52.強者への代償
加減が難しいですね。
「く、来るな! 化け物!」
「ひ、ひぃぃいい!」
「早く村を出て行け!」
なんでそんなことを言うんだ? 依頼してきたのはそっちなのに。俺はただ村を守るために倒しただけなのに。
「レイ。気にすることはない。お前のような子供が自分たちより強いから驚いているだけさ。さあ、帰ろう」
そう言われ師匠に頭をポンポンと叩かれる。俺はもう一度村を見る。みんな家に隠れて出てこない。みんな俺を恐れたように見てくる。なんでだよ……。
◇◇◇
俺たちは、マルフォイが突然現れたことについて話していた。
「たぶんあれは隠者のマントね」
レーネがそう答える。隠者のマント? 何だそれ? 俺とエレアはわからないから首を傾げる。そのためレーネが説明してくれた。
「隠者のマントはね、装着者の姿、匂い、魔力を隠してくれる魔道具の事よ。暗殺者とか裏の人間が使うようなやつよ。その代わり欠点があって、動くと効果が薄れるのよ。さっきだってマルフォイが魔法を使ったから姿が見えたでしょ? それでも結構な値段がするんだけど、全員分揃えるなんて」
そんなものを持っていたのか。しかしそうなるとやっかいだな。動いていないとどこにいるかわからないし。動いても姿が現れるまでタイムラグがあるみたいだったし。どうしようか。そんなことを考えていたら、エレアが俺に話しかけてくる。
「……レイ。本気でやって」
「え?」
「エレア、何言ってるのよ?」
真剣な眼差しで俺の目を見てくる。
「俺は本気で……」
「やってない。あなたのは本気はそんなものじゃないはず。私たちは勝つつもりじゃないの?」
……俺は自分の掌を見る。槍を振って潰れた豆あとが残る掌を。そして昔を思い出す。ある依頼で行った村で、化け物と言われたあの日。その依頼以降は師匠たち以外だと力を自然と抑えるようになってしまっていたんだっけ。
「本気を出さないのは相手にとっての侮辱。私が相手だったら絶対に許さない」
「……そうだよな。本気で相手をしないのは失礼だよな」
俺がそう言うとエレアが頷く。俺はロウガを握り直す。
「2人ともここからはチーム戦とか関係なくなっちゃうけど、許してくれ」
そして俺はロウガを床にに突き刺す。レーネとエレアを光魔法のホーリーサンクチュアリで囲む。白い光を放つ正方形が2人を囲む。内からは脆いが外からの攻撃にはめっぽう強い結界だ。そして
「水魔法ウォーターディザスター! 風魔法スパイラルサイクロン! 複合魔法スパイラルディザスター!」
床に突き刺したロウガを中心に水の大竜巻を発生させる。天井も貫くほどの大きさへとなっていく。俺はどんどん魔力を込めそして
ザバァーン!
