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続々・怪異の掃除人  作者: 長埜 恵
第9章 破滅は弱者の顔をして
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番外編 ゆけゆけ!曽根崎こども園!2

 こども達の熱量は、想像以上だった。


「ねぇぇぇ遊んで遊んで遊んでぇぇぇぇっ!!!!」

「でっっっか!! おっさん、でっっっっっっか!!」

「おにごっこしよーぜ! タッチ!! おまえ鬼ー!!」

「ねー、せんせー困らせちゃだめでしょ! 今はせんせーのじこしょーかいの時間なの!」

「すっげ! でっか! ムキムキ!!」

「ぱんつぱんつ!!!!」

「うんちうんち!!!!」


 こども園に到着するなり、僕らはあっという間にこども達に囲まれた。こちらが口を開く前に、次から次へと遠慮のない一方的なトークが展開される。最初こそひとつひとつ丁寧に答えようと思っていた僕だったが、三秒で断念した。

「へーへー、今日も元気で何よりだぜ。ひとり残らず遊んでやるから待ってろって」

 その点阿蘇さんは何度かボランティアをやっている分余裕があるのか、こども達を数人腕にぶら下げて里子さんのもとへ向かっていた。すごい。女の子のひとりが「もー、ただすけー。またこんなところに荷物おいてー」と、阿蘇さんのカバンを持ってついていっているのもすごい。こんな年齢の子まで魅了している。

 そして、阿蘇さんの腕に捕まりそこねたこども達は、第二のムキムキであるゲンマさんに期待の目を向けていた。

「……」

 ゲンマさんがおずおずと前に両腕を差し出すと、こどもたちから歓声があがった。わらわらとこどもに群がられ本体が見えなくなっていくゲンマさんに親指を立てておいて、僕は曽根崎さんを探す。そういやあの人、どこ行った?

 いた。なんでまだ入口にいるんだよ。なんならちょっと外にはみ出してんじゃねぇか。入ってこい入ってこい。

「おっ! 来てくれたねー!」

 僕らがわちゃわちゃとお子さん(と曽根崎さん)に対応していると、奥から里子さんが現れた。里子さんもこどもを何人かぶら下げている。このこども園のボランティア、腕にこどもをぶら下げられないと務まらないのか?

「ゲンマ君は喋れないらしいから大丈夫かなーと思ってたけど、心配ないみたいだね! ところで慎司君は?」

「あそこです。入口」

「よっしゃ、連れて来る」

 曽根崎さんは里子さんにあっさり連行されて入室と相成った。まるで脱走に失敗したハムスターのようである。そんな哀れを誘うつぶらな目ができるんだ、この人。

「なんか曽根崎さん、里子さんにはとことん弱いですね」

「一飯どころじゃない恩があるからな。心理的に逆らいにくい」

「僕、あんたのそういう意外と律儀なとこ好きですよ」

「む」

「こども園で苦虫を噛み潰したような顔をしないでください」

 とにかく、これで全員揃ったのだ。里子さんがパンパンと両手を叩くと、フライパン上のポップコーンのように自由に跳ね回っていたこどもたちが一斉に里子さんの前で正座をした。壮観だ。

「はーい! 今日はこちらのお兄さんたちがあなたたちと一緒にいるからねー! はじめましてのお兄さんもいるから、手加減するように!」

 こども達はまばらに好き勝手な返事をする。里子さんはうんうんと頷くと、僕らを紹介してくれた。

「まず、忠助君! 知ってる人も多いよね。あたしの息子だよ!」

「今日も来たぞー。宿題終わらせたやつから遊んでやるからかかってこい」

「慎司君! こっちもあたしの息子! 厳しいとこはあるけど、受験狙ってる子は勉強見てもらうといいね」

「どーも」

「景清君! 忠助君と慎司君の友達だよ! 優しいお兄さんだからって意地悪するんじゃないよ!」

「よ、よろしくお願いします!」

「最後はゲンマ君! 彼も忠助君と慎司君の友達! 無口なお兄さんで今日は掃除とかを手伝ってもらうけど、手が空いていたら遊んでもらえるそうだよ!」

「……」

 ゲンマさんがぺこっと頭を下げた。こども達の目は爛々とし、今にも僕らに飛びつきたそうにうずうずしている。だけど中には端っこのほうで目を伏せている子もいて、僕はどちらかというとそういう子のほうが気になった。

「それじゃ、勉強タイムにしよう! みんな、学校の宿題は持ってきたかな?」

 里子さんの声に、こどもたちがわっとノートやペンを取り出す。最初にこの勉強タイムがあって、少し遊んだあとにおやつタイムが入り、残りの時間は保護者が迎えにきたり閉館時間になるまで自由に過ごすという流れだ。

「景清さん! 宿題見てー!」

「おれ! おれが先!」

 僕のもとにも何人かこども達がやってきた。「順番ね」と宥めつつ、一番最初に声をかけてきた子の宿題から見ようとしたのだけど……。

「最初は放っておけ、景清君」すかさず曽根崎さんに口を挟まれた。「基本的には自分の力でやるものだ。詰まっている様子があればヒントを出す。そのスタンスを崩すな」

「なるほど」納得する。片っ端から付きっきりになれるほど、人手があるわけじゃないもんな。さすが曽根崎さん、一歩引いた大人の考えだ。

「うぜー! シンジ、うぜー!」

「今、悪口あっこうをほざいたのは誰だ。訴状を突きつけてやる」

「こども相手に裁判を起こさないでください、曽根崎さん!」

 そんなことはなかった。ここにいるのもまた、でっかいこどもなのかもしれない。

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【書籍化情報】
怪異の掃除人・曽根崎慎司の事件ファイル(宝島社文庫)
表紙絵
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