になって他のギルドの奴らから聞かされた答えは、全く違っていた。

 

 親方はあんまり自分の過去を話さなかった。 だけどはち切れそうなくらいの筋骨隆々なその身体には、数えきれないほどの深い傷跡が刻まれている。 

 そいつらが言うには、全盛期の親方は岩石みたいな身体つきで、右手に斧、左手に大鎚を持って戦場で暴れまくっていたそうだ。その姿に敵からは「鬼砕きのガンデ」と恐れられていたらしい。  

 そうそう、ガンデって言うのは親方の本名だ。俺は結局一度も名前でなんて呼ばなかったけど。だけど、それほどまでに強かった親方がなんで……? それ以上に強大な戦士と戦って足を切り落とされたのか、それとも馬車に轢かれたのか……なんて思ったりもしたんだが。 

 結局のところ、親方は掃除で負傷したことがきっかけで左足を失ったそうだ。

 無論俺はその時聞いて、ウソだ! って思った。 しかしそれ以降、仕事で戦地に赴くたびに他の人間にも聞いてみたんだが、やっぱり答えは同じ。

  

 俺が親方に拾われる数年位前のこと。相手方の国と少しの間休戦条約が結ばれていたらしい。俺と同じく傭兵として生活していた親方も、仕方なく掃除を含めた雑用で日銭を稼いでいたそうだ。その掃除の際、戦場に散乱していた槍か何かの切っ先を、親方は誤って踏み抜いちまったらしい。身体にたくさん刀傷がある親方のことだ、こんな傷大したことないって言うんで、家にさっさと帰って酒を消毒薬代わりにぶっかけて寝ちまった……

 しかしその翌日、踏み抜いた足のひざから下が酒樽みたいに腫れ上がってしまい、さらにお湯が沸くくらいひどい高熱を出してしまったんで、親方の友人たちは大急ぎで医者を連れてきた。  

 親方の傷を見るなりその医者は、持っていた鉈で親方の腫れた足を即座に切り落とした。もう少し遅かったら、腐った血が全身に回って死んでたぞ……って。 

 それ以降親方は傭兵の仕事をやめて、逆に傭兵を育て、雇う仕事にまわったんだとか。その結果がこれだ。 あちこちで傭兵として使えそうな人材を集めて、一人前に鍛え上げて……って養成所も兼ねて。そして今に至っている。  

 まあ確かに、そんな事故が無けりゃ親方はまだまだ凄腕の戦士でいたかもしれない。しかし逆にその事故があったからこそ、後々の激しい戦争で命を落とすこともなくなり。そして、この俺が拾われた……なんて思うと、出会いってどこでどう変わってしまうのかなんてちょっとした運命を俺でさえ感じずにはいられない。


 そう、これから始まるあの出会いも、また親方の代から続いてきた運命の一つであったかも知れない……ってわけだ。 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろう 勝手にランキング ランキング参加中です。気に入って頂けたら是非ぽちっと応援お願いします!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