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続々・怪異の掃除人  作者: 長埜 恵
第6章 霊は廃墟にてのたうつ
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6 景清を守る理由

 柊も、阿蘇とは違う方面で本質を突くのである。ただ、阿蘇は多少事情や状況を鑑みて手心を加えてくれるが、柊にはそれが無い。内なる好奇心とお節介が満足するまで追求してくる。

「正直、今のアンタがここまで動いてるとなれば景清絡み以外に考えられないわ。もともと何の利益も無く動くようなオトコじゃないし」

 酷い決めつけだ。彼女とは多少付き合いが長いつもりだったのだが。

 とはいえ、似たようなことは景清にも指摘されている。曽根崎はげんなりとした気持ちになった。

「君にしろ景清君にしろ、私を何だと思ってるんだよ」

「ちょっと前までは血も涙も無い合理人間」

「今は?」

「景清大好きおじさん」

「嫌だそんな名前」

 こっちにも色々考えがあってのことである。そう伝えると「それも含めて大好きってことでしょ」と断言された。疲労を感じた曽根崎は、これ以上話を続けるのをやめた。

「だからアンタが種まき人の目的阻止に積極的ってことは、奴らが景清に危害を加えようとしてるんじゃないかって思ったのよ。違ってた?」

「……合ってたところで」

「協力できるかもしれないわ。ボクも景清が好きよ。危険が迫ってるなら助けてあげたいもの」

「善意はありがたいが」曽根崎は首を横に振った。

「これはそう簡単な話じゃない」

「つまりアンタ自身もよくわかってないってことね」

 なぜそうなる、と思ったが、あながち的外れな指摘でもなかった。事実不明瞭なのである。情報不足もそうだが、種まき人が誘因するだろう事象の複雑さという点でもだ。

「……確実にそれが起こると決まったわけじゃない」

 曽根崎は、慎重に言葉を選んで言った。

「聞きたいなら、あくまで一つの可能性として捉えてくれ」

「ええ。話してごらんなさい」

「――今後、種まき人は竹田景清という人間を取り込もうとするかもしれない」

 この言葉に、柊は驚きと疑問をないまぜにした顔で頭を傾けた。

「どうして?」

「言うわけないだろ。私に監視がつけられていないとも限らない」

「監視ィ? アンタが因果な商売してなきゃ、病院を紹介するところだわ」

「君の紹介してくれる病院は、待合室にアロマポットとか置いてそうだな」

「どういう偏見よ。置いてるけど。でも、シンジが言えないってことは、まだ景清は種まき人に目をつけられていないのかしら」

「今はな」

 ……恐らくだが。口の中だけで呟き。ポケットからスマートフォンを取り出す。手のひらサイズの機器は、マメなアルバイトによって十分充電させられていた。

「ま、備えあれば憂いなしでしょ! 仕方ないわね、このボクも景清を気にかけるようにしてあげるわ!」

「ところで今の彼はここから三十メートル離れた場所にいる。先程の女児に発信機は取り付けていないが、一緒にいるとみていいだろう。来る途中車の轍も無かったし、我々の他に大人がいるとは思わんが、念のため一度彼の様子を見に行くべきだと私は」

「アンタのスマホと景清に何が搭載されてるのか大体察したわ。その上で言うけど、やめなさい」

 何か言い返そうとした曽根崎だったが、ここで光坂が「おまたせー!」と帰ってきた。彼女が背負うは、柊と二人で酒の勢いで作ったという巨大ダウジングマシン。そのインパクトを前に、種まき人の話と景清に取り付けられた発信機については無事うやむやになったのである。




 引き続き、僕はヒデナちゃんと廃墟を探索していた。光坂さんに送ってもらったドラマの写真と見比べながら、ここでもない、あそこでもないと。だけどなんせ数十年経ってしまっているのだ。たとえ同じ場所でも、変わってしまっているだろう。

 ヒデナちゃんはというと、黒い石を探しつつも、どちらかというと僕とおしゃべりを楽しみたいようだ。

「かげきよさんは、お友達っている? 私はね、昔カメを飼ってたの。ミドリガメ。知ってる? あれって結構大きくなるのよ」

「かげきよさんって、手があったかいね。手が冷たい人は心が温かい人って聞いたことあるけど、かげきよさんは違うね」

「かげきよさん、もしかして今日ってデートだった? 私、じゃまじゃなかった?」

 耳を傾けて聞いていた僕だったけど、最後の誤解だけは丁寧に解いておこうと彼女に体を向けた。

「邪魔なわけないし、みんな恋人同士でもないよ。安心して。探検しに来ただけだから」

「だけど、とっても仲良しに見えた」

「そう? そんなに柊ちゃんとおしゃべりしてたっけな……」

「ううん、モジャ助おじさんと」

「モジャ助と!?」

 嫌だそんな勘違い! 僕は身振り手振りをまじえて、アレだけは無いと伝えようとした。でもこういうのって必死になればなるほど疑われるよね。ヒデナちゃんはいい子なので一応わかってくれたみたいだけど、その目に一抹の疑惑が残っていたのを僕は見逃さなかった。

「……だって羨ましいの。私にも、恋人がいたらなって思うから」

 ヒデナちゃんはうつむき、寂しそうにこぼした。……正直、彼女の年齢的にまだ早いんじゃないかと思ったけど、口にするのはやめた。

「恋人って、すてきなものでしょ? 話を聞いてくれたり、抱きしめてくれたり。……いいなぁ。私も恋人がいたら、一人ぼっちじゃないもの」

「……」

「私、ずっと一緒にいてくれる人がほしい」

 その一言に、僕の心の脆い部分が揺さぶられたのだ。思い出すのは、一人ぼっちで見た公園の向こうに落ちる夕陽。どこか遠くに行きたくて、でもどこにも行きたくなくて、幼い僕は服が汚れるのを恐れて遊具の一つにも乗れないでいた。

 途方に暮れたあの日の心象風景が、彼女に重なった気がしたのである。

「じゃあ」

 気づいたら、声に出していた。

「僕が、ヒデナちゃんと一緒にいようか」




【一方その頃】

「柊ちゃん、曽根崎さん! ダウジングマシンが反応してます!」

「でかしたわ、佳乃!」

「何を見つけた、光坂さん!」

「ネズミの死体です!」

「どんまいよ、佳乃! 次はうまくいくわ、佳乃!」

「む、こっちにも反応あり!」

「またしてもか! 何を見つけた、光坂さん!」

「タヌキの死体です!」

「大丈夫よ、佳乃! ある意味精度は高いわ、佳乃!」

「なあそのダウジングマシン、どういう原理で動いてるんだ? 怖くなってきた」

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【書籍化情報】
怪異の掃除人・曽根崎慎司の事件ファイル(宝島社文庫)
表紙絵
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