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90.変異

 ガリアンさんたちとの顔合わせが終わった俺たちは、首都へと馬車を走らせていた。ガルレイクをぶっ飛ばした後は、別の部屋で、俺の事を色々と聞かれた。


 俺のことになると、みんな嬉しそうに話すので困ったものだ。エアリスが生まれた時から辺境伯領を出るまでの事と、アレクシアたちがそれから今に至る4年間の事を。


 キャロも聞いたことがなかったので、嬉しそうに聞いており、ガリアンさんは俺が師匠からしごかれていることにほぅと感心した様子で、メリエスさんはニコニコと話を聞いている。


 そんな話を長々としていたら、気が付いたら夜になっており、俺たちは帰ることにしたのだ。ガリアンさんとメリエスさんは泊まったらどうかと言っていたが、向こうにダグリスたちを置いているので、帰らなければいけない。


 また来るという約束をして、ガリアンさんたちと別れて今に至る。馬車でゆっくり走らせても30分もかからないからな。いつでも行ける。キャロは少し寂しそうに外を見ているが。


「大丈夫か、キャロ?」


「えっ? ええ、大丈夫だけれど、どうしたの?」


「いや、ずっと、ぼんやりしているからさ」


 俺がそう言うと、少し照れたように頬をかきながら微笑む。


「心配かけてごめんなさいね。ちょっとガル兄さんのことをね」


「気になるか?」


「それはもちろん。従兄だもの」


 そう言い寂しそうに笑うキャロ。従兄か。そういえば最近は余り思い出さなくなってきたが、俺の前世にも従妹がいたな。名前は桂木 香奈で、俺の1つ年下だったと思う。


 可愛らしい女の子で、中学前から家で引き取ったんだったけ。もうこの辺の記憶は薄れてきているな。ずっと俺に引っ付いていて甘えん坊だったのを覚えている。


 俺が昔の事を思い出していると、気が付けばみんながじっーと俺を見ていた。


「ど、どうした、みんな?」


「なんだか、悲しそうな顔をしていたわ」


 とアレクシアが言う。エアリスが辺境伯領にいた頃に偶にしていた顔だわと言うが、していたのか。


「何を思い出しているかわかりませんが、私たちがいますから!」


 とヘレンさんが言う。その言葉に他のみんなも頷いてくれる。そうだな。俺が生きているのはもう前世ではなくて今だ。忘れて良い記憶ではないけど、いま思い出して、気にすることもないんだ。


「みんなありがとな」


 俺がみんなにお礼を言うと、


「もう、可愛いわね!」


 とアレクシアが抱き締めてくる。アレクシアが中腰で俺の頭を抱き締めたため、行き着く先はもちろんお胸様だ。フカフカのお胸様に顔が埋まっていく。周りから羨ましそうな声と、ひと……2人の怨嗟の声が聞こえるが、そろそろ苦しいので離していただければ有り難いのだが。


 そんな事をみんなで話していたら突然、


 ズドォーン!


 と大きな音がした。外で御者が音にびっくりした馬を落ち着かせそうと慌てる声とともに馬車が止まる。俺たちは顔を見合わせ外に出て、音の聞こえた方を見ると、それはハウテンブルク領の方だった。


 少しの間見ていると、突然煙みたいなものが立ち始める。色が白でなく少し赤いのが特徴だ。


「あれは!」


「キャロ知っているのか?」


「あの狼煙は、問題が起きた時に首都に救援を求める時に上げる狼煙よ! ハウテンブルク領に何かあったんだわ!」


 と焦った表情を浮かべるキャロ。その後もまばらにだが大きな音がし、誰かが火魔法を使ったのか煙が立ち上がる。


「……一体何が起きているんだ?」


「わからないけど、このまま見ているわけにはいかないわ!」


「そうだな。今すぐにハウテンブルク領に行くが、2つに分けよう。キャロ、君は首都に戻って教皇に話すんだ。そして援軍を連れてきてほしい」


 俺がそう言うと渋々ながらも、わかったと返事をしてくれる。本当はキャロ本人が行きたいと思っているのだろうけど、教皇に話を通すにはキャロが1番通しやすいからな。キャロもわかっているのだろう。


