54.ラビさん
俺たちは予定通り放課後に、冒険者ギルドへとやって来た。来たのは俺たちの班とケイトにシズクだ。エマとバードンは用があるのでまたの機会にと言って帰って行った。
「ほぁ〜、ここが冒険者ギルドかぁ〜。なんか思ってたのと違うな。もう少し何ていうか荒れているのかと……」
「王都のギルドがそんなわけ無いでしょ。さあ、入りましょ」
とレーネがギルドへと入って行く。それに続きダグリスとケイトにシズクが付いて行く。俺も入学してからは、初めて来るな。……怒ってなきゃ良いけど。俺がう〜んと考えていると、エレアが
「入らないの?」
と尋ねてくる。考えていても仕方ないな。とりあえず中へ入るか。俺はエレアに返事をして中へと入る。中は余り人がおらず職員が仕事をする音だけが鳴り響いている。ただ、2階から笑い声が聞こえるのでまったくいないわけでは無いだろう。そのまま進むと、既に受付で冒険者登録をしようとする4人の姿があった。その担当は
「……はい、ここに名前や年齢、得意な武器や魔法などを書いてください。書かなくても大丈夫ですが、パーティーを探している時にわかればこちらで斡旋したりもできます。他には……あらレイ君じゃないですか! お久しぶりです!」
と、俺の担当をしてくれるラビさんが4人の受付をしていた。黒ウサミミはわっさわっさと動いている。この人は、ギルド職員の中でも、とても人気のある人で、みんなラビさんに並ぼうとするぐらい人気だ。実際ダグリスたちも複数受付がある中でラビさんのところに並んでいるし。
「ん? レイと知り合い何ですか?」
とダグリスがラビさんに聞く。目は、目の前にあるたわわなお胸様を凝視しているが。そして、そのダグリスを横でレーネが凝視している。それに気がつかないダグリス。……早く気付かないと後でどうなっても知らないぞ。
「はい、レイ君が冒険者登録を私が対応しまして、それからは来るたび私が対応しております!」
と笑顔で言うラビさん。だってラビさんの列に並ばないとやばいことになるんだもん。一回、夜の忙しい時間に行った時に、どの受付も並んでいたのだが、特にラビさんの列が長蛇の列を作っていたので、別の列に並び依頼報告を済ませた時に、その時担当してくれた受付嬢が顔を引きつらせて対応してくれた。
その時は理由がわからなかったが、後でラビさんが休みの時に聞くと、何でも、師匠がラビさんを俺の担当にしたらしい。Aランク以上の冒険者からの紹介だと、今後、優秀になる冒険者が多い為、ギルド側もギルドを辞めない為に担当を付けたりするそうだ。それが俺でいうラビさんになる。
しかも師匠という大陸でも10人に満たないSランクという大物の紹介だ。そしてその大物が、ラビさんを指名して。その担当のラビさんが受付にいるのに別の受付に行くのは、ラビさんの仕事内容が疑われるらしい。担当がいるのに別の受付に行くのはどういう事だ! と。その事を師匠に話すと思いっきりシバかれた。……ちゃんと説明してくれなかった師匠も悪いと思うが。
後日、理由を説明しにギルドへ謝りに行った。何とか話をしてギルド側にもわかってもらった為何とかなったが、こういう事が起きるとギルド側の信用問題に関わるらしく、酷い場合だと退職もあり得るとか。冒険者側に問題があったとしても受付側が悪く取られるらしい。ちゃんと説明しておいてくれよ師匠! と何度思ったことか。
その時にお詫びの品として渡したのが、ラビさんの胸元で光るサファイヤをあしらったネックレスだ。余り宝石のことに詳しくない為、アレクシアに教えて貰って購入したものだ。その時にアレクシアにも買ったのは言うまでもない。
ラビさんやアレクシアにも喜んで貰って良かったのだが、依頼をして貯めたお金は吹き飛んでしまったが……。
そんな事を考えながらみんなの元へ向かう。
「お久しぶりです、ラビさん。ここの所、学園での生活が忙しかったもので中々来れなくて」
「そうだったんですね。だから学生服なんですね。とても似合ってますよ」
「はは、ありがとうございます」
俺とラビさんが話をしていると、ダグリスが左側とケイトが右側から肩を回して女性陣から離れて行く。何だよ?
