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57.雷装天衣

 ふぅむ。思ったよりもあっけないですねぇ。女神の加護を持つ者は、それぞれ侮りがたい力を持っていました。私を封印した勇者も持っていましたねぇ。


 加護持ちはそれぞれ女神から特殊なスキルや称号を与えられる。その者だけのものを。私を封印した勇者は『絶剣』でしたか。あらゆるものを断ち切る能力。あれの前ではどの様な攻撃や魔法も切られて、意味をなしませんでしたし。


 そして今確認されているアルカディア教皇国の聖女も確か報告では持っていたはずです。報告では、こちらの攻撃が全く効かないとか。それで押し負けて撤退してきたとか。多分防御系のスキルか称号を持っているのでしょう。


 忌々しき女神の使徒め。我々の悲願をことごとく防がれ、私も300年も封印されるとは。


「レイ!」


 紫髪の少女が叫ぶ。おっと、思考が少しずれましたねぇ。ささっとこの少年を殺しましょう。私が右手で掴んでいるこの少年を。両手をこのナイフで切られて、動かす事の出来ないので少年は抵抗出来ない。そしてこれで心臓を刺せば終わりです。いくら傷が付かなくとも、心臓を刺される程の痛みを味合えば、脳が耐え切れず死に至ります。私はナイフを振りかぶり、


「これで終わりです」


 少年の胸へとナイフを突き立てる。……ん? ナイフを刺した感覚がない? すると、私の右腕が握られる。そんな? 奴の手は切り落として当分動かないはず。何故動かせる。


「まだ終わらせねえよ」


 と少年が喋った瞬間、少年の体に雷が迸る。いや、体そのものが雷へと変化する。そして


「がぁ!」


 握られた右腕から雷撃が走る。私は即座に手を離したが、食らってしまった。痺れる右腕を摩りながら少年をみる。私の手から離れたため地面に立ち、体を雷そのものに変え青紫に輝き、落ちていた槍を拾い構える少年。これは……。


「行くぞ、魔族」


 ……やっぱり女神の使徒は厄介ですねぇ。


 ◇◇◇


 俺は落ちていたロウガを拾い、魔族の男へと構える。ふぅ、危なかった。あと少しヒカリンに魔力が溜まるのが遅かったら発動出来ずに死んでいた。今この状態じゃなかったら冷や汗がダラダラと流れていただろう。


「ギリギリセーフだったの、マスター」


 本当に危なかったよ。しかも、ヒカリンの魔力が溜めるのに殆どの魔力を渡していたから、魔族相手に手も足も出なかったし。まあ、この魔法じゃないと太刀打ちできないと思ったから、ヒカリンに魔力を渡した訳だが。それでも、みんなを危険に晒したのは申し訳ない。


「あなたにナイフが刺さった感覚がありませんでした。その理由がそれですか?」


 すると、魔族が聞いてくる。


「そんな事言わなくてもわかっているんだろ?」


 俺がそう言うと、魔族の男は、無言のままナイフを構える。しかしそれだけだと食らわないぜ。


 これは魔法による姿だ。雷魔法のレベル9の魔法。雷装天衣。昨年ようやく雷魔法がレベル8になり、ヒカリンと一緒に作り出した魔法。


 俺も聞いて知ったのだが、各魔法のレベル9とレベル10では、自分で魔法を作る事が出来るらしい。そこに辿り着いた者だけが使える魔法、自分に合わせた魔法を作り出せるらしい。師匠も持っているって言っていた。つまり何かの魔法がレベル9か10になっているって事だけど。


 俺は、雷魔法を身体付与するのでは無くて、雷そのものになればどうなるかというのを考えた。そして作り上げたのが雷装天衣。これは俺の考えていた通りになった部分と、なっていない部分がある。


 まず、なった部分は、速度、攻撃の威力が雷の様に鋭くなった事と、物理攻撃が無効になった事だ。そしてなっていない部分は、魔法攻撃はくらってしまうという事だ。武器に魔法付与している攻撃もくらってしまう。これは師匠との訓練でわかった事だ。これを使う事でようやく師匠に傷をつける事が出来たのもいい思い出だ。そのあと倍返しぐらいされたが。


 この通り作り上げて、完全無敵とはいかなかったが、概ね自分の理想の魔法が出来た。その分魔法消費が半端ないのだが。今の俺の魔力量だと持って4分。その間に敵を倒さなければいかない。使ったあとは魔力が空っぽになってしまうから。


 俺は、魔族の男と対峙する。とにかく俺には時間がない。まだこの魔法を使うのは数回程度だけだからまだ慣れていないが、ここで出し惜しみをすれば負ける。


「はぁああ!」


 俺が一歩踏み出した瞬間、地面が吹き飛ぶ。ちっ、力加減が出来ていない。しかし、そんな事を機にする間もなく魔族の男へ肉迫する。ロウガも常時帯電状態だ。そのロウガを男へと突き刺す!


