70.救出
「きゃあっ!」
私は男に投げ飛ばされます。周りには20人ほどの屈強な男たち。みんな剣や斧など武器を持っています。ここは金貸しのアジトなのでしょう。
私と子供たちはこの男たちに誘拐されました。私の周りにはメイちゃんやロイくん、教会の子供たちが全員で5人。みんな腕を縄で縛られて動く事ができません。
さっき子供たちと外で野菜の収穫をしていたのですが、急に視界が真っ暗になってびっくりしていたら無理矢理、馬車へ押し込まれ連れて来られました。
「へぇ〜、まあまあ可愛いじゃねえか」
私が子供たちが無事かどうか確認していると、後ろからドスの効いた声が聞こえてきます。私はその声に背筋が震え、恐る恐る見ると、そこには2メートル近くの身長がある男がいました。背には巨大な両刃の斧を背負い、ニヤニヤした顔で私たちを見てきます。この人がリーダーなのでしょうか。
「わ、私たちをどうするのでしょうか?」
私は震える手を握りリーダーと思われる男へ問いかけます。何を言われるかはわかっているのですが、聞かずにはいられませんでした。
「あん? そんなのわかってんだろ? ガキどもは奴隷商に売り飛ばし、お前はお得意様の慰み者になってもらう。気をつけろよぉ〜、お得意さんの中には変態がいるからな。それで何人死んでることやら」
そう言い笑う男たち。私は恐くなって震える体を止める事ができませんでした。子供たちを守らないといけないのに口が動いてくれません。
「まあ、嬢ちゃんがガキどもの分を稼いでくれるって言うんなら、ガキどもは売らないでいてやるがな」
とリーダーの男がニヤニヤとした顔で私へ言ってきます。そんな事は信じられません。絶対に私に稼がせている間に子供たちは売られるでしょう。だけど、私に子供たちを守る方法はこれしかないのも確かです。
「あ、そうそう、騎士どもの助けは来ないからな。俺たちのお得意様の1人に大司教殿がいるからな。しかも団長だから騎士たちへ命令が出来るんだよ。不思議に思わなかったか? いくら助けを求めても騎士たちは動いてくれなかっただろ? この近辺の担当は全員その団長の騎士団だからだ」
そう言いまた笑うリーダーの男。まさか騎士団の方たちも金貸しの仲間だったなんて。だからいくら言っても話を聞いてくれなかったのか。
「お、お姉ちゃん」
私が考えていると子供たちが私を見てきます。信用は出来ませんが子供たちを守る可能性があるなら私は、
「わ、わかりました。私がお金を稼ぎます。なので子供たちはみんな帰して下さい!」
「カッカッカ! 言ったな嬢ちゃん。手足がもがれようとしっかり稼いでもらうからな。もしお前が死んで稼げなくなったらその時はガキどもは売らせてもらう」
そんな! 途中で私が殺されたりしたら子供たちが……。
「おい、てめえら、味見していいぞ。その代わり壊すなよ」
リーダーの男がそう言った瞬間、周りの男たちは歓喜に叫びます。そして私へ近づいてきます。ま、まさか
「ヒッヒッヒ、さすが兄貴、太っ腹だぜ! おい女、ガキどもの前で犯してやるよ!」
そして男はナイフを取り出し、縛られていた縄を切ると、後ろから別の男が私の手を頭の上で掴み、今度は手首を縄でくくります。そして私の服を掴むと思いっきり引っ張りそして、
ビリビリビリ!
と服を引き裂かれます。修道服だったのでそれだけで体が露わになります。あとは下着のみ。そして上の下着は男に剥ぎ取られました。その瞬間、私の中の最後の壁が壊れた気がしました。恐怖で体が震え、目からは涙が溢れます。
「今更泣いても遅えぞ! ヒッヒ、少し痩せているが綺麗な胸をしてるじゃねえか!」
そう言いながら男は私の胸を掴んできます。痛い! そう思いますが私は恐くて声も出せません
「お姉ちゃん! お姉ちゃんを放せ!」
ロイくんが怒ってくれますが、周りの男たちは笑うだけ。
「ガキども見てろよ。この女が泣き叫ぶ姿を!」
そして男は下の下着へと手をかけてきます。私はあまりの恐怖に目を瞑ってしまいます。
すると、初めては好きな人にあげたかったと、全く的外れな思いが頭を過ぎりました。そして思い浮かぶのは1人の男の子。まだ私より歳下だろうけど、しっかりとした雰囲気のある子で、私たちを助けてくれた男の子。
昨日からずっと頭に残っていて、ベッドの中でも夢の中でも出てくる男の子。この人を思いながらなら私は耐えられるかな?