「いや〜、レイも隅に置けないな〜! あんな綺麗な人と知り合いなんて。お前のこれか? ん?」
と小指を立てて聞いてくるダグリス。なんか古いなオイ。
「そうっスよ。あんな綺麗な人がいるなんてずるいっスね〜」
と脇腹を小突いてくるケイト。なんかイライラしてきたぞこいつら。
「何だよ。お前らだって良い人いるじゃないか。ダグリスだったらレーネで、ケイトだったらエマが」
だから俺は爆弾を投下する。一応2人にしか聞こえない声で。
「な、な、な、何言ってんだよ! レ、レ、レーネとはそんなんじゃねぇし!」
「そ、そうっスよ! エマとはただの幼馴染で」
と2人は否定してくる。そんな事を言いながらも意識しているからなのか、かなり動揺する2人。しかもダグリスが大きな声でレーネの名前を出した為に
「私が何よ、ダグリス?」
とレーネがやってくる。
「べ、別に何でもねえし! レーネには関係ねえし! あっち行ってろし!」
とレーネを追い払おうとするダグリス。ただ、動揺し過ぎて口調おかしくなっているぞ。
「……意味わかんないし。そんな事よりも、ラビさんが冒険者カードが出来て説明したいから来てって言ってたわよ」
とレーネは戻っていく。それを見送って安堵のため息を吐くダグリス。もう、バレバレだぞ。そして説明を聞きに戻る2人を後ろで見ていると、エレアがやってきた。
「……レイってランクはどれなの? 私はDランク」
と聞いてくる。
「俺のランクはCだよ」
と答えるとエレアはぷくぅ〜と拗ねた顔をする。
「負けた」
そんなこと気にしなくて良いと思うけどな。俺は師匠に付き合わされて、色々な依頼を受けていたから早くランクが上がったが、エレアは自力であげた証だ。俺的にはエレアの方が凄いと思うが。
「そんな事気にするなよ。エレアだったらすぐに上がれるんだろ?」
俺が聞くと頷く。
「あと何か討伐依頼を受けたら上がる。でも、丁度入学の時期に重なったから受けなかった」
Dランクの討伐だとオークとかフォレストスネークとかその辺だろう。それならエレアの実力だと余裕だろう。
「レイは上がれるの?」
「……ああ、ある依頼を受けたらね」
俺がそう言うと首を傾げるエレア。CランクからBランクに上がるにはある依頼を受けなければならない。そのある依頼というのは、盗賊や犯罪者の討伐だ。そう聞けば良い事をしているように聞こえるが、実際は人が殺せるかどうかを確かめる為だ。
この大陸には盗賊や山賊が蔓延っている。他の町や国に行く為に護衛をつけるのは、魔物から守る為だけではなく、そういう犯罪者たちに牽制する目的もある。
数を増やさない為軍が討伐隊を出したりもするが、数は減らない。
理由は戦争が原因らしい。レガリア帝国が他国に戦争をする為、被害にあった町や村の住人が生活するのに困り盗賊などに落ちるものが多いと、ヘレンさんから習った。その為軍が賄いきれない場合は、国から冒険者ギルドへと依頼が来る。それをギルド側は昇級試験にしているのだ。
俺の場合はまだ子供だから受けなくて良いと、師匠に止められている為ラビさんも言ってこない。だから今はCランクで止まっている。
「レイ?」
おっと、また考え込んでいたようだ。エレアが心配そうな見てくる。
「何でもないよ。そろそろ説明が終わる頃だろうから行こうか」
「うん」
俺はまだ人を殺した事がない。4年前の吸血鬼の時も、なんだかんだで生きていたし。全身不随で動く事が出来ないそうなので、生きているとは言いづらいが。
俺はそんな事を考えながらもみんなの元へ向かう。今は関係ない話だ。その時に考えよう。そう思いながら。
冒険者のランクについては「閑話 冒険者ギルド」をお読み下さい。
評価等よろしくお願いします!