「くっ!」


 男には辛うじて避けられたが、雷の熱で皮膚を焦がす。避けられた雷はそのまま、男のいた木々へとぶつかり雷鳴を轟かせる。男は驚きながらも手に持つ、ナイフで切りかかってくる。しかし


 バチッ


「ぐ、がぁあああ!」


 俺に触れた瞬間、ナイフを伝って電流が流れる。今は雷同然なんだから当然だ。


「く、厄介な魔法ですねぇ! 飛び立て、カオスバード!」


 男は魔法で黒い影の様な鳥を俺目掛けて飛ばしてくる。数は次々と増えていき、鋭い嘴で俺を貫こうとする。発動前なら当たっていたかもしれないが、今の状態では当たらない。


 俺は瞬時に男の目の前へと移動する。だが、男もかなりの使い手。俺が移動して、遅れてだが反応する。しかし、俺が槍を振るうと、ナイフで防ぐが吹き飛び、男が魔法で攻撃してくるが、俺は避ける。そしてロウガで振り払う。男は少しずつだが傷を負い、傷ついていく。すると


「ぐぅ、これならどうですか! 消し去れ、エクリプスラディーレン!」


 と魔族の男が両手を上に掲げる。すると光まで消し去るような真っ黒な球が出現する。そして俺に目掛けて放つ。俺は


「サウザンドスピア!」


 雷の槍を背に出現させて、一斉掃射! 雷鳴轟く雷の槍たちが、漆黒の球へと突き刺さる。初めのうちは漆黒の球に消滅させられていたが、次第に雷の槍たちが突き刺さり、そして爆発。その内に俺は、男の元へと向かい、槍を左上から振り下ろす。男もナイフで防御をしようとしたが、限界が来ていたのか粉々に砕け散る。そして、俺は直様槍を手元に戻し男へと突きを放つ!


「がはっ!」


 男の腹にロウガが突き刺さり男は血を吐きながら膝をつく。俺はロウガを抜き、そして


「これで終わりだ!」


 ロウガを振り下ろそうとした瞬間、


「な!?」


 目の前の男が消えた。俺はそのままロウガを地面に叩きつけてしまう。


「ふう、助かりましたよエイブラム」


 声のする方へ向くと、そこには先ほどの男と、マントを被る男が立っていた。


「アゼル様、遊び過ぎですよ。少し目を離した隙にこんなところまで」


「ふふふ、最終地点を確認しておきたくてねぇ。その帰りだったんだよ。それに宿敵も見つけた」


 そう言い俺を見てくる男。横のフードの男は溜息を吐く。


「まあ、良いでしょう。さっき魔王が呼んでいましたよ。3人目が目覚めるって」


「おお! それは朗報です! 直ぐに帰りましょう!」


「な! 帰らせてたま……ぐぅ!」


 俺が魔族たちに攻撃しようとした時、全身の力が一気に抜けてしまった。くそ、魔力切れか。俺は何とかロウガで支えるが、立つことすらままならない。


「ふふふ、今なら殺せそうですが、止めておきましょう。久しぶりの顔もあることですし」


 そう言い別の方を見る男。するとそこから


「レイ! 大丈夫か!」


 と師匠がやってきた。


「これはこれはシルフィード・シックザール。お久しぶりですねぇ。かれこれ300年ぶりでしょうか」


 すると男が師匠に話しかける。知り合いなのか?


「アゼル。貴様いつ封印が解けた? 封印は少なくとも後100年は持つはずだぞ」


「ふふふ、こちらも素晴らしいお方のおかげで、封印が早く解けたのですよ。他の皆様も後5年内には全員目を覚ますでしょう。そうなれば300年前の再開です。前は失敗しましたが、今度はそうはいきませんよ」


 そう言い笑う魔族の男。


「まあ、ここは引いておきましょう。完全な状態であれば相手もできたのですが、残念ながらこのザマでしてね。おっと、少年の名前を聞いていませんでしたね。名乗って下さい」


「……レイヴェルト・ランウォーカーだ」


 俺がそう言うと魔族の男の目付きが変わる。


「ほう、あの土地に住む貴族の一族ですか。それはますます放っておけなくなりましたねぇ。私の名前は七魔将の1人知将のアゼルと言います。次会う時は、あなたが死ぬ時です」


 そう言い笑いながら消えていった。空間魔法か。そんなことを考えていたら、立つことすら辛くなってき、倒れてしまう。すると師匠が


「あいつ相手に良くやったよ。生きているだけ大したもんさ」


 と肩を貸してくれる。色々と聞きたいことはあるが眠い。俺はそのまま目を閉じた。

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