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87.もう1人の孫

「お願いしたいことでしょうか?」


 ガリアンさんがわざわざ俺にお願いするような事だ。絶対に面倒な事に決まっている。枢機卿の権限があれば大抵の事は問題無いはずだからな。


「ああ。単刀直入に言うが、孫を倒してほしい」


 ガリアンさんがそう言うので俺はキャロを見る。キャロも俺を見て首をかしげる。キャロを倒すのは骨が折れそうだが。


「ああ、言葉が足りなかったな。私には孫が3人いてな。2人は知っていると思うが、クリスティーナの子でキャロラインとクリフォードだ。それともう1人、私の息子の孫になるのだが、ガルレイク・ハウテンブルクというものがいるのだ。今年で15歳になる」


「ああ、ガル兄さんの事ね」


 まあ、キャロは知っていて当たり前か。従兄弟になるんだから。話を聞いていくとなんでも、そのガルレイクというお孫さんは、ガリアンさんの才能を濃く受け継いでいるようだ。特に格闘術を。


 しかし、その才能が高いせいで、ある程度の事はそつなくこなしてしまうため、学園での授業なども出席せず、女ばかり追いかけているらしい。他にも格闘術の才能が高い事をいい事に、暴力事件や、恐喝などもしているそうだ。


 ガリアンさんも何度も注意をしているが、その孫は話を聞かず、家にも帰らず悪い奴らともつるんでいるそうだ。


「ガルレイクが問題を起こす度に、私が捕まえて言っているのだが、私の話は中々聞いてくれなくてな。全く情けない祖父だ」


 ガリアンさんは自嘲気味笑う。その横でメリエスさんは心配そうにガリアンさんの手を握る。そういえば、


「そのガルレイクさんの両親はどちらにいるのでしょうか?」


 俺が軽い気持ちで聞くと


「……ああ、ガルレイクの父親、私の息子は5年前のレガリア帝国との小競り合いの時に戦死した。母親は元々体が病弱だってね、ガルレイクを生んだ際に、亡くなってしまった。今は私たちが親代わりだ」


 ……やべ。やっちまった。周りの視線が痛い。し、仕方ないだろ! 知らなかったんだから!


「す、すみません。知らなかったとはいえ、軽はずみに聞いてしまって」


「いや、かまわんよ。ガルレイクの事をお願いする以上、確認しておきたい事だろうからな」


 そう言い、俺に笑うガリアンさん。ただ雰囲気が少し寂しそうなのがつらい。


「そ、それで話を戻しますが、そのガルレイクさんを倒すというのは?」


「ああ、ガルレイクは先ほど話したようにかなりの才能を持っておってな、その中でも格闘術がかなりのものだ。同年代だと負けなし。四獣騎士団の中でもかなり上に行けるほどの実力だ。孫などという贔屓目なしでだ。私でも厳しいくらいでな」


 ガリアンさんは苦虫を潰したような表情をする。キャロに聞いてみても、首都でも少し評判が悪いらしい。そんなやつ、俺にはどうしようもできないんだが。


「それで俺にどうしろと?」


「ガルレイクを完膚無きまでに叩きのめしてほしい。あいつは自分の力に自信があるから周りに威張り散らしている。この領地からは首都ぐらいしか出た事が無いため、世界の広さも知らん。だからお主からあいつは弱いと言ってほしいのだ」


 井の中の蛙ってやつか。でも、俺が倒すぐらいで改心するとは思えないし、別に俺じゃなくてもいい気がするが。


「なぜ俺なのでしょうか?」


「やはりお主と歳が近いというのが大きいな。先ほども言った通り、あいつは同年代だと負けなしだ。学園でも、ふざけていても勝ってしまうのだ。かといって騎士団の精鋭と戦って負けても、大人だからしょうがないと初めから諦めておるから意味がなくてな」


 そう考えると、確かに俺に頼むのもわかる気がする。他にも色々と聞いていると、突然廊下が騒がしくなる。俺たちは顔を見合わせ、ガリアンさんのはまたか、と溜息を吐く。メリエスさんは悲しそうに目を伏せる。少しすると話し声も聞こえてくる。


「お待ちください、ガルレイク様! 今はお客様が……」


「うるせぇな、ジジイから金をもらうだけだ。黙っていろ! なぁ、ミーシャ」


「そうよ、この家の孫のガルレイクに逆らうっていうの?」


 と、そんな声が聞こえてき、ドンと扉が勢いよく開けられる。てか失礼過ぎるだろ。これが他国の重鎮とかだったら外交問題に発展するぞ。まあ、そうならないために兵士は待機させているのだろうけど。


 そして入ってきたのは、見た目からチャラ男ってわかる男が入ってくる。宝石をジャラジャラとつけて、なんかウザい。その横にはかなり露出度の高い服を着た女が立っている。胸元なんかほとんど見えて、見え過ぎて下品に見える。どっかの風俗の女性だろうか? こいつがガルレイクか。


「おい、ジジイ。金くれよ」


「ガルレイク! 今は客人がいるのが分からんのか! そこにズカズカと入って来よって!」


「うるせぇな。グダグダ言ってねぇでとっとと金渡せよ。今からミーシャと遊びに行くんだからよ!」


 そう言いガリアンさんの胸元を掴むガルレイク。こいつやり過ぎだろ。


「や、止めなさいガルレイク!」


「あん? うるせぇんだよ、ババア!」


「きゃあ!」


 あまりにもひどかったので、メリエスさんがガルレイクを止めようとすると、逆に逆上したガルレイクに突き飛ばされてしまう。


「やめなさい!」


 あまりの酷さに、アレクシアが立ち上がり怒る。俺たちも黙って見ていられない。みんな立ち上がりガルレイクを見る。


「なんだよ、てめえらは。俺たちの問題に口出すんじゃねえよ」


「なら、私は良いわよね、ガル兄さん」


「あん? ……なんでてめえがここにいるんだよキャロライン」


 キャロがいることを今初めて気づいたようで怪訝な顔をするガルレイク。それと同時に掴んでいたガリアンさんを突き飛ばす。


「ぐはぁ!」


「あなた!」


 突き飛ばされたガリアンさんの側に行くメリエスさん。俺もアレクシアたちも、そろそろ我慢の限界だけど、キャロが少し話をするようだから何とか我慢する。


「ガル兄さん。いつまでこんなくだらない事をやっているのよ。恥ずかしいと思わないの? ジルおじ様が亡くなってから、毎日毎日こんなくだらないことして。天国で見守っているおじ様もおば様も悲しむわよ」


「うるせぇなぁ! てめえに指図される謂れはねえ!」


 ガルレイクは自分の拳に魔力を纏わせてキャロに殴りかかろうとする。キャロは障壁を張ろうとするが、そこに


「なっ! なんだてめぇは!」


 俺がキャロとガルレイクの間に立ち、ガルレイクの拳を掴む、自分の自慢の拳が防がれるとは思わなかったのだろう。驚いた表情を浮かべるガルレイク。師匠の拳やギルガスの拳に比べたら、この程度軽すぎる。


「俺か? 俺はキャロの婚約者だよ。人の婚約者を傷つけようとしたんだ。覚悟しろよ?」


 顔面中心にボコボコにしてやる。

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