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獣人傭兵物語 ーいかにしてこの無知なる傭兵は獣人〈けものびと〉の王たり得ることができたのかー  作者: べあうるふ
傭兵ラッシュ 子供を拾う

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子供 その1

 今回の仕事……それは俺たち獣人連中でもかなり嫌がられている、通称「掃除」ってやつだ。 

 しかし掃除とは言ってもどっかの屋敷や公園をきれいにすることじゃない。もっともっと面倒で、不潔で、危険で、おまけに得られる報酬もごくわずかという最低最悪の部類に属する仕事だ。 

 でも、終戦という噂が俺達のいる街中でもかなり伝わっているさなか、俺たち傭兵が駆り出されるくらいの大規模の戦争はほとんど無くなってきているのが現状。 それに親方が死んで以降、ギルド長を失った俺たちはもう誰に頼っていいのかすらわからない。いつ解散しちまってもおかしくない今の状況の中で、こういう仕事が舞い込んでくるだけ、まだ少しは救いがあるのかもしれない。 


さてと……掃除のことだったか。

 この仕事はいわゆる戦場の後片付けのことをいう。 

 大きな戦いが終った後に、戦場に打ち捨てられた武器なんかを拾い集めることが、いつしか掃除と言われるようになったらしい。

 しかも内容によっては、ハエのたかった死体をまとめてその場で焼き捨てるような片付けもあれば、ただ単に鉄クズを拾い集めたりと言った簡単なことまで、色んな種類がある。 

 ここ最近は掃除を横取りする盗賊まがいの奴らもいれば、死んだ人間を蘇らせて、奴隷や兵士にする奴も出てきたって冗談みたいな噂も流れてきた。まあどっちにしろ俺はそんなもんは信じない。もし仮にいたとしても、俺を邪魔する奴はみんなぶっ殺すだけだ。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「なあ、死んだ奴ってどうやったら生き返らすんだ?」

「うーん……私に聞かれましても、こればかりは実際に見てみないと分からないですねえ」 

 目的地へと向かいつつある馬車の中で、俺はギルドに入ってきた新入りのルースってやつに尋ねてみた。 

 よくよく考えてみたら、死んでる奴が生き返ったとしても、そいつらは元通りの人間なのかどうかすら分からない。だとしたらどうやって倒すのか……なんて疑問が俺の頭の中に湧いてきたから。 

 ルースはトガリと同じくらいの小さな背丈に、ひょろ長い身体をしているイタチ族とかいう種だそうだ。

 しかもこいつの身体はほぼ真っ白な毛に包まれている。わずかに目鼻と手足の先が黒いくらいだ。 

 さらに驚いたのが、こいつが得意としている稼業は「調合師」。

 要は毒とか薬を作る仕事なんだそうだが…… 以前はこの小さな身体を活かして暗殺の仕事も幾度かやっていたらしいが、生まれつきのこの純白の毛が災いし、相手に見つかることもかなり多かったとのこと、だから今は暗殺に使う毒造りに専念し、軍や貴族相手に売りさばいていると本人は言っていた。

「一口に毒と言っても実に多種多様なんですよ。まずメジャーなのは香水やお酒なんかに混ぜる水溶性。料理に振りかける粉末のものなんかもあります、あと特殊なものとしましては、教会にあるお香と一緒に燃やすことによって毒の煙を発生させ、それを相手に吸わせるタイプの毒もあるんです。あ、そうそう、塗るタイプのものは古来から暗殺業で結構使われてますよね、僕も今ナイフに塗ってますし、ラッシュさんも使ってみますか?」

「いや…遠慮しとくわ」

 俺の目の前に出された、それ。

小さなガラス瓶に入っている青緑色のその液体は、色といいドロッとした粘度といい、風邪をひいたときの鼻水そっくりだった。 

 今のところ俺の斧はまだ一度も敵に対して振るわれていない、というか、まだ戦いで使ってもいない。さらにこんな鼻水みたいなものを刃に塗られて、錆びたり切れ味が落ちたりでもしたら散々だ。 

 しかしとにかくこいつ、毒のことを語りだすと一向に黙る気配を見せない。トガリの例の口調も結構イライラするが、こいつみたいなのもかなり苦手だ。 

 いつもだったら一発殴って黙らせれば済むことなんだが。骨太なトガリと比べるとかなり華奢な身体つきなので、おそらく殴ったら死ぬんじゃないかと思う……ガマンガマン。


「そうそう、効果や効力なんかも成分の調節によって無限に近いバリエーションが出せますよ。最初は軽い風邪と思わせておいて、日に日に症状を重くさせる遅効性や、体内に吸収された瞬間に全身の穴という穴から血を吹き出して、惨たらしく華麗な死に様を魅せつける即効性。これなんかも芸術の域に達してますからね~、オススメです! あ、ラッシュさんはもうお仲間ですし、もし気に入らない方やすぐに殺したい人がいましたら、ぜひ私にご相談くださいね。初回一人は無料でお望みの死を提供して差し上げますから。なあに、遠慮なんていりませんから」

 もし最初にその毒で殺すやつがいるとしたら、俺はお前を殺したいんだけどな。 というイライラをぐっと腹の奥で押さえ込みながら、馬車は目的地へと到着した。

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