60.召喚された勇者たち
「何処でその話を聞いた?」
そう言い師匠が俺を睨んでくる。周りは困惑な表情を浮かべ、アレクシアは俺を見てくる。この感じアレクシアは知ってるっぽい。まあ、みんなだったら俺が女神の加護を持っている事は知っているから話しても良いのかな。
「女神アステルに聞きました」
俺がそう言うと流石に師匠も驚いた表情を浮かべる。師匠もまさか女神アステルから聞いているとは思わなかったのだろう。
「……まさか、女神アステルからとは思わなかったぞ。女神アステルから何を聞いた?」
「七魔将のこと、魔神のこと、この大陸のアステルの加護持ちのこと、そこで勇者の事を知りました」
俺は女神アステルから聞いた事を包み隠さず話す。師匠は信頼してくれているのだろう。こんな突拍子のない事を真剣に聞いてくれる。
「そうか。魔神の事はいいだろう。魔神を復活させようとしている七魔将を止める。それだけだ。そして勇者の事だが、他言無用だぞ」
そう言い周りを見る師匠。みんなは真剣な顔をして頷く。
「最初に勇者が確認されたのは1年前だ。召喚された場所はレガリア帝国。そこで10名ほどの少年少女が確認された。ほぼ全員が黒髪黒目だったそうだ。一部は茶髪もいたらしいが」
という事は、日本人って事か? でもなんで師匠は知っているんだ?
「どうして師匠は知っているんですか? アレクシアも知っているような雰囲気だったし」
「そんなもん私が見に行ってきたに決まっているだろう。普通の密偵だったらバレるからな。それをレイモンドに報告したんだ」
見に行ってきたって、そんな簡単に言うけど……。
「ただ、勇者たちの近くにSランクが1人とAランクが数人いたから手が出せなかった。あいつさえいなければいけたんだけどな」
と悔しそうに呟く師匠。師匠でも躊躇う人か。どんな人だろうか気になる。
「レガリア帝国が勇者を召喚した理由って」
「戦争のためさ」
とぶっきらぼうに言う。やっぱりか。それじゃナノール王国で一番最初に被害が出るのは! そう思ったが俺の考えている事は師匠はお見通しらしい。
「ジークの坊やには私が手紙を送ってあるから大丈夫だよ」
と笑顔で言われた。なんか恥ずかしい。それにしても勇者か。今の日本ってどうなってんだろうなぁ。
◇◇◇
「……はい、ここまで! 今日の訓練はここまでにする。各自体を休めるように!」
……はぁ、今日も疲れた。私は余りのしんどさにその場に座り込んでしまう。
私の名前は桂木 香奈。この世界に召喚される前は普通の高校1年生だった。ある日、放課後の教室で、悲しい事があって、家に帰るのが嫌だったので残っていると、教室が白く輝きだして、気が付いたらこの世界にいた。その教室には私を含めて10人いた全員がこの世界へとやってきた。
それから毎日この様に鍛錬を続けている。でも、毎日続けているけど、全然慣れないや。人を傷つけるのが嫌いな私は、武器を持つのが恐いせいか全く上達しない。みんなを守る為の防御系や治癒系の魔法は得意なんだけど。そんな事を考えていると
「カーナミン! おっ疲れ〜!」
「ひゃあ〜!」
私の胸を脇下から鷲掴みされた!
「ちょっ、マリ! 毎日毎日止めてよぉ!」
私は後ろから私の胸を鷲掴みにしたマリ、二階堂 麻里に怒る。でも毎日言っても聞いてくれない!
