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68.語らい

 う〜ん。俺も女神の加護を持っている事を伝えるべきか。そんな事を1人で唸りながら考えていると


「急にどうしたのよ、1人で唸りだして。あなたも女神の加護持ってるとか? ふふ、そんなわけ無いわよね。あなたも持ってたら嬉しかったなってだけだから気にしな……なにその顔?」


 多分俺はとんでもなく間抜けな顔をしていたんだろう。キャロが物凄く怪訝そうな顔で見てくるからな。


「よくわかったな俺が持っているの」


「……は?」


「……は?」


 俺がキャロに聞くとキャロが首を傾げるので、俺も傾げる。するとキャロが反対に首を傾げるので、俺もついていく様に首を傾げる。なんかデジャヴ。


「って、ちがーう! どういう事よ。あなたも持っているって!?」


 キャロは興奮しているのか席を立って机に手を付け前屈みになりながら俺を見てくる。そんな力強く見られたら照れるじゃ無いか。っと、照れている場合じゃ無い。説明しなければ。


「その言葉の通りだよ。俺もキャロと同じ女神の加護を持っている」


 俺がそう言うと、キャロは力無くソファーへと座り込む。そして顔に手を当て


「はは、ははは! こんな日ってあるの? 私の事を見ても気にしないって言ってくれる人と初めて出会った日に、まさか同じ人が私と同じ加護持ちなんて。ははは、ははははは!」


 ……ここからでは彼女が泣いているのか、笑っているのかは、顔を手で覆っているのでわからない。だけど彼女の心の叫びは聞こえた気がした。


 ◇◇◇


「……ふぅ〜、ごめんなさいね。余りにも嬉しすぎて笑ってしまったわ。それであなたが持っているのは聞いても良いの?」


 とキャロは目を拭いながら言う。彼女がそう言うならそうなのだろう。あまり詮索しても良い事は無い。取り敢えず俺も話すか。


「もちろんだ。俺が持っているのは称号で『限界なき者』っていうのと『困難に見舞われし者』っていうのがある。『限界なき者』は俺のステータスのレベルの上限が無くなり、努力次第では全てのスキルを取る事ができる。

 もう一つの『困難に見舞われし者』は、俺がこれから過ごす人生で色々な困難に見舞われる事になるが、それを乗り越えると大幅にステータスが上昇するっていうのだ。どうだ?」


 俺がキャロに聞くと、キャロは、はぁーと溜息を吐いて俺を見てくる。何だよ?


「あなたもなかなか苦労しているのね。困難に立ち向かうために、限界なき者で力をつけるのか、限界なき者で力をつけているから、困難に見舞われるのかわからないわね」


 とクスクスと笑うキャロ。そんなの俺が聞きたいよ。


 その後も2人で他愛のない話をしながら2人で笑って話していると、扉をノックする音が聞こえる。それにキャロが返事をすると、


「失礼します、キャロライン様。もうそろそろお時間です……の……で……え?」


 入ってきたのはメリーさんだった。しかし、俺とキャロが座って話しているところを見て驚き固まってしまった。何なんだ?


「どうしたのよメリー。そんな驚いた表情をして」


「い、いえ、何でもありません。それより礼拝のお時間になりますのでご準備をお願いします」


「あら、もうそんな時間なのね。楽しい時間はあっという間に過ぎちゃうわね。ごめんなさいねレイ。この礼拝に私が出ないと、他の大司教たちが煩いのよ。女神の加護持ちの聖女様が出なくてどうするのですか! ってね。女神の事を信仰するのはいいけど、それを私に押し付けないでほしいわね」


 そう言うとはぁー、と溜息を吐くキャロ。教皇の娘がそんなことを言ってもいいのかなと思ったりしたのだが、言わないでおこう。藪蛇を突きそうだ。加護持ちのあなたも出て! とか言われそうだし。


