63.みんなで
王様から聖女との婚約を聞かされてから1ヶ月が経った。この1ヶ月間何をしていたかと言うと、とにかく修行をしていた。
朝は師匠の元でボッコボコにされ、授業の座学は半分眠りながらも話を聞いて、戦闘訓練は、班のみんなやケイトの班と模擬戦をしたりしていた。
初めの方は1対1でやっていたのだが、時間が足りないってことで俺対班での勝負や、俺対他7人でやったりなど、変則的に模擬戦を行ったりなどいろいろと。
そして学園が終わるとまた師匠との修行になる。これは朝の訓練とは全く違って、本気の勝負になる。師匠は本気の殺気をぶつけてくるし、俺は負けない様に雷装天衣を使って対抗する。この魔法を使ってようやく師匠に対抗できるのだから、やっぱり師匠はとんでもない。
そんなこんなであっという間に1ヶ月。今は出発の為に王宮に来ている。どこへ行くかと言うともちろんアルカディア教皇国だ。目的は聖女との顔合わせのため。
王都からアルカディア教皇国の首都までは馬車で片道2週間程になる。往復だけで1月かかってしまうほどの距離だ。そして向こうに滞在はおよそ1ヶ月程になる。
学生がそんなに学業を離れていいのかって思ったりもしたのだが、なんと学園は夏休みだった。俺は全然知らなくてアレクシアに聞いたときはものすごく笑われたのは、恥ずかしかった。
学園の1年のスケジュールは、4月に入学で7月から8月の終わりまでの2ヶ月間は夏休みになるらしい。そして9月から11月の終わりまでは学年対抗戦などの行事がある。これはまだ詳しい事は知らないのだけれど。
そして12月の頭から1月の中頃まで今度は冬休みがあるらしく、冬休みが終わった1月中頃から3月までは卒業生は卒業試験を受けたりするらしいが、それ以外の学生はいつも通りの授業に戻るとの事。
何でこんなに休みが長いのかをアレクシアに聞くと、地方の貴族のためだそうだ。確かに俺みたいなところだと、短過ぎると往復だけで休み終わってしまうもんな。
そして今日からその夏休みのため、夏休みを利用して会いに行く事になったのだ。というよりかは、王様が既に夏休み中に会いに行くのを教皇様に伝えていたのだ。
まあ、学園を休むよりかはいいのかもしれないけど。俺がそんな事を考えていたら、
「何難しい顔してんだよ! せっかくの旅なんだから楽しく行こうぜ!」
とダグリスが俺の肩を叩いてくる。そう、今回の旅にはこいつも付いてくる。正確に言えば俺の班全員と、ケイトの班全員だ。
前にこの夏休みどうするかって話になった時に、俺がアルカディア教皇国に行く話をしたらみんな付いて行くって話になってしまった。
みんな実家に帰らないのか聞いたら、ダグリスとレーネ、バードン、シズクは実家に帰っても家の手伝いをさせられるだけだから元々帰るつもりはなく、ギルドでお金を稼ぐ予定だったらしい。
ケイトとエマは元々王都に家がある為毎日帰っている様なものだと言い、エレアは独り身だからこの夏休みはダグリスたちと同じくギルドに行く予定だったとの事。
取り敢えずこの時は話を保留にして、この事を王様に話すと
「それなら、旅費などは全てわしから出そう。元々その予定だったし、友人たちと楽しんでくるといい」
と言ってくれた。なので、お言葉に甘えて受ける事にした。ただ、みんなには誰が出してくれたかは言っていない。みんなにはただ、荷物だけ持ってくる事と王宮の前に集合しか伝えてないからだ。
「いやー、しかしアルカディア教皇国まで馬車を出してくれるなんて太っ腹だよな! 楽しみだぜ!」
「もう、ダグリスったら。向こうではしゃぎ過ぎて迷子にならないでよね。もしなったら置いて帰るから!」
「おいおい、そこは探してくれよ」
と夫婦漫才をしている2人は置いておいて、まだかな? 俺がある人たちを待っていると
「レイ、どうしたの?」
とエレアが聞いてくる。ほとんど無表情なエレアだが、最近では少しの表情の変化がわかる様になってきた。今はワクワクした雰囲気を出している。やっぱりみんなで旅行行くのが楽しみなのかな。
「いや、まだみんな来なくてな」
俺がそう言うと、エレアが周りを見て首を傾げる。学園のみんなは揃っているんだが、他のメンバーがね。と、そこに
「ごめん、レイ! 待たせちゃった?」
と王宮からやってきたのは、アレクシアにフェリス、ヘレンさんに、エアリスだ。王様から聖女の話を聞いたアレクシアとフェリスは自分たちももちろん行くと言い、その上、ヘレンさんとエアリスにも話したのだ。そうすると、2人とも絶対行くという事になってしまった。
突然現れたアレクシアたちにダグリスたちは余りの驚きに黙ってしまった。そして、ダグリスとケイトは俺の肩に手をかけてくる。何だよ。
「ど、ど、ど、どういう事だ! なぜ、アレクシア先生とヘレン先生、エアリス副会長にフェリス先輩がいるんだ! 吐け! 吐くんだ!」
「そうっスよ! これはどういうことっスか! 俺たちを裏切ったんっスね!」
……うるさいぞお前たち。しかも何だよ裏切ったって。
「……みんなには黙っていたけど、実はな」
「「ゴクッ」」
「俺、アレクシアとフェリスと婚約しているんだ」
「「はあああああ!?」」
俺の話に驚いたダグリスとケイトは突然叫び出す。耳元でうるせえな。
「な、なに、どうしたのよ?」
「レーネ! 大変だ! レイに裏切られた!」
「そうっスよ! この裏切り者が!」
誰が裏切り者だよ。何を裏切ったんだよ。しばくぞこのやろう。そんな風に騒いでいると、
「ふふふ、レイ君のお友だちは賑やかね」
と王宮から侍女を伴ってやって来たのは、ケアリー様だ。
「これは、ケア……義母上。どうされましたか?」
「もう、よそよそしいわね。もっと親しくしてくれてもいいのよ。まあ、今日はレイ君たちのお見送りね。本当はレイモンドが来る予定だったのだけれど、公務が入っちゃって来れないから、私が代わりにね」
そうして、ケアリー様に見送られながら、俺たちはアルカディア教皇国へと出発した。ダグリスとケイトの怨嗟を受けながら。レーネとエマにバラすぞこのやろう。
◇◇◇
ー魔国テンペストー
私が訓練場の中へ入るとそこは、倒れ込む兵士たちで一杯です。少しやり過ぎだと思うのですが。そして
「調子はどうですか、ギルガス」
訓練場の中央に立つ魔族の男へと話しかける。中央にいる男の名前はギルガス。この前目が覚めた七魔将の1人です。
「アゼルか。まあまあだな。本調子の半分にいかないくらいだな」
まあ、そんなものでしょう。
「それは仕方ありません。封印が解けてから1年近くは戻りませんからねぇ。私もようやく戻ってきたところです」
あの少年に出会った時で7割ほどでしょうか。
「なるほどな。まあそれはいい。他の奴らはまだ起きねえんだろ? もう少し実力が戻ったら少し遊んでくるわ」
「どちらへ?」
「聖女とやらがいるアルカディア教皇国だよ」
この人なら殺せそうな気がしますが。どうなることやら。
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