そう思い歯をくいしばる私。そして下の下着が下される瞬間
ドガァン!
と轟音が鳴り響きます。私は目を開け音のした方を見ると、鉄の扉が歪な形に壊されているではないですか。周りの男たちも唖然として扉の方を見ます。そして足音が聞こえ入ってきたのは……1人の男の子と2人の女の子でした。しかし私の目には男の子しか写りません。
ああ、胸が温かくなります。私が思っていた男の子が、私の視線の先にいます。男の子は青白い光を身に纏わせ、怒りの形相で男たちを睨みつけます。
はうぅ! こんな時に不謹慎かもしれませんがかっこいいです……。私の思い人。
レイさん
◇◇◇
俺たちは今、金貸しのアジトと思われる場所へと辿り着いた。一緒に来たのはフェリスにキャロだ。アレクシアは治療の為教会に残ってもらい、その護衛としてエアリスにも残ってもらった。アレクシアなら大丈夫とは思ったのだが万が一があってはいけないからだ。
俺たちはシスターに言われた金貸しの店へ行ったのだが、中には下っ端しかおらず無駄足になってしまった。そして、そいつらに聞き出してやって来たのがこの倉庫みたいなところだ。
この地区は商業地区らしく、その店から離れた場所に倉庫が建ち並んでいる。この中に金貸しのアジトがあるらしい。
似たような倉庫が建ち並ぶので、どれかわからないがここでフェリスの出番だ。俺は昨日もらった野菜を入れていた布袋をアイテムリングから取り出し、フェリスに匂いを嗅がせる。そして
「こっちよ」
フェリスに案内してもらう。この姿をたまに見るが犬みたいだ。言ったら怒られるんだけど。フェリスに案内されること数分。フェリスが立ち止まり1つの建物を調べる。やっぱり他の建物と違いがわからん。けどフェリスは
「ここの倉庫から袋に付いた匂いがするわ」
という。確かに気配察知で中から反応するがある。30人程か。俺がお礼にフェリスの頭を撫でてあげると、嬉しそうに尻尾をフリフリと振る。可愛い。
「よし、2人とも少し離れてくれ」
俺は2人にそう言い離れたのを確認すると、ライトニングの身体付与をかける。そして左手に魔力を溜め、思いっきり扉を殴る!
ドガァン!
鉄の扉だったが、問題なく殴り飛ばせた。そして中へ入るとそこには、修道服を破かれて裸になっているプリシアさんと、襲おうとする男たち。そばで縛られている子供たちもいる。なんとか間に合ったみたいだが。
俺は無言のままプリシアさんの元へと歩く。突然の事で呆然としていた男たちだが正気を取り戻したのか俺の元へ寄ってくる。
「おい小僧! ここがどこだかわかっ……グヒャア!」
俺は無言のまま男を殴り飛ばす。右手で男の顔面を思いっきり殴り飛ばし、吹き飛んで行った。死にはしていないだろうが、お前らの事を気にする気は無いんだよ。
そして俺はプリシアさんの上で未だに固まっている男を蹴り飛ばす。男は血反吐を吐きながら地面を何度も跳ね返り壁に激突する。あまりの怒りで、手加減が出来なかった。後悔はしていない。
プリシアさんの元へと辿り着くとアイテムリングから寒かった時用に買ったマントを取り出し、プリシアさんにかける。あの格好はちょっと困るからな。俺はプリシアさんに
「もう大丈夫ですから」
と微笑みながら言う。するとプリシアさんは突然泣き出してしまった。よっぽど怖かったのだろう。子供たちはフェリスが確保してくれて、そばにキャロが防壁を展開しながらいてくれる。これが絶壁か。薄く光る膜の様なものがプリシアさんたちを包む。
「ここは気にしないで暴れて良いわよ」
キャロがそう言うならそうさせてもらおう。俺は男たちを見回しそして
「覚悟しろよお前ら」
絶対許さないからな。
評価等よろしくお願いします!




