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82.終わった後の色々

「行くぞレイ!」


 そう言いながら、盾を前に出しながら剣を構え走ってくるダグリス。その後ろではレーネが魔法を放つ準備をする。ダグリスより先に魔法を放とうとするレーネを止めたいところだが


「はぁ!」


 別の方からエレアが身の丈ほどある斧、バルバトスを振り下ろしてくる。ロウガでバルバトスを反らすが、そのままバルバトスを掬い上げるようにしたから振り上げる。


 俺は後ろへ下がる事で避けるが、その隙に近くまで迫っていたダグリスが剣を振り下ろす。ダグリスの剣をロウガで弾きながら俺は踏み込みダグリスの腹へと掌底打ちをお見舞いする。


 ダグリスは「ぐへぇ!」と言いながら転がっていくが直ぐに立ち上がる。あまり力は入れずに当てただけだからな。


 俺がエレアとダグリスと戦っているうちに準備が出来たのかレーネが魔法を放つ。


「アースニードル!」


 発動した魔法は、俺を囲うように地面から土の針が俺目掛けて飛び出してくる。……これ俺を殺す気だよね。レーネの手加減なしの魔法に冷や汗をかきながらも俺は高く飛び上がる。


 よし、今度はこっちから攻めるか。俺は空中に風魔法で空気を圧縮し足場を作る。もって数秒だからあまり長い事使えないが、空中の足場には十分だ。


 風魔法の足場を蹴り出し、まずはダグリスへ接近する。速さはダグリスが反応できる速度の少し上の速さで突きを放つ。


「うおっ! せい! ちょっ! うおおっ!」


 なんとか反応するダグリスだが、少しずつロウガが掠っていく。そして、そのダグリスを助けるようにエレアとレーネが攻撃してくる。


 しかし、俺はダグリスの剣、エレアの斧、レーネの魔法の攻撃がある中、当たる事なく攻め続ける。


 そして


「あっ!」


「っ!」


 隙の出来たダグリスとエレアの武器を弾き飛ばし、2人がよろめいている間に、レーネの喉元へと槍先を突き立てる。レーネは降参の意味で両手を頭の横は上げる。


「勝者はレイ、っス」


 審判役であったケイトがそう宣言する。まあ訓練みたいなものだから勝ち負けは別にいいんだが。


「あぁ〜! 全然攻撃が当たる気がしねぇ〜!」


 ダグリスはその場で寝転び、エレアはぷくぅーと頬を膨らませて俺を見てくる。なんか懐かしいなそれ。


 レーネはダグリスの元へ行き怪我が無いか確かめている。……もう付き合ってもいいんじゃ無いかお前ら。


「しかし、本当に速いっスねレイは。しかも本気の半分も出してなさそうっス」


 ケイトの問いに俺は頭を掻く事しか出来ない。ケイトの隣でエマがうんうんと頷いている。エマは多分魔力的な観点からそう言っているのだろう。しかしこの感じいいな。ゆったりと過ごせて。2週間前のあれに比べたら。


 あれとは魔族ギルガスと古竜の襲撃の事だ。あれから2週間が経とうとしていた。


 俺はあの後、気を失う事は無かったが、2日ほど体を動かす事ができなかった。魔力枯渇による怠さで体に力が入らないのだ。まあ、気を失っていた時に比べたらマシな症状らしいのだが。少しは成長しているという事だろう。


 あの時かなりの魔力を使ったキャロも1週間程寝込んだままになっていた。4日目ぐらいに目を覚ましたのだが、俺と同じ様に魔力枯渇による怠さで動けなかった様だ。


 俺も体を動かせる様になってからお見舞いに行ったのだが、顔色が真っ青を通り越して、土色になっておりかなりしんどそうだったのを覚えている。後でアレクシアに聞いた話だが、俺も倒れる度に顔を真っ青にしていたそうだ。


 ……それはかなり心配をかけてしまっていたんだなと申し訳ない気持ちになった。だからお詫びに何かしたいと聞いたら、何か怖い笑みを浮かべて考えておくと言っていたのを思い出す。……何言われるのだろうか。


