75.4本腕の魔族
ドラゴンの背から降りた魔族は、笑いながら門へとやって来る。まるで散歩をしているかのように悠々と。あの魔族の雰囲気はあいつに似ている。森で出会った七魔将に。
初めは驚いた騎士団たちだが、次第に魔族へも魔法を放つ。しかし、魔族が大木の様に巨大な腕を振る風圧だけで魔法が消し飛ぶ。
「なんだよそれ! 遊んでんのかぁ! 烈風拳!」
魔族が拳に魔力を纏わせ突きを放つ。すると見えない塊の様なものが放たれる。
「通さないわよ! "聖絶"」
キャロが障壁で防ぐ。それを見ていた魔族がニヤリと笑う。
「今のが聖女とやらの障壁か。面白え。どこまで持つか試してやる、烈風連弾!」
魔族が4本の腕に魔力を溜めそして拳打を放ってくる。キャロは魔族の攻撃を歯を食いしばって耐える。
「凄えじゃねえか! アルトラもやってみろ!」
「ギィガァァアア!」
魔族の声に反応したドラゴンが魔法を発動する。周りに直径1メートル程の火の玉を何個も出現させそして、壁上目掛けて放ってくる。
「っ! "聖絶"」
キャロは左手を魔族の方へ、右手をドラゴンの方へ向けると、それぞれに障壁が発動する。今はなんとか防げているが、キャロの魔力がもつか。
そんな事を考えていると、門が開きだす。そんな予定はなかったはずだが……。そして門から現れたのは
「白虎騎士団、あの魔族を討ち取れ! 突撃!」
白い鎧を着た騎士団だった。白虎騎士団の騎士団長が先頭に魔族目掛けて走り出す。
「なんだてめぇらは。雑魚に用はねえんだよ!」
騎士たちは魔族に斬りかかろうとするが、魔族はまるで自分の周りに飛ぶ小蝿を振り払うかの様に腕を振る。それだけで騎士たちは吹き飛ばされる。
……吹き飛ばされた人たちはみんな死んでいる。誰かってまだ分かるだけマシな方だ。酷いものだと肉片になって誰だかわからない。
そして、騎士たちが、距離をとったのを見計らって、魔族は突撃してくる。体中に魔力を纏わせている! まずい!
「"聖絶"!」
キャロもまずいとわかったのだろう。焦った様子で障壁を張る。しかし
「邪魔だぁ!」
魔族は気にせずに突っ込んでくる。そして
バリィン!
と割れる音がする。
「きゃああ!」
キャロの方を見ると両腕から血が流れている。あの音は障壁が割られた音か! その反動がキャロにも来たのだろう。俺がキャロの元へ近寄ろうとした瞬間に
「うぉっ!」
門が揺れる。魔族が壁に激突したのか。魔族がぶつかった場所の壁は崩れていき、上にいた騎士たちは崩落に巻き込まれる。逆に下から
「見つけたぞ、聖女!」
魔族が飛び出してくる。周りの騎士たちは恐慌状態に陥り、魔族を見ては逃げ惑うだけだ。キャロはさっきの反動のせいか、座り込んでしまって動けない状況だ。フェリスが側に寄って、アレクシアとエアリスは剣を構える。俺もロウガを構える。
「あぁん? 何だよ女子供ばっかりじゃねえか。これじゃあ楽しめねえかよ」
そう言いながらキャロ目掛けて拳を振り落としてくる。だけど
「カオスボルテックス身体付与、武器付与!」
黒雷を身に纏いキャロと魔族との間に入り込む。そして迫り来る拳を槍で弾く。ぐぅっ! 何て重さだ。見た目通りのパワータイプか。スピードはアゼルよりは遅い為何とかなるが。
「ほおう。やるじゃねえか。もっと楽しませてくれよ?」
魔族がそう言うと4本の腕がそれぞれ迫り来る。ちっ! これはやばいぞ!
「アレクシア! みんなを連れて下がれ!」
俺はアレクシアの返事を待たずに魔族を見据える。教皇は1人でドラゴンを相手している為こちらには来られない。こいつの狙いはキャロみたいだから、何としてでもキャロを守らないと。
「はぁぁあ!」
身体付与と武器付与を追加し魔族の拳を迎え撃つ。嵐の様に降り注ぐ拳打を俺はロウガで弾く。1発1発が重過ぎるだろこの野郎!
右上の腕をしゃがんで避けては、左下の腕が振り上げる様に殴りかかる。ロウガで左下の腕を弾くが、今度は右下の腕が殴りかかってくる。それを飛んで避けると、目の前に左上の腕が迫り来る。
「くっ!」
これは避けきれないぞ。俺はロウガで左上の腕を防ぐ。しかし、空中だった為耐え切れず、そのまま吹き飛ばされる。アレクシアたちの叫び声が聞こえるが、構っている暇はない。
俺は直様、体勢を立て直し、魔族へと迫る。今度はこっちの番だ。魔族は初めにやったように魔力を纏わせた突きを放ってくる。
速度はさっきの拳打に比べたら遅い。当たりそうなやつだけロウガで防ぎ、それ以外を避ける。
「しゃらくせえ!」
俺が魔族の元まで近づいた為、魔族の拳打が再び降り注ぐ。今度は避けずに全ての拳打を弾く。1発1発が重い為、床にヒビが入る。しかし、気にする暇もなく魔族の攻撃は止まない。
弾いて弾いて弾いて弾いて……ここだ!
魔族の拳打を弾き返してできた隙に入り込む。そして
「黒雷の撃槍!」
魔族の原目掛けで黒雷の撃槍を放つ。黒い雷が迸り魔族に当たった瞬間雷鳴を轟かせる。魔族の男は吹き飛び、壁上から落ちたが……あの手応えは。
「レイ、大丈夫!?」
アレクシアたちが寄ってくるが、気にしている暇はない。何故なら
「はっはっはっ! やるじゃねえか! もっと楽しませてくれよ!」
魔族の魔力が急激に膨れ上がったからだ。俺の攻撃は効いているのは効いているようだが、目立った傷はあまり無い。頑丈だな〜。
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