58.激おこ
気が付けば暗闇の中だった。
四方八方何もなく、ただ暗闇が続くだけ。上下左右もわからないまま周りを見ていると、
「気がつきましたか、レイヴェルト・ランウォーカーさん?」
綺麗な女性の声が聞こえてきた。声の聞こえた方を見てみるとそこには、見たことある美女が立っていた。
「あら? 今回は前みたいに褒めてくれないんですね〜」
と、右手を頬に寄せ首を傾ける美女。
「それはそうでしょう。会うのは2度目なんですから、女神アステル」
そう、目の前にいるのは、俺をこの世界に転生させた張本人、女神アステルだ。見た目は転生された時と全く変わっていなくて、とてつもない美女だ。
「うふふ、ありがとうございます。もっと褒めていただきたいのですが、時間がありませんので話を進めたいと思います。初めに誤解を解いておきますが、レイさんは死んだわけではありません。ただ気を失っている間に意識に介入させていただきました。なので話すことが出来るのです」
おお、それは良かった。前と同じように死んだからここに来たのかと思った。
「それじゃあ、俺に介入してきた理由は?」
「それはもちろん、七魔将に出会ったからです」
七魔将。あいつのことか。師匠が知っていそうだったので聞きたかったが気を失ってしまったので聞けなかった。
「彼らは魔族の中でも、魔神の加護を持つ七人の魔族の事を指します。魔神の加護を持つ者は、死にはするのですが、ある一定の期間が経つと復活するのです。
なので昔の私の加護持ちが封印をしたのですが、封印が解けて目覚めてしまいました。予定ではまだ先のはずだったのですが……」
またとんでもないものが出てきたな。魔神か。俺も、ヘレンさんからこの大陸の歴史を勉強したが、魔神なんて物は出てこなかったけどなぁ。
「それは魔神を信仰させない為に、歴史から消したのです。魔神のことが知られれば、信仰しようとするものがいるでしょう。それをさせない為です」
「なんで信仰しては駄目なんだ? 今の話を聞くだけだと、あなたの信仰が薄れない為に消したとも聞こえますよ」
俺がそう言うと、悲しそうに目を伏せる。
「確かにそう聞こえても仕方ありません。しかし、魔神の目的はこの世界を壊す事を目的としています。その為、自分が復活する為に魔族に加護を渡しているのです。しかし、そんな事をさせるわけにはいきません」
確かに、この世界を壊させるわけにはいかない。神にも色々あるんだなぁ。
「今は時間がありませんので本題に入りますが、今この大陸に女神の加護を持つ者は、全員で5人います。その者たちと協力して下さい。1人はあなた、もう1人はご存知の通りアルカディア教皇国の聖女です。もう、1人はあなたの身近にいます。そして残り2人はレガリア帝国の勇者としています」
……は? レガリア帝国の勇者だって? いつの間に召喚したんだよ。
「ただ、それだけでは心許ないでしょう。レイさん、あなたに私の力の一部をお渡しします。これはあなたの加護を強くしてくれるでしょう。これを渡す事はあなたに戦う事を強制しているようなものなのですが……」
そう言い、少し辛そうに微笑むアステル。その心情はわからないが、俺の事を心配してくれているのはわかる。
「わかった。もともとあなたから貰った称号のおかげで、平穏には暮らせないのはわかっていたんだ。それに一つ二つ増えたって、乗り越えていけば良いだけだ」
俺がそう言うと、アステルは深く礼をしてくれた。
「よろしくお願いします、レイさん」
そう言われると、辺り一面が真っ白になった。
◇◇◇
うぅん。体が重い。全身だるくて動かしたいと思えない。何でこんなにだるいのだろう。そんな事を思いながら重い瞼を開けるとそこには。
「うぅ〜ん。ふにゃ! ……そこは握っちゃだめぇ、えへへ〜」
と謎の寝言を発するフェリスがいた。椅子に座り頭だけ俺が眠るベッドに預け寝ていた。よだれ垂れているぞ。そんなフェリスの寝顔を見ていると
「フェリス〜、入るわよ〜」
と声がする。そして入ってきたのは
「あら、レイ目が覚めたのね。良かったわ。って、何寝ているのよフェリス」
エアリスだった。俺の顔を見て、安心そうに微笑んでくれて、次に寝ているフェリスを見てパシッと頭を叩く。
「痛! な、なに? 敵襲?」
驚いて起きたフェリスは驚いた表情を浮かべあちこちを見る。そして俺と目があうと
「レイ! 起きたのね! よかったわ!」
と抱き付いてくる。尻尾をぶんぶんと振って喜んでくれる。耳もピーンっと立っている。
「ほら落ち着きなさい、フェリス。レイもまだ起きたばかりだからしんどいはずよ」
「あ、ごめんなさいねレイ。目が覚めたのが嬉しすぎて」
と顔を赤くして伏せるフェリス。そんな顔も可愛い。俺は、そんなフェリスの頭を撫でる。フェリスも手のひらに頭を擦り付けてくる。
「なに、この甘ったるい空間は。まあいいわ。レイ、体の調子はどう?」
「う〜ん、全身がだるい感じで、動かすのも辛いかな」
俺は全身確認しながら言う。うん、やっぱり重たい。
「やっぱりね。レイもわかっていると思うけど魔力枯渇による疲労ね。全くエリスお母様の言いつけを守らないんだから」
とジト目でデコピンしてくる。だって仕方ないじゃないか。命の危険があったんだから。
「……もう、そんな目で見なくても大丈夫よ。あなたがクラスメイトを守ろうとしていたのは知っているから」
と頭を撫でてくる。フェリスの頭を撫でる俺の頭を撫でるエアリス。……なんだこれ。
そんなこともありながらようやく話を聞けるようになった。俺は丸一日寝ていたようだ。俺が気を失った後は、師匠がここまで運んでくれたそうで、他のみんなも無事だとエアリスが教えてくれた。良かった。
「アレクシアもヘレンさんも物凄く心配してたんだから、後で謝っておきなさいよ。あなたのクラスメイトも残りたそうだったけど、家に帰らしたから」
「そうなのか、ありがとう。それでアレクシアやヘレンさんは? この時間帯だったらもう家にいるはずなのに」
俺が目覚めたのは既に夕方だった。今日は光の日で学園も休みだったので1日エアリスとフェリスが看病をしてくれたみたいだ。せっかくの休みを申し訳ない。
「アレクシアなら師匠と一緒に王宮に行っているわ。昨日の話があるからって。ヘレンさんは付き添い」
そうなのか。王都の近くであれ程暴れたら報告しないとだめか。
「ま、そんな事よりご飯にしましょ。レイ立てる?」
「うん、なんとか」
俺はベッドからなんとか立ち上がる。うん、少しだるいが大丈夫だ。なんとか1階に降りてソファに座ると、エアリスが料理を持ってきてくれる。エアリスもフェリス程ではないが上手だ。どれも美味しそうだなぁと思いながら見ていると、馬車が止まる音が聞こえ、突然外が騒がしくなる。な、何だ?
そして、扉を突き破る程の勢いで開かれ入ってきたのは、
「レイ、起きているか!」
とかなり怒っている師匠が入ってくる。何で怒ってんの? めっちゃ恐いんだけど。その後ろには同じく怒った表情を浮かべるアレクシアと、ヘレンさんもいた。一体何があったんだ?
よろしくお願いします!