 教皇が相手していた古竜は、ギルガスが灰になって消えたときに同じ様に灰になって消えたそうだ。どういう原理なのかはわからないが、教皇が言うには契約が何かしていたのだろうとの事。


 そして今回の襲撃の被害は、古竜が攻めてきた西側の門が崩落し、街中は俺とギルガスが暴れた傷跡が残っている。死者は騎士団200名ほどとの事。かなり少ないと教皇は言っていたが。


 たしかに昔の資料の様に、古竜の襲撃で領地が滅ぶ事を考えれば、ほとんど被害が無かったと考えて良いのだろう。これもキャロの障壁のおかげだと教皇は笑っていた。


 騎士団の亡くなった人の内には白虎騎士団の団長と、青龍騎士団団長のセルパンが入っていた。白虎騎士団の団長はギルガスに突撃した時で、セルパンは話に聞くと崩落に巻き込まれたらしい。


 崩落の現場から死体が確認されているので確かな情報だろう。逆に白虎騎士団の団長は死体は原型を留めていなくて、着ていた鎧だった物が騎士団長のものだと判断できたため確定したそうだ。


 まあ、竜が攻めてきたのだ。亡くなる方もいると割り切るしか無いだろう。問題はその後だ。


 教皇が、亡くなったセルパン団長の屋敷を調べたらしい。教皇は前からセルパンが何か裏でやっていると怪しんでいたらしく、調べていたのだが、なかなか尻尾を出さなくて困っていたらしい。そこに本人が亡くなったので、強硬手段で屋敷を調べたと言っていた。


 あまり外聞的には良く無いと言いながらも調べた結果、色々と出てきたとの事。汚職に賄賂、殺人に誘拐など。様々な事をセルパンはしていたらしい。地下には10歳前後の男の子たちが監禁されていたのを保護したと言っていた。


 男の子たちの話を聞くとほとんどが誘拐されたらしい。しかもさせていたのがあのプリシアさんたちを誘拐した金貸したちとの事。まさかここで繋がるとは思わなかった。教皇もキャロからその話を聞いていたため俺たちに話してくれたとの事。


 俺たちが気付かずにそのまま誘拐されたままだったら男の子はセルパンの元へ、プリシアさんたちは想像通り奴隷商に売られていただろうと教皇は話す。


 しかもその犯罪の揉み消しにグルン枢機卿まで関わっていたという話だ。その事がばれたグルン枢機卿は自領に逃げようとしたところを教皇に捕まり、今は投獄されている。


 セルパンの誘拐にも力を貸し、そのお礼に金貸しから貰っていた上納金や、誘拐していた男の子をグルン枢機卿に渡していたらしい。もちろんグルン枢機卿の屋敷から男の子は出てきた。


 グルン枢機卿への対応としては、位については剥奪され死刑らしい。グルン枢機卿……元枢機卿も首都にある屋敷を調べただけで色々と出てきたので自領を調べても他にも出てくるだろう。


 その様な事があり宮殿の中は一時物凄く騒がしかった。今は少し落ち着いているが、枢機卿枠の1つ、騎士団長枠が2つ空いているため、水面下でみんなが争っていると笑っていた。


 そんな事がこの2週間あったなぁ〜と考えていると


「レイ、今大丈夫?」


 とキャロがやって来た。寝込んでたときに比べて顔色がかなり良くなっているので少し安心だ。あの時は本当に心配したからな。そんな事を考えていたら俺は無意識にキャロの頬を撫でていた。


「ひゃあ! な、なに!?」


「あ、ご、ごめん。以前より顔色良くなったなと思ったら撫でていた」


 俺がそう言うとキャロは顔を真っ赤にして「バカ」と小声で呟く。ダグリスやケイトが「リア充死ね!」と言う声が聞こえるが無視だ。っていうかどこでその言葉を覚えた? 少し気になる。


「ごほんっ! そ、それでどうしたんだキャロ? 何か用事か?」


「え、ええ。実はお母様がレイを呼んでいて。他の婚約者も連れて来なさいって言っていたわ」


 クリスティーナ様が俺を? しかも他の婚約者まで。何の用だろう?

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