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42.入学式の朝

 チュンチュン、チュンチュン


 窓から朝日が差し込む。最近ようやく寒さも落ち着いてきて少し暖かく感じるようになってきた時期だけど、朝はまだ少しひんやりと感じるため布団から出る気になれない。


 俺は頭まで布団を被って眠っていると、


「レイ〜〜、朝よ〜〜、起きなさ〜い」


 と、女性の声が廊下から聞こえる。起きたいのは山々なんだが、脳が言うことを聞いてくれません。俺はまた頭まで布団を被って、聞こえないようにする。それから数分後、ドタン、バタン! と物凄い音が廊下側から聞こえる。そして勢いよくドアが開けられる。入ってきたのは、


「レイ早く起きなさいよ! 今日は大事な日なんだから起こしてって言ったのはレイなのよ!」


 と少し怒っている女性……フェリスだった。


 なぜフェリスがナノール王国にいるかって? それは2年前にカルディア学園に留学してきたからだ。俺もフェリスが留学してから知ったのだが、ナノール王国、獣人国ワーベスト、アルカディア教皇国の同盟国内では留学制度があるらしく、他国から今回のように留学生が来たり、逆に留学しに行ったりなど偶にあるとのこと。


 2年前にフェリスがやってきた時はびっくりした。俺とