44.贈り物
俺は1人で入学式の会場の席に座っている。左手の中指にはめられている指輪を見ながら。
◇◇◇
メロディ副学長に付いて行き学園長室へと着いた俺たち。道中でフェリスは戻ってきたのだが、今は真っ赤に照れてしまい話してくれない。事情の知らないメロディ副学長は首を傾げているが。
「それじゃあ入りますね〜。学園長入りますよ〜」
メロディ副学長はノックをしたら直ぐに入る。この辺はもう暗黙の了解といったところか。
「おう、来たねぇ、レイ。ついでにフェリスも、ってどうしたんだいそんなに顔を真っ赤にして。レイにセクハラでもされたか?」
といつもの調子でからかってくる師匠。フェリスは大丈夫です! と大声で答えるのだが、逆に怪しいぞ。
「まあいいや。今回呼んだのはレイに渡す物があるからだ。まずはこれだ」
そう言い渡されたのは銀色の指輪だった。何処かで見たことあるぞ。これってもしかして
「師匠。これって……」
「それは見ての通りリング型のアイテムボックスだ。お前の魔力量に応じて内蔵量も増える優れ物だ。これは私からの入学祝いだ」
アイテムボックスって! 何でそんな高価なものをポンっと渡してくるんだこの人は!
「師匠! こんな高価な物貰えません!」
俺が返そうとすると怪訝な顔をする師匠。な、なんだ?
「レイ、アレクシアから聞いていないのかい? アレクシアが持っているリング型のアイテムボックスも私があげたものだよ。私のツテに空間魔法の使える魔工技師がいてね。エルフで偏屈な爺さんだが腕はかなりの物でね、私の弟子が節目を迎える度に作って貰っているんだよ。中々作るのが難しいから数年に1個ぐらいしか作れないみたいだけどねぇ」
と笑う師匠。そ、それなら良いのかな?
「ほら、指につけて魔力を込めてみな。すると指輪の先についている透明な魔石が青く光るはずだ。その状態なら収納と取り出しが出来る。入れる時は入れたい物を魔石に引っ付けると収納でき、取り出したい時は取り出したい物を思い浮かべば出てくる。ただ何を入れたか忘れてしまうと取り出せなくなるから注意しな。それからこれだ」
そして師匠からもう1つ手渡されたのが……手紙だ。
「ええっと、この手紙は?」
「それはジークからだ。レイの入学式の日に渡して欲しいと私に送ってきたのさ。多分来られないだろうからって」
ジークからか。俺は早速手紙の封を開ける。中には2枚の手紙が入っていた。ジークとエリスからだ。早速ジークの方から読む。
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レイへ
元気にやっているか?
まあ、偶に送られてくる手紙を見ているから、大丈夫だとは思っているが。
周りにはお前の未来の妻たちもいるから大丈夫だよな。
手紙も普段送っているので、今回わざわざ書くことはあまり無いが、他の兄姉が入学した時と同じようにお前にも武器を贈る。それを使って精進するも良し、普段から使い慣れている武器を使っても勿論良い。
使い慣れているかそうで無いかで生死が分かれるからな。
お前に送ったのは勿論槍だ。
魔槍ロウガ
それが贈った槍の名前だ。魔の大地に住む飛竜ですら咬み殺すと言われているベルファングウルフの牙から作った槍で、かなりの強度を誇る。
どれほど魔力付与をしようと今までの槍のように壊れることは無いだろう。魔力を流す事により、より硬くなるようだしな。
まあ、使ってくれ。
学園は出会いの場だと俺は思っている。勿論授業などをするのも大切だ。しかし、それ以上に他の学生と関わる事も大切だと俺は思う。
心から好きだと思える女性……はいるか。背中を預けれる親友、自分と競い合えるライバル。同年代だからこそ分かり合えるってものもあるしな。
自分が大切だと思える仲間を学園で探すことだ。
まあ、女性は増やし過ぎるとどうなるか知らないけどな!
お前が無事に帰ってくることを祈っている。
ジークハルトより
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本当途中までは良いこと書いてあるのに、あの親父は。俺は笑いながらもジークの手紙をたたむ。そして次にエリスの手紙だ。
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レイへ
元気にしているかしら。
体調は崩していない? ちゃんと布団かぶって寝てる? ご飯も毎食食べてるかしら?
レイから送られてくる手紙を見てああ、大丈夫なんだなって思うのだけど、実際に見ないと不安に思ってしまうわ。
本当は入学式にも行きたかったのだけど、子供が生まれたばっかりだから、あの長旅には連れて行けなくてね。
あっ、そういえば言ってなかったかしらね。あなたの妹が生まれました!
名前はクリシア・ランウォーカー。あなたがこの手紙を読んでいる頃はもう直ぐで1歳ってところかしら。
あなたがいなくなってから、寂しさを紛らわすためにジークとの夜を頑張ったら出来ちゃったの。
この歳で子供を生むのは少し大変だったけど、やっぱり自分の子は可愛いわね。あなたも奥さんばっかり増やさないで、早く孫を見せてね。
それから偶には帰ってきてね。フィーリアもクロナも寂しがっているわ。クリシアもお兄ちゃんの顔を知らないまま育ってしまうし。
また、会える日を楽しみにしているわ。
エリスレットより
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……はっ?
……妹が出来ただと?
「どうしたのよ、レイ? 驚いた顔をして」
俺の状態を不思議に思ったのかフェリスが覗き込むように見てくる。
「フ、フェリス。お、落ち着いて聞いてくれよ?」
「な、なによ? 何か大変な事でも書いてあったの?」
フェリスは心配してくれる。まあ、大変な事には変わり無いが。
「俺に妹が出来た……」
「は?」
フェリスもそれを聞いた瞬間ポカーンとした顔になる。それは驚くよな。
「性別は女の子で、名前はクリシアだって」
「えっ? 妹って辺境伯、第4夫人でも作ったの?」
俺は首を振り真実を伝える。
「母上が生んだ。俺とフィーリアと同じ両親の妹になる」
「えええええ!」
フェリスもびっくりみたいだな。ただ師匠はしたり顔で見てくるので真実を知っていたのだろう。この事はエアリスは知っているのだろうか? エリザ夫人なども。
「まあ、良かったじゃないかい。家族が増えて。家族は多い方がいい。そうだろ?」
と言って師匠は布に包まれた槍を投げてくる。これがジークの手紙に書いてあった槍か。
「まあ、その通りですけど。っと、これが父上からの?」
「そうだ。魔槍ロウガ。ベルファングウルフってのは面白くてねぇ、牙に魔力を通して獲物を咬み殺すのだけれど、その際に魔力を吸収するんだよ。そしてより強固な牙になっていく。レイも使えば使うほど槍も硬くなっていくだろうねぇ」
なるほど。使えば使うほど折れない槍か。確かに武器付与をする俺のスタイルでは必要になる武器だ。そして早速貰ったアイテムボックスにロウガをしまう。おおっ! 指輪に魔力を通してロウガを当てた瞬間、吸い込まれるように無くなった。しかも重さも感じない。これは便利だ。
「さあ、そろそろ入学式だ。レイは会場に行って、フェリスは教室へ行きな」
「はい、アイテムボックスありがとうございます。大切に使わせて頂きます!」
俺は礼して学園長室を出る。ここでフェリスとはお別れだ。
「それじゃあまた夜ね、レイ」
「ああ、フェリスも頑張ってな」
◇◇◇
そして今会場の席。周りにも赤ラインの入った制服を着た少年少女が続々と入ってくる。初々しいなぁ〜と思いながらも見ていると、
「よぉ! 隣の席いいかい?」
と男が聞いてくる。特に開けているわけでもないので了承すると、男が座り、その隣に申し訳なさそうに女の子が座る。友人同士かな? それとも恋人同士か?
「よう、俺の名前はダグリスだ。ちょっと田舎の村からやってきたんだ。魔法はあんまり得意じゃないけど剣はなかなかの腕だと思うぜ。よろしくな! そんでこいつが幼馴染のレーネ。こいつは魔法が得意なんだよ!」
と席に座ってから話し始める男。そして女の子は
「ちょっと、ダグリス。いきなり話しかけても困るだけだよ。ごめんなさいね。いきなり話しかけて」
「いや、大丈夫だよ。ええっとレーネさん」
「レーネで良いわよ。よろしくね」
と手を差し出してくるレーネ。ダグリスは短髪の茶髪で160ほどの筋肉質の男で、レーネは茶髪で長い髪を三つ編みにしている。体型は普通で身長は150ぐらいの女の子だ。
「俺の名前はレイヴェルト・ランウォーカーだ。周りからはレイって呼ばれている。よろしく」
そうして俺も手を差し出し握手する。そしてダグリスとも。
「家名持ちって事は貴族なの? ごめんなさい、私たち知らなくて」
「そんなこと気にしなくて良いよ。気軽に接してくれ」
俺たちがそんなことを話していると、
「入学生の皆様。これより入学式を始めますので、ご着席お願いします」
メロディ副学長が話し出す。ようやく入学式か。
評価等よろしくお願いします!
訂正8月4日
「俺の血の繋がった妹だ」
⇨「俺とフィーリアの実の妹になる」
⇨「俺とフィーリアと同じ両親の妹になる」




