83.1つの決意と指輪
俺はキャロと一緒にクリスティーナ様のところへ向かう事にした。ただ1つ問題なのが婚約者も一緒に連れて来いという事だ。
婚約者を連れて行くのは別に問題では無い。それなら何が問題かというと、誰を連れて行くかになる。
キャロは当然連れて行くだろう。逆に連れて行かなければ殺される。アレクシアとフェリスも連れて行く。こちらは親公認だからな。クロナはいないから当然抜いて。
問題はヘレンさんとエアリスだ。この4年間一緒にいるから2人が俺に対してどの様な感情を持っているかはわかる。前世のラノベにある様な鈍感系主人公では無いからな。だけど婚約者では無い。それどころかそういう気持ちを聞いた事が無い。……俺の勘違いかな?
俺が悶々と考えているとキャロが
「気になるなら聞いてみればいいじゃない?」
いや、簡単に言うけど「俺の事好きですか?」なんて聞けないだろ。ましてやエアリスは半分血を分けた姉弟だ。俺が聞いても答えないだろう。この世界では近親婚は認められているとはいえその数は少ない。それに周りの貴族が黙っていないだろう。
エアリスはかなりモテる。成績優秀、容姿万端、誰に対しても優しくて(学園内では)生徒会副会長という認められた者のみがなれる役職にも付いている。そのおかげで貴族からの求婚が後を絶たない。
エアリス宛のジークからの手紙にも周辺貴族からの求婚が後を絶たないと書いていたと言っていたし。
ヘレンさんはヘレンさんでモテる。この国の宰相であるラルグルス侯爵の長女で、俺も学園に入ってから知ったのだが、かなりの天才との事。今まで読む事のできなかった書物を解読した事もあるらしい。
……別に俺じゃなくても良い様な気もするが。まあ、それを言ったらアレクシアたちも俺には勿体無いほどの良い女性たちだ。
ただ俺の気持ちは、最低かもしれないが一緒にいたいと思っている。この4年間みんなで過ごしたが、1人でも抜ける事なんか考えられない。
「……やっぱり聞かないとダメかなぁ」
「当たり前よ。私ですらエアリス姉さんや久しぶりに会ったヘレン姉さんの顔を見たら、ああ、好きなんだってわかるほどなんだから。久しぶりに会った時のヘレン姉さんの変わり様にはびっくりしたほどなんだからね」
そう言い笑うキャロ。俺は少し気が重くなりながらもみんなの元へ行く。このままなぁなぁにしておく訳にもいかないし。とりあえず会わなければ。
みんなアレクシアの部屋にいるらしい。キャロと一緒にアレクシアの部屋に辿り着き、部屋付きの侍女へ確認してもらう。少ししてから侍女が出てきて許可が出たので中へ入ると、
中にはみんないた。……何してたんだろう。お茶を飲んでいたわけでも無さそうだし。
「あらレイどうしたの? キャロも」
「ああ、実はクリスティーナ様から呼ばれてね。今から行くところなんだけど」
「?」
俺の歯切れが悪いのに気がついたのか首をかしげるみんな。言いづらいけど言うしかないか。
「クリスティーナ様には俺だけでなく婚約者も連れて来いって言われてね」
俺がそう言うと2人は変わらずに、もう2人は少し気まずそうに目をそらす。もちろん前者はアレクシアとフェリスで後者はヘレンさんとエアリスだ。
「そうなの。それなら行きましょ」
そして直ぐに立ち上がろうとするアレクシア。それを
「少し待ってくれないかアレクシア」
俺は止める。話をしないといけないからな。するとアレクシアはニヤッと笑みを浮かべ頷いてくれた。……見透かされているな俺。俺は頭を掻きながら机の下まで歩きヘレンさんとエアリスを見る。
「どうしたの? 早く行かないとクリスティーナ様を待たせるわよ?」
「そうですよ。お待たせしたら悪いですよ」
2人はそう言う。だけどここで引いたらもう言えない。
「2人にも来て欲しい」
「「……何処に?」」
なんでそこで2人揃って疑問形なんだよ。今までの話の流れでわかるだろ。
「俺たちと一緒にクリスティーナ様の元へだ」
俺がそう言うと2人は驚いた表情を浮かべる。何かを言う前に畳み掛ける。
「2人の気持ちはわかっているつもりだ。この4年間一緒にいたんだから。姉上の事もちゃんと父上とエイリーン母上に話すよ。ヘレンさんも宰相にちゃんと話す。こんな最低な事を言う俺だけど一緒に来て欲しい。これからの人生を……みんな俺と歩んで欲しい」
そう言えばアレクシアたちにもはっきりと伝えていなかった。俺はアレクシア、フェリス、キャロ、ヘレンさん、エアリスの順に見回す。