竜巻により水が回転しながら周りへと撒き散らしていく。
「う、うそ……。こんな高レベルの魔法を、しかも同時なんて……」
「……すごい」
俺が魔力を込めていると、竜巻に巻き込まれるクラスメイトが出てくる。
「うわぁぁあ!」
「きゃぁああ!」
「や、やめてくれー!!」
俺は目を逸らさない。これは俺が行ったことだから。
「はぁぁあああ!」
竜巻により作られた水のかまいたちが周りに吹き荒れる。それによって校舎が少しずつ削られていき、隠れていたクラスメイトを切り刻む。そして
「な、なんだこれ……ぎゃあああ! 痛い痛い! ぎゃぁぁあ!」
マルフォイを見つけ出す。俺はロウガを抜きそして身体強化を行う。そしてマルフォイに向かって走り出す。
「ひぃっ! く、来るな! ば、化け物!」
「くらえ!」
俺はそのままマルフォイを殴り飛ばす。そして瞬時に移動し、マルフォイをロウガで突き刺す。マルフォイは俺を憎しみに満ちた目で見てきたがそのまま白い光へとなって消えていった。そこに残ったのはバッチだけだった。
俺がスパイラルディザスターを発動させて数分で校舎は全壊してしまった。今立っているのは俺の班のみ。他のみんなは外に出てしまったみたいだ。俺が2人の元へ戻ると、俺たちの体が光り出す。そして辺り一面真っ白になる。
そして目を開けるとそこは、迷宮の入り口に立っていた。周りにはメアリー先生と俺を見て震えるクラスメイトがいた。ケイトたちも無事みたいだ。
「レイ君、レーネさん、エレアさん、お疲れ様でした。これで皆さん帰ってきましたね。これをもちま「なんでこんな化け物が同じクラスにいるんですか!」えっ?」
メアリー先生が終了を宣言しようとした時にクラスメイトが割り込んできた。もちろんマルフォイだ。
「こんな化け物が近くにいるなんて安心して学園で暮らしていけません! 追い出してくださいよ先生!」
これが発端で他のクラスメイトも声を出し始める。
「確かに怖えよな……」
「うん、確かに。私たちじゃあ抵抗できないし」
そんな話がちらほらと出てくる。メアリー先生はなんとか止めようとするが意味をなさない。それどころか逆に声を荒げる。そんなとき
「こいつらぶっ飛ばす?」
「そうよ! どうせレイが強いのを妬んでいるだけじゃない!」
と俺のそばにエレアとレーネが寄ってくれる。そして
「てめぇらうるせえぞ!」
とダグリスもやってきた。まだ停学中だけど師匠から対抗戦の観戦の許可を貰っていたみたいだ。
「てめえらは、レイのことを何にも知らねえくせに勝手なことを言ってんじゃねえよ! 俺もまだ出会って1週間だけど、こいつは自分の力を悪用するようなやつでも、化け物みたいに暴れるようなやつでもねぇ。俺たちと同じ人間だ! それを寄ってたかって化け物化け物って言いやがって!」
とダグリスが俺のために怒ってくれる。その上そこに
「まさにその通りだよダグリス君」
と師匠までやってきた。そしてマルフォイの前まで行き
「マルフォイ君。君はレイが化け物だから追い出して欲しいと言ったね」
「は、はい」
と言う。マルフォイは返事しかできていない。
「それなら私はどうなる? 彼よりも化け物の私が近くにいるんだよ。私にも出て行けと言うかい?」
「い、いや、それは……」
「あんまりふざけたことをぬかしてると潰すよ?」
と師匠がマルフォイに対して威嚇する。周りの温度が数度下がった気がする……。そしてマルフォイは気を失ってしまった。
「さあ、メアリー先生。さっきの続きを」
師匠がメアリー先生を促す。
「は、はい、他の班はまだバッチを取る前に敗北し、マルフォイ班はバッチを取られたため失格となりましたので、勝利班はレイ班とします! これを持ちまして班対抗戦を終了します!」
そう宣言するとクラスメイトたちは俺の方をチラチラ見ながらも教室へ帰って行った。師匠も帰ったようだ。残ったのは俺の班のみ。
「みんなごめん。最初から本気出さなくて」
俺は3人に謝る。するとダグリスが
「俺がこの学園にいる間の目標を決めたぞ!」
そう言うので俺たちとはダグリスを見る。なんだ? そう思っているとダグリスが俺を指差す。
「レイ! お前に必ず一太刀をいれる! 今の実力じゃあ、擦りもしないだろう。だから必ず卒業までに傷を付けてやる! 覚悟しろ!」
と高らかに宣言する。それを聞いていた周りは
「普通卒業までに勝つとかじゃないの?」
とレーネ。
「私はどうしよっかな」
と悩むエレア。
俺はこの班なら頑張れそうだ。こうして対抗戦が終わったのだった。
評価等よろしくお願いします!