「それにエアリスとヘレン、ついて行って欲しい。頼む」


 2人もすぐに頷いてくれる。多分大丈夫だろうけど、首都でも同じような事が起きてあるかもしれない。その時の護衛にエアリスで、この状況をより詳しく説明してくれるヘレンを首都へ向かわす。


「御者さん。3人を頼みますよ」


「わ、わかりました。しかし残りの3人はどうするんで?」


「俺たちは走って行きます。アレクシア、フェリス行けるな?」


「もちろんよ」


「ふふっーん! 誰だと思ってんのよ!」


 俺に微笑んで返事をしてくれるアレクシアと、胸を張ってドヤ顔をしてくるフェリス。尻尾もわっさわっさと元気よく振られている。


「……頼むわねレイ」


「ああ、任せておけ。身体強化発動。行こう2人とも」


 そう言い走り出す俺たち。後ろでは手を握り祈るキャロと、馬車いらなかったんじゃとつぶやく御者がいたとか。


 俺たちが走り出して数分ほど、すぐにハウテンブルク領の門まで、やってきて気がついたが、領地から出ようと、門にごった返す住民の姿があった。


 俺たちは門の近くで住民たちを避難させている兵士に聞くことにした。


「一体何があったんですか!?」


「なんだ君たちは? 君たちも早く逃げなさい! 中で魔族が暴れているんだ!」


 魔族が暴れているだと? まさか、ギルガスを殺した事の仕返しに来たのか? 俺はアレクシアとフェリスを見回して、そして


「あっ! 君たち待ちなさい!」


 中へと入っていった。中では断続的に大きな音がし、誰かの叫び声が聞こえる。


「この音の方は……」


「ええ、ハウテンブルク枢機卿の屋敷と学園がある方よ!」


「向こうの方物凄く血の匂いが……」


 そう言い鼻を押さえ涙目になるフェリス。俺はフェリスの頭を撫でながら考える。


「もしかして学園に避難を?」


「多分ね。学園の中はいざという時に防壁がつけられているから」


 カルディア学園にもあるらしい。フェリスが落ち着いたのを見計らって、再び走り出す。そして学園に着くとそこは


「酷いわね」


「ああ」


 防壁は破られており、血塗れの兵士たちが横たわる。そして、向こうには2メートル強ある魔族と、住民を守りながら戦うガリアンさんと兵士たちの姿が見える。


「アレクシアとフェリスは住民たちを避難させて、俺は元凶を叩く!」


「わかったわ!」


「任せて!」


 そう言い別れた俺は、アイテムリングからロウガを出し、


「風魔法シルフィードブラスト身体付与、武器付与」


 俺の周りに逆巻く風が巻きつくように纏う。頭の上で、ヒカリンとマリリンが拗ねているが気にしない。放つは神速の突き。俺は魔族目掛けて走り出す。


 俺に気がついたガリアンさんが声を出すが、そのまま突っ込む。


「ガァ?」


 体を限界まで捻り、右の手のひらで石突を握り左手でロウガを支える。そして魔族の懐へ入り放つ!


「スクリュードライバー!」


 右手を捻りながら突きを放つ。回転しながら進むロウガは魔族の肉を抉りながら刺し進む。


「ガァァァァ!」


 そして吹き飛ぶ魔族。よし今の内に


「大丈夫ですか、ガリアンさん!」


「あ、ああ、助かったよレイ君。しかし、何故君がここに?」


「帰っている途中に音が聞こえたので戻ってきたのです。それで、あの魔族は何なのですか?」


 俺が魔族の事を聞くと、悲しそうな表情を浮かべる。何だ?


「……あれは、ガルレイクだ」


「……はっ?」


 俺は何を言われているのか全くわからなかった。

そこ、お酒の名前とか言わない(笑)


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