「そうか、それは仕方ないな。俺も部屋に戻るよ。頑張ってなキャロ」


「ふふ、あなたにそう言われると嫌な事も楽しく感じてしまうわね。今日の夕食はお父様が歓迎会を開くって言っていたから楽しみにしていてね」


「ああ、楽しみにしておくよ。それじゃあまた夕食に」


「ええ」


 俺が部屋を出ようとすると、キャロは胸の前で手をフリフリとして見送ってくれる。そして部屋を出ると、


「何をしたのですか?」


「え?」


 メリーさんが俺に尋ねてくる。何をしたと言われても、ただ話をしたとしか言えないよな。


「特には何もしてないよ。ただ普通に話しただけだ」


 俺がそう言うとメリーさんは


「そう、ですか」


 と言ったまま黙ってしまった。ただ案内はしてくれているようなので、部屋まであとをついて行く。


 また、気まずい雰囲気の中、部屋へ戻っていると前からでっぷりと太った男が歩いてくる。誰だあれ? 俺が見ているとメリーさんは横に少しずれて礼をする。俺はしなくても良いよな。……良いよな?


「おやおや、これはメリー殿では無いか。聖女様はまだ準備は出来ておらぬのかな?」


 とダラーンと垂れている頬を揺らしながら話してくる男。何だこいつ。


「……キャロライン様は今は準備中です」


「そうか。もう直ぐ礼拝が始まるというのにもう少し早くしてほしいものだ。聖女として自覚が無いのだろうかねぇ」


 ……殴り飛ばしてやろうかこいつ。キャロがどんなに苦しんでいるかも知らないで、勝手なこと抜かしやがって。


「……申し訳ございません。グルン枢機卿。もう間も無くなのでお待ち下さい」


「ふん、まあ良いが。……ん、そっちの男は?」


 そう言って俺をジロジロと見てくる。何かわからないが鳥肌が立った。何だ?


「彼は教皇様のお客人でございます」


「ほう、これは中々」


 そう言い舌なめずりをする男。ぞわぞわぞわぞわ! 背筋にナメクジが這ったような嫌悪感! やばい! こいつ絶対やばいやつだ!


「それではご客人。本当はもう少しお話ししたいのですが、生憎時間がなくて申し訳ないですが失礼致します。今度時間があれば是非」


「は、はは、じ、時間があれば」


 俺がそう言うと、去っていく。ふぅ〜、何だったんだあの男は? 鳥肌が治らん。男が立ち去ったのを確認するとメリーさんが俺の方を向く。そして


「ご愁傷様でした」


 何が!? いや、言わなくてもわかっている。頼むからその先は……


「さっきの方はグルン枢機卿と言いまして3人いるうちの1人です。そして大の男色家です」


 やめて〜! 1番聞きたく無い事をサラッと言わないで!


「教皇様には伝えておきますが、気を付けてくださいね」


 そう言い先を進むメリーさん。はぁ〜、ここに来て1日目で帰りたくなるとは思わなかった。とにかくあの男には出会わないようにしないと。うわっ、さっきより鳥肌が酷くなっているような。早くアレクシアたちの元へ戻って癒されないと!


 ◇◇◇


「撃てぇ! 何としてもこの先へ通すなぁ! 敵は1体だ! 狙い撃てぇ!」


「しかし、敵のドラゴンには魔法が全く効きません!」


「それでも撃つんだ! ここを通せば首都へ行かれてしまう! 何としてでも……」


「隊長! ブレスきます!」


「くそぉ! 魔法障壁展開!」


「だ、ダメです! 防ぎ……ぎゃあああ!」


「た、退……ぐぎゃああああ!」


 …………


「どうしたアルトラ。今日はやけにご機嫌じゃねえか」


「グゥガアアアア!」


「そうか、そうか! 俺も300年ぶりにお前の背に乗れて嬉しいぞ! さあ、教皇国の首都までゆっくり行って2日ぐらいか。楽しく行こうか」


「ガアアアアアアア!」

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