「ニヒヒ、いや〜カナミンの胸は柔らかいですなぁ! 私はちっぱいだからそんな弾力ないし」
と嘘泣きをする。もう! それで人の胸触るなんて! マリは同じクラスで、中学の時からの親友。とても明るくて、クラスのムードメーカー。たまにおじさんが出てくるのがアレだけど……。
私が悲しんでいた時も、慰めてくれた大切な親友。この世界に転移した時も、教室で私を慰めてくれた。1人だと辛いだろうからと。そのせいで巻き込んでしまったのだけれど。その事を謝ったら、マリにデコピンされた。
「私もカナミンも被害者なんだから、そんなの言いっこ無し! 一緒に頑張ろ!」
って言いながら。私はその言葉を聞いたときにマリは絶対に守ると誓った。私の大切な親友だから。
「なに難しい顔してんのカナミン。眉間にシワ寄せて〜。可愛い顔が台無しだぞ〜、ホレホレ!」
「ちょっ、マリ、眉間ぐりぐり止めて。ちょ!」
私とマリが話しているとそこに、
「ははは、君たちはいつも仲が良いねえ。カナ、マリ。一緒に食堂に行かないかい?」
と笑顔でやってきたのは伊集院 聖。成績優秀、スポーツ万能で、実家が父親がIT企業の社長で、母親が国際弁護士をやっているみたい。なんで私たちが通う様な普通の高校に通っているかというと、両親が通っていた高校だからとか。誰もが羨むほどのお金持ちで、爽やか系のイケメン。毎日告白されるほどの。私はそうは思わないけど。
その隣には聖くんの親友の獅童 龍牙くん。こっちは聖くんと違うタイプのワイルド系。髪の毛も茶髪だし。ボクシングをやっていて、高校生ボクシングで全国一位になるほどの実力。
その反対側には、聖くんといつも一緒にいる遠藤 歩美さん。サラサラのロングヘヤーで男子生徒からはモテモテな女性。実際読者モデルやってるみたいだし。
「コウキ、なんで毎日誘うわけ? なんかあるの?」
「いや、別に無いけど。仲間なんだし一緒にどうかなと思ってね」
「そんなことより早く行こうぜ。腹減って仕方ねぇ」
とそれぞれ言いながら食堂へ向かう3人。私たち行くと言ってないんだけど。
「どうする?」
私はマリに聞くけど
「行くしか無いでしょ」
と返される。いつもと同じだ。食堂に行くと他に転移してきた残りの5人もいた。
1人は海堂 匠君。みんなが言うにはオタクらしい。話したこと無いからわからないけど。いつも1人でいる。
もう1人は清水 海君。見た目は正直に言うと女の子だ。クリクリとした目、ほっそりとした体。女性物の服を着ていたらわからないだろう。
そして残りの3人は
「おい、カイ! なに1人で飯食ってんだよ。俺たちの分はどうした!」
とカイ君に怒鳴る男たち。班目 仁君と、佐藤 正君。それに田中 進君。どこからどう見ても不良だ。その3人がカイ君を足代わりに使っているのだ。
私はそれが許せないので、言いに行こうとすると
「お前たち、止めないか!」
とコウキ君が怒鳴る。そしていつも私の方をチラッと見るんだけどなんだろう?
「あぁん? っち、成績優秀の坊ちゃんかよ。なんか萎えたぜ。カイ、覚えておけよ」
とコウキ君が言った瞬間、ジン君たちは諦める。いつもそうだ。何故なんだろうか?
そんなこともありながら私たちは夕食を食べ自分の部屋へ戻る。私たちは勇者って事で各自の部屋が用意されている。私はお風呂に入り温もった体を冷まさないうちにベッドに入る。
この世界に来て1年が経つけど1人になると、あの時の悲しみが蘇ってくる。私の両親は中学入る前に交通事故で亡くなった。その為、父の兄が引き取ってくれたのだ。
その家には、私の1つ年上の従兄がいた。私が小さい頃から好きだった人。特段カッコ良いとか、スポーツが得意とかではなかったけど、ただ、優しかった。暖った。一緒にいると幸せな気持ちになる人。
そんな大切な人が、今から1年ほど前、転移する1月ほど前に交通事故で亡くなった。女の人の身代わりになって。私は毎日泣いた。1週間近くは家から出れなかった。なんとか学校に通える様にはなったけど、心は沈んだまま。マリも励ましてくれたそんな時に、転移が起きた。
それからは毎日生きるのに必死で考える暇はなく、少しずつ前の自分に戻っている気がしていたけど、やっぱり1人の時間になると思い出してしまう。
「ぐすっ、会いたいよぉ、隼人従兄さん……」
私は愛しの従兄さんの事を思い出しながら、泣いていた。疲れて眠るまで……。
よろしくお願いします!
訂正8月21日
そんな大切な人が、今から1年ほど前、転生される1月ほど前に交通事故で亡くなった。
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そんな大切な人が、今から1年ほど前、転移する1月ほど前に交通事故で亡くなった。




