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続々・怪異の掃除人  作者: 長埜 恵
特別編2 神はポリバケツの中にいる
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1 ゴミ神様騒ぎ

 阿蘇忠助、二十七歳。警察署地域部の配属ではあるが、上層部の命令に応じて特殊任務にあたることも多い。特殊任務――到底人知の及ばぬ“怪異”と呼ばれる不可解な事件の解決のために、特殊な伝手と能力、確かな胆力を頼りにされ、彼は秘密裏に動くことがあった。

「阿蘇君」

 親しげな声に呼び止められ、振り返る。朗らかに片手を挙げて挨拶するがっしりとした体格の男に、彼はすぐさま一礼した。

「お疲れ様です、丹波部長。何か御用ですか」

「うん。少しいいかい」

「ええ」

 彼の名は丹波。刑事部捜査一課の部長であり、たびたび受ける上層部からの依頼を阿蘇に伝え、補助するパイプ役を担っている男である。

 喫煙所へと移動した丹波は、電子タバコを口に咥えてため息をついた。

「また“曽根崎案件”だ」曽根崎案件とは、怪異の掃除人である曽根崎に警察から依頼される事件の呼称である。

「一ヶ月ほど前から奇妙な宗教の名前を聞くようになってね。『ゴミ神様』という名前を聞いたことはないかい?」

「いえ、生憎」

「ならば身にゴミをまとって歩く男の話は?」

「ああ、そちらは小耳に挟みました。俺の担当区の話ではありませんが」

「どこまで知ってる?」

 尋ねられて、阿蘇は少し首を傾げて考えた。

「最近、全身に生ごみを付着させた中肉中背の二十五歳男性が通報されていると。しかも、繰り返し同じ騒ぎを起こしていると聞いています」

「じゃあ、それが全て別の人間による仕業だったことは?」

 丹波の言に眉をひそめる阿蘇。ただでさえ射殺すような視線が一層おっかないものになる。

「騒ぎを起こした者に同一人物は誰一人としていない。五件とも別人による騒ぎだったんだ。体格、年齢、性別という事項以外には一切の共通点が無い、ね」

「……それは奇妙ですね」

「そして彼らは口を揃えて、『自らの姿はゴミ神様になるためのものだ』と言った。もっとも、いくらゴミを体にまとっているとはいえ、必要な会話はできるし人に危害を加えるわけでもない。最初こそよくあるちょっとおかしい人だと警察は相手にしなかったが……流石にここまで続くと、ある種の疑惑の目をむけてしまう」

 丹波は、阿蘇の肩をぽんと叩いた。

「そこで上層部は怪異の掃除人への依頼を決定したわけだ。調べて何も無ければ良し、埃が出れば綺麗さっぱり掃除してくれれば良し。君のツテで連絡を取り、至急調査に向かってくれ」

「まるで便利屋ですね」

「警察だってそうだろう? 極論どんな仕事だって便利屋のようなものだ」

「まあ調査依頼自体は構わないのですが……」

 阿蘇は、少々困った顔をした。

「それ、三日ほど先延ばしにできません?」

「おや、どうして?」

「例の曽根崎が休暇を取っているんです。連れ戻すのも憚られますし、そもそも連絡がつくかどうかも分からなくて」

「近場ならどうにかならないかい?」

「あの性格ですよ。恨まれると厄介です」

「……呪ってくるとか?」

「いや、絶妙に法の穴をついた嫌がらせをしてきます」

「やりそうだな……。ならば帰ってきてから改めて依頼するとするか」

「そうしていただけると助かります」

 話は終わり、二人は軽く会釈して別れようとする。だが三歩ほど進んだところで、阿蘇は立ち止まり振り返った。

「すいません、丹波部長。よかったら現段階での調査資料をいただけませんか? あらかじめ概要を把握しておきたいんです」

「勿論いいとも。しかし阿蘇君は真面目だねぇ。つくづくうちに来てくれると助かるんだけど、どうだい? そろそろ刑事部所属になってみないか?」

「正規の異動命令でない限りお引き受けかねます」

「分かった。じゃあ頑張って昇進しておいで」

「くれぐれも裏から妙な手を回さないでくださいね」

「まじめに掛け合うだけだよ! 大丈夫だよ!」

 丹波は根っから善良な人間なのだが、やたら胡散臭い雰囲気を醸し出すため頻繁に怪しげな噂が立っているのである。丹波は渋い顔をしつつも、阿蘇に持っていた資料を手渡した。

「ざっとここで確認していいですか」

「どうぞ」

「お時間は取らせません」

 手早く茶封筒の中から数枚の紙を取り出し、目を通す。当然騒ぎを起こした程度である男の写真は無く、内容も至ってシンプルなものだ。だが、スムーズに動いていた阿蘇の視線は、ある項目に釘付けになった。

「……丹波部長。この五人が騒ぎを起こした犯人ですか?」

「ああ、そうだよ。どうした、何か気になることでもあるのか?」

「……一つ」

 数ヶ月前の事件が阿蘇の脳裏に蘇る。ある青年を助ける為に秘密裏に行動し、決して軽くはない被害を負いながらも壊滅させたある教団のこと。

 沈殿した怒りが沸き上がる。眉間に刻まれる皺が深くなる。後継者だった幼馴染の顔が浮かんだ。

「このリストに載っている名前の内、二人は……生ける炎の手足教団の信者だった者です」

 驚いたように目を見開く丹波の横で、阿蘇は手元の紙を破いてしまわぬようこもる力を抑えていた。

「怪異の掃除人」が第10回ネット小説大賞にて小説賞を受賞しました。宝島社様より書籍化予定です。これもひとえにいつも応援してくださる皆様のおかげです。今後ともよろしくお願いします。

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【書籍化情報】
怪異の掃除人・曽根崎慎司の事件ファイル(宝島社文庫)
表紙絵
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