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続々・怪異の掃除人  作者: 長埜 恵
第9章 破滅は弱者の顔をして
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42 人の破滅を

 僕が訪れたのは警察署でも留置所でもない、研究所のような場所だった。忙しげにきょろきょろする僕に、曽根崎さんが説明してくれる。

「ここはウィタ技術研究所。表向きは人工臓器の研究開発を行っている」

「表向きは」

「裏では、ツクヨミ財団からの依頼を受けて、調査対象の分析などを行っている」

「だからあの男の人が連れてこられたんですね」

 独特な匂いがする真っ白な廊下を歩いた先にいたのは、つなぎの作業服で身を固めた人だ。ドアを開けてもらい、取調室みたいな窓がある小部屋に案内される。

 窓の向こうには、アルミホイルで頭を覆い、拘束具を着せられ、目隠しをされた人が椅子に縛りつけられていた。

「……これは」

 映画やドラマでしか見ない光景に愕然とする。でもこれは必要なことなのだと自分に言い聞かせ、動揺を見せないよう気をつけながら曽根崎さんに話しかける。

「彼は、ずっと黙秘を続けているんですか?」

「いや、それが真逆らしい」

「え?」

「聞けばなんでも答えてくれるそうだ」

 そう苦々しげに言うと、曽根崎さんはマイクに顔を近づけた。

「君は、PUU商事の治郁元吉ちいくもとよしだな?」

 その問いに、男はパッと顔を上げた。締まりのない大きな口が開く。

『そうだけど? あ、でもたまに映画の講評とか配信やってる』

「年齢は?」

『25歳』

「両親は健在か?」

『超健在。住所教えるんで今から行ってご確認どーぞ』

「君は種まき人か?」

『そっすよー。つかその質問全部されたことあるんですけど。他の質問してよ』

 そのクレームは受け付けず曽根崎さんはマイクを切り、僕のほうを向いた。「な、答えてくれるだろ」

「ですね。種まき人ってこと、あんなにあっさり白状していいんだ……」

「なお、ここまでの聞き取りにより、彼が品之丞氏から演説中率先して盛り上げるよう指示されたことがわかっている」

「だとしたら相当盛り上げ上手ですね。じゃあ、重元さんの死にも関わりがあるんですか?」

「それについては、本人から説明してもらおう」

 曽根崎さんがまたマイクをオンにし、治郁さんに質問をする。治郁さんは退屈そうに椅子を前後に揺らしんながら答えた。

『あいつの死を撮影できたのは偶然すよ。おれが言われたのは、重元についてったら映画みたいなシーンが撮れるってそれだけ。ねー、アンタが誰だか知らないけど、おれの動画見たでしょ? マジすごくなかった? 重元の野郎はクソだったけど、絶対あれで同情して重元派になったやついたっしょ。反応見てぇ~』

「……その映画みたいなシーンが撮れると言ったのも、品之丞氏か?」

『いや? 別の人。メガネかけた女がいたっしょ? 知らない? でもおれもあの女のこと全然知らなくてさぁ。種まき人ってことはわかるんだけど』

 新しい人が出てきた。……いや、そうでもないか。僕が曽根崎さんのマンションに行った際、治郁さん以外にも僕に声をかけてきた女の人がいた。あの人のことだろうか。

「つまり君は、品之丞氏とメガネの女の二人から情報を得ていたということか」曽根崎さんが言う。「品之丞氏とメガネの女は、協力関係にあるのか?」

『知らねー。でもそうかもね』

「種まき人は情報共有をしないのか?」曽根崎さんは、手元にある機械に視線をやる。これは嘘発見器的な機械らしいが、針は一切動いていなかった。

『必要ならするけど、基本的には自由に行動してるやつが多いんじゃない? おれだって自分の目的が達成できたらそれでいーもん』

「君の目的とは?」

『そりゃあれよ。映画撮影』

「映画」 

『うん』治郁さんは、へらへらと笑っている。『おれね、映画とかドラマとか好き。そんでパンフレットとか買ったり監督のインタビューとか聞いたりしてさ、キャラクターや背景がどうなってるのかって知るのが超好きなんだ。

 でもさ、結局それってリアルじゃないじゃん。そいつらがどんなに映画の中で生き生きしてたって、虚構の人間でしかない。ノンフィクションって銘打ってたって、映画のフィルター被せちゃったならフィクションなんだよ。わかる?』

「……続けて」

『だからおれ、リアルな人間で映画を見たかったんだよね。自分も重元の信者っていう登場人物になってみたり、直接他の登場人物と話してみたり。あ、途中で会った兄ちゃんとか結構好きだったよ。景清君だっけ? いいよね、ああいう地味っぽいけど真っ向から立ち向かえるやつ。弁爾ってやつもおれと発想が似てて面白かったな。でもキャラとしてはいいけどさ、友達にはなりたくないタイプだよね』

「現実に起こっていることを映画とみなし、直接他の登場人物と話す。それが、君が彼らに接触した理由か」

『うん。ソレ以上でもソレ以下でもないよ』

「本当か? 君は種まき人の中でも、見下ろす目を与えられるほどの地位にいるのに」

 この問いにも、治郁さんは表情を変えなかった。むしろますます笑みを深くしたようだった。

『そうだよ』

 べえ、と舌を出す。そこには、種まき人の司祭と同じタトゥーが入っていた。

『結局どんなに取り繕ってようが、おれと同じようにみんな見たいんだって。人の破滅をさ』

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【書籍化情報】
怪異の掃除人・曽根崎慎司の事件ファイル(宝島社文庫)
表紙絵
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