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43.入学式前の出会い

 家を出て歩くこと20分ほど。俺とフェリスはガルディア学園に辿り着いた。歩いてくる途中から馬車で来るもの、歩きで来るもの様々だが、赤色のネクタイやラインの入った制服を着た少年少女をちらほらと見かける。


 この学園は毎年200名ほどの生徒を取る。筆記と実技の試験を受けて受かったものがこの学園に通える。そこに貴族も平民も関係無い。実力だけの世界。とは言うものの貴族の方が合格率が高いのは当然だ。何て言ったって子供の頃から勉学に武術、魔法まで専属の教師に教えて貰っている者が多いのだから。勿論他種族も僅かだがいるし、奨学金制度もあるから実力があれば誰でも入れる。それでも普通の平民には難しいものだ。


 そんな事を考えているとフェリスが覗き込んでくる。


「どうしたのよ。そんなに思いふけって」


「いや、いつも通っていた学園だけど学生として通うのは初めてだから少しね」


 俺がそうやって笑うと、フェリスはニヤリとして


「へぇ〜、レイでも緊張する事があるんだ〜。少し意外」


 とからかわれてしまう。俺だって1人の人間だ。緊張の1つや2つする事だってあるさ。俺はからかってくるフェリスの尻尾を思いっきり掴んで先に校門を抜ける。その際フェリスが「ふぎゃ!」と謎の声を上げたのは聞かなかった事にしよう。


 門を越えて数分。フェリスに後ろから睨まれながらも歩んでいると、


「おい貴様ら! 平民如きが、何が道の真ん中を歩いている! 今ププンプ様が歩いているだろう!」


 なんか見覚えのある奴と取り巻きたちが、平民(絡んでいる方が言っているから)の男と女に絡んでいる。フェリスの方を見ると、とても苦虫を潰したような顔をしている。というかあいつまだ貴族だったんだな。フェリスに絡んだ事を全部王様に報告して罰を与えてもらったはずなのに。しかも赤色。


「な、貴族だからって、それは横暴だわ!」


 平民の女の子が反論するが、貴族の男は全く気にした様子は無い。それどころか煩わしそうに言う。


「それがまかり通るのが貴族よ。さあ、退け! そして女。お前は私の女にしてやろう。私は心が広いからな! プププ!」


 またふざけた事を言っているな。とにかく今ここで見ているわけにはいかない。俺が間に入ろうとした瞬間、


「そこまでだ!」


 と男の声がする。声のする方をみるとそこには、金髪で身長は170後半の筋肉質な男が立っていた。後ろには貴族の令嬢だろうか、2人程侍らせている。まあ、イケメンだしな。


「な! あ、あなた様は!」


 乱入してきた男を見ると、ププンプだったけ、狼狽え始める。誰だあれ? 赤色だから同学年なのはわかるけど。


「なあフェリス。あの男って誰?」


 とフェリスに聞くと、フェリスは俺の顔を見て盛大に溜息を吐き出す。何だよ?


「何で自分ところの貴族の子息を知らないのよ! あれはランバート公爵家の子息でティグリス・ランバートよ! 同学年には敵無しって言われる程の実力で、光魔法と剣術が得意な事から『聖騎士』って呼ばれているわ。アレクシアお姉様ともとてもいい勝負したって言っていたわ」


 そして俺の顔を見るともう一度溜息を吐く。お、俺だって教えて貰えればわかるもんね! ヘレンさんから教えて貰ってるもんね!


「ティグリス様! ど、どうかお許しを!」


「そう思うならばとっとと立ち去るがいい。プリン男爵には伝えておく。それに、貴族全員がそう思われては迷惑だ」


 ティグリスがそう言うとプブンプは脱兎の如く走り去っていった。そして絡まれていた方は、ティグリスにお礼を言う。女の子の方は顔を赤くしている。落ちたか。


「もう、ティグリスは優しいんですから。でも、そんなティグリスが好き!」


「何言ってんだ! ティグリス! 私の方がお前の事が大好きだぞ! 黙っていろこの乳お化け!」


「何ですって! この貧乳ドチビ!」


 すると後ろの令嬢たちがいきなり喧嘩をしだす。何でだよ。それを止めるティグリス。あれ? なんか親近感。俺はフェリスの方を見て


「あれって、外から見ると恥ずかしいね。止める立場だと必死だから気付かないけど」


 と俺が言うとフェリスは「そ、そうね」とそっぽを向きながらも認めてくれる。わかってくれたかな?


 周りからもヒソヒソと言われようやく見られている事に気が付いた令嬢2人は顔を真っ赤にして黙り込む。ティグリスも苦笑いをしている。そしてティグリスたちは立ち去るのかと思いきや、俺たちの方を見て驚いた顔をする。そして何故か向かってくる。な、何だ?


