62.陛下からのお願い
馬車に揺られて数分、王宮へ着いた俺たちは王様の元へと向かっていた。しかし、一体何の用なのか。それが、わからないままなので少し不安が残るが。そして、ようやく政務室へと着いた。今日はここに来る様に言われたのだ。アレクシアがノックすると、中から近衛団長のゲインさんが出てくる。
「これは、アレクシア殿下。お待ちしておりました。陛下は中でお待ちです」
「そう、なら入るわね」
とアレクシアが中へ入っていくので、俺とフェリスも後ろへ続く。その時ゲインさんが俺の肩を叩く。何だろうかと見ると
「がんば!」
……は? ゲインさんが俺に向かって親指を立ててくる。意味がわからん。何か知っているのか?
「な、何でしょうか?」
「いや〜、流石ジークの息子だ。あいつの血をガッツリと引き継いでるぜ!」
と笑ってくる。な、何なんだ?
「これ、ゲイン。余りからかってやるでない。レイも困惑としているだろうが」
そう思っていると奥から王様が助けてくれる。ゲインさんは、すまん、すまん、と謝り、陛下の後ろへ戻っていった。全く意味がわからない。
とにかく俺も部屋へ入ると中には、王様に、アレクシアと、マリーナ王女の母親で第2王妃のメアリー様、宰相が座っていた。俺は既に座っているアレクシアとフェリスの間に座る。俺の左側がアレクシアで、右側がフェリスだ。……何で3人掛けソファの両端に座るんだ君たちは。
「久しぶりだなレイ。まず最初に、先週の事件について礼を言わなければな。お前のおかげで民を危険にさらさずに済んだ。助かった」
「いえ、俺はクラスメイトを守ろうとしただけで」
「ククク、まあ、お前ならそう言うと思ってはいたが。今兵士たちに何故魔族がこの国に来ていたかを調べさせている。わかればお主にも教えよう」
「それはありがとうございます」
俺と陛下の話が途切れると、そこへ
「レイ君久し振りね。最近会いに来てくれないから私悲しいわ」
と、おっとりとした雰囲気で話しかけてくるのは、ケアリー様だ。年齢は40前半なのに、20後半と言ってもいけそうなほど若い。この雰囲気が余計に若くさせる。キリッとしたアレクシアやマリーナ王女をもっと柔らかくして成長させたらこんな感じになるのだろう。
「申し訳ございません、ケアリー様。もっと、来られるように致しますので」
俺がケアリー様にそう言うと、頬をぷくぅーと、膨らませ、少し不機嫌になる。な、何故? 何か怒らせるようなことを言ったかな?
「もう! 私の事は義母様って言ってて言ったじゃない!」
……そう言えばそうだった。
「し、失礼しましたお、義母上。今後気をつけます」
俺がそう言うと、ケアリー様は満足そうに頷いてニコニコとしている。この雰囲気には勝てん。
「もう、お母様ったら。レイの事が好き過ぎるんだから。レイは私のだからね!」
と俺の腕を抱き締めるアレクシア。腕がお胸様に埋まる。……ん? 右側からフワフワしたものが手を撫でる。右側を見ると、フェリスが尻尾を俺の腕に擦り付けてくる。寂しかったのかな? 俺が優しく尻尾を撫でると、フェリスも「えへへ〜」と笑う。うん、可愛い。
「それで今からが本題なのだが」
おっと、王様が話し出す。
「本題ですか?」
「ああ、この前は3国の王が集まる3国会議があった。極秘にだが」
へ〜、そんな事をやっていたんだ。3国って事はやっぱり獣人国ワーベストとアルカディア教皇国になるんだよな。
「そこでの話にレガリア帝国が、ナノールへ攻め入る準備をしているのが確定した。元々勇者召喚をしたので、疑ってはいたのだが、他の国と示し合わせる事で、来年には確実に起きると判断した。レガリア帝国側は必死に隠そうとしておるが、あれ程の物資を集めようとすれば、隠し通せるはずもないのに」
……やっぱりか。しかも来年。どれ程の数になるのかわからないが一番最初に狙われるのはやっぱりランウォーカー辺境伯領だろう。
「なに、心配せんでもいい。我が軍も直ぐに出軍出来るように準備はしておくし、ワーベストは援軍を約束してくれた。アルカディア教皇国は、レガリア帝国出軍したのがわかると、レガリア帝国に攻め入ってくれる手筈になっている」
おお、流石王様だ。それなら何とか数日耐えきれば何とかなる!
「それはありがとうございます、陛下」
「なに、気にするでない。我が国の事だ。私がなるべく何とかせねばな。それに未来の義息子の実家だ。他の領地より優遇しても罰は当たるまい」
と笑ってくれる。本当に助かる。しかし義息子って言われるとやっぱり恥ずかしいな。しかし、次第に王様の表情が曇っていく。何かあるのか?
「それでレイには申し訳ない事を言わなければならない。これはアレクシア、フェリスにも関係する事だ。今日呼んだのはこれを話すためでもある」
ゴクッ! 物凄く申し訳なさそうにする王様。な、なにが言われるんだろうか。
「この前の3国会議で獣王殿とお前の話になってな。レイも学生になったし、そろそろアレクシアとフェリスの婚約を発表しても良いのではないかという話にな。結婚自体はレイが卒業した後になると思うが。そんな話を獣王殿としていたら、教皇殿が『そんな話知らないんだけど』って言い出しての。わしの中では話した気になっていたのだが、どうやら初耳だったらしい」
ふむふむ、それで?
「そして教皇殿にも、わしの娘のアレクシアと、獣王殿の娘のフェリスが結婚する相手がいて、同じ人物だという事と、お主の事を話すと教皇殿が『2国だけそんな才能ある子と縁結んでちょっとずるいんじゃない? うちも混ぜてよ?』って言い出したのだ」
……物凄く嫌な予感。
「それで、ナノール王国の第1王女と、獣人国ワーベストの第1王女に釣り合う相手を娶って欲しいと話されたのだ」
「そ、その相手ってまさか」
俺がどうか外れていてくれ! っと思いながらも聞いてみると、王様は頷いて
「うむ、そのまさかで、教皇殿の娘である聖女だ。レイには申し訳ないが受けてはもらえないだろうか」
俺は魂が抜けそうになった。
◇◇◇
ーアルカディア教皇国 サン・ベルク宮殿ー
「そう、ついに決まったのね」
「はい。キャロライン様。もう教皇様はナノール王と獣王には伝えてあるそうで、近いうちにその方も来られるそうです」
婚約か。そんな日が来るとは思ってなかったなぁ。
私の名前はキャロライン・アルカディア。アルカディア教皇国の教皇であるギルフォード・アルカディアの娘で、みんなからは聖女と言われている。
アルカディア教皇国は女神アステルを崇拝し、崇めており、私はその国の教皇の娘として生まれたけど、私は女神アステルが嫌いだ。
理由は私のステータスにある女神の加護とスキルのせいだ。これのせいで私は聖女として担ぎ出され、そして戦場に立たされた。その理由は、女神アステルの加護を持つものはみんな特殊な能力を持っているからだ。加護を持っていると周りに知られてからは、何度も戦場に立たされた。何度死ぬような思いをしたか。
その上、スキルのせいで私は見た目が変わってしまい、人前には出れなくなってしまった。この事を知っているのは、お父様とお母様、それに私の専属の侍女をしてくれるメリーだけだ。そのため、普段は人には会えずに、宮殿に篭っている。外に出るとしたら戦場に行く時だけ。その時は隠しているし。
それにしてもお父様も、断られるのがわかっているのに、どうして婚約なんかするのかしらね。私が傷付くだけなのに……。
「キャロライン様、今回は大丈夫だと教皇様もおっしゃられていました」
「どうかしらね。前もそう言って連れてきた男性は、私の容姿を見た瞬間、化け物って言われたけど?」
「そ、それは……」
あら、メリーがシュンとしちゃった。ちょっと言い過ぎたかしら。
「まあ、期待しないで待っておくわ」
今回も駄目だったらお父様にもう連れてこないように言わなきゃね。
よろしくお願いします!