アレクシアはわかっているわよって雰囲気で、フェリスは嬉しそうに尻尾を振っている。キャロは目を閉じて頷いて、ヘレンさんは……号泣している!? そんなに嫌だったのかな。俺の勘違いか! エアリスは上を向いて黙っているが。
「も、もしかして、俺の勘違いかな? 勝手に2人が俺の事好きだと思い込んでいただけで……」
やばい。そう思い始めたら背中から冷や汗が。半端ない量出てくる。しかし
「ち、違いましゅ! あ、余りにも嬉じぐで! 私実は諦めようと思っていたんです。レイ君の周りにはアレクシア様やフェリス様、エアリスちゃんもいるし、それにキャロライン様も加わり、戦えない私なんて邪魔じゃないのかって思っていて」
目元を擦りながら話してくれるヘレンさん。確かにヘレンさんは魔法は使えるが戦いは出来ない。だけど
「俺にはそんなこと関係ないよ。俺は側にいて色々と教えてくれるヘレンさんが好きなんだ。これからも色々と教えて欲しい、ヘレンさ……ヘレン」
俺がヘレンを呼び捨てにすると、驚いた表情を浮かべ見てくるが嬉しそうに頷いてくれる。多分これもヘレンが一歩引いていた理由なんだと思う。アレクシアたちは呼び捨てにして、ヘレンだけさん付けにしていたから。これも気にしていたんだろう。
次はエアリスだが、顔を上げたままこっちを見てくれない。どうしたんだ?
「姉上。どうしました? やっぱり嫌で「違うわ!」え?」
俺が言おうとすると、エアリスに遮られた。目には涙を溜めている。泣くのを我慢していたのか。
「私もレイと一緒になりたい。でも、私たちは姉弟で世間には何て言われるかわからない。だから諦めようと思っていたの。これからは姉として支えようと思ってこの旅について来たのに……そんなこと言われたら決心が鈍るじゃない……」
今度はそのまま俯いてしまうエアリス。俺はそのままエアリスを抱き締める。
「姉上、俺は周りに何と言われようと気にしない。姉上がその事で、辛い思いをするのが嫌だと言うなら諦めるが、それでも俺といたいと言うなら俺は何としてでも姉上を守る。だから一緒にいてくれ」
俺がそう言うと、エアリスは俺の胸に顔を埋めながら何度も頷いてくれる。そして後ろでは
「そうよ、うちなんか男同士で結婚する人もいるんだから気にすることないわよ!」
とフェリスが言う。……それを聞くとなんか大丈夫な気がするな。少し落ち着いたのかヘレンとエアリスもクスクスと笑う。
それから数分ほど泣き止んだ2人とアレクシアたちを伴って部屋を出る。その際エアリスが
「これお父様からレイに渡してって。預かっていたの。後で見て。それから私の事は呼び捨てで呼んで」
と言われた。手紙についてはこのタイミングで渡すという事は、エアリスとの今後の関係について書かれているのだろう。呼び捨てについては頑張るしかないな。
「わかったよ、エアリス」
俺が呼び捨てにするだけで、輝かんばかりの笑顔だ。
そんな事もありながら俺たちはクリスティーナ様の元へやって来た。言われてから結構経つが、怒ってなきゃいいけど。
クリスティーナ様の部屋までやってくるとキャロが取りつぐ様に言い、侍女が中へ入る。その後すぐに許可が出たので中へ入ると
「あら、遅かったわね」
と優雅にお茶を飲んでいるクリスティーナ様がいた。
「はは、少しありまして」
俺が笑いながら入ると、クリスティーナ様は特に気にした様子もなく座るように促す。なら何で言うんだよ。と思ったが口には出さない。そしてみんなが座ると、クリスティーナ様はヘレンとエアリスをじっと見る。何だろう?
「やっぱりあなたたちも来たわね」
クリスティーナ様がそう言うとヘレンとエアリスがビクッと震える。これは
「クリスティーナ様、これにはわけ「無駄にならなくてよかったわ」え?」
俺が立ち上がって訳を言おうとしたら、クリスティーナ様がそう言う。
「なに? もしかして私が怒るとでも思った? キャロラインを蔑ろにしなければ何人いても怒らないわよ」
そう笑うクリスティーナ様。なんだ、良かったぁ。俺は安心して座り込む。それと同時にクリスティーナ様が何か箱を机に置く。何だろう。
「前から女神の加護付きペアリングってのが流行っているみたいね。これはそれの元となった指輪よ」
そう見せてくれたの綺麗に青く輝く宝石が付いた指輪だった。
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