「これはこれは! フェリス王女ではないですか! お久しぶりです! こちらへ留学に来た際にお会いした時以来ですね! まさかこんなに早くお会いすることができるとは! もし良ければ私たちと共にいきませんか? 是非フェリス王女に案内していただきたい」


 とフェリスの手を持ち手の甲にキスをするティグリス。この野郎。イラってするが、ここは我慢だ。これは貴族の挨拶だろう。この程度で怒っていてはいけない。


 我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢我慢


「そうだ、もし良ければ入学式が終えた後に食事でもどうですかな? 是非我が屋敷に招待したい!」


 我慢の限界だ! 後ろの令嬢たちも「仕方ないわねぇ」みたいに見てんじゃねえよ!


「……申し訳有りませんが、この女性は私の大切な人です。他を当たってください」


 と俺はフェリス側に寄り腰を抱き寄せる。周りで見ていた女子生徒は黄色い歓声。男子生徒からは嫉妬の声が聞こえる。そしてフェリスは「お、俺の女だって。グフフ〜」って喜んでやがる。俺の女とは言っていないが。


「ん? 君は誰だい? 僕は男には興味が無いから目に入らなかったよ」


 それはただの女好きって自分から言っているようなものだぞ。俺とティグリスは睨みあう。すると


「やめてくれ! そんな男と見つめ合う趣味は僕には無いよ!」


 とぬかしやがる。それを聞いた女子生徒がまたキャァー! と黄色い声を上げる。まずい! 誤解を生む前に否定しておかなければ。


「俺もねえよ、この野郎!」


 ってか全然話が進まない! 


「まあ、僕は男がいる女性を横から取ろうなんて無粋な真似はしないよ。だから安心したまえ。それではフェリス王女。食事は出来ませんが、またお会いしましょう。ではさらばだ!」


 そして去っていくティグリス。後ろの令嬢たちも付いていく。変なやつではあるが、悪いやつでは無さそうだ。……グフグフ言ってないでそろそろ現実戻ってこいよフェリス。


 するとそこに、


「あ! 見つけました! フェリスさん、レイ君!」


 メロディ副学長がやってきた。本人は全速疾走なのだろうが、子どもがてててて〜と元気に走っている様にしか見えない。


「迷子ならあっちですよ、お嬢さん」


 俺がふざけてそう言うと


「な! 誰が迷子ですか! さすがの私も学園内では迷いません!」


 と両手を頭の上まで振り上げてムキーっと怒ってくる。というか、学園外だと迷子になるんだな。


「冗談ですよ、副学長。それでどうしたんですか?」


「あ! そうでした。2人とも学園長がお呼びでした。すぐに来てください」


 と副学長が歩み出す。俺はまだどっかに行っているフェリスを引っ張って副学長へと付いていく。いったい何の用だろうか? 


 ◇◇◇


「……さっきからずっと何を考えていますの? まだフェリス王女のことで?」


 おっと、深く考えすぎていた様だ。


「そうだぜ。ティグリスらしくもない」


「もう、ミーシャ。もう少し女の子らしい言葉遣いは出来ませんの?」


「ふん。私にはこれが性に合ってんだよ。カーラの話し方も気になって仕方ないぜ」


 おっと、また2人が喧嘩をし始める。


「まあまあ、落ち着いてよ2人とも。僕が考えていたのはフェリス王女と一緒にいた男の方さ」


 僕がそう言うと2人とも驚いた顔をして見てくる。どうしたんだい?


「ティグリスお前まさか! 本当に男色に!」


「駄目ですわティグリス! その道だけは駄目ですわ!」


 と必死に止めてくる。ああ、そういうことか。


「はは、大丈夫だよ。そういう意味での気になるじゃ無いよ。2人は彼が誰かわかったかい?」


 僕が聞くと2人は顔を傾ける。可愛いけど。


「どこかの貴族の子息ではなくて?」


「そうだぜ。まあ、自分の大切な人って言っていたから位の高いところだと思うが」


「彼は『雷帝』だよ」


 僕がそう言うと2人はまた驚いた顔をする。


「『雷帝』って吸血鬼を倒したあの? あれはただの噂話ではなかったの? 本当は2人とも学園長が倒したっていう」


 カーラがそう言うとミーシャも頷く。


「いや、あの話は本当だよ。実際に魔法師団の人たちは戦うところを見ているしね」


 そして僕はまた歩み始める。会ってみたいとは思っていたけど、こんなに早く会えるなんて。これからが楽しみだ。

評価等よろしくお願いします!


訂正8月6日

「おい、あんた。人の女に手を出すとか正気か?」

⇨「……申し訳有りませんが、この女性は私の大切な人です。他を当たってください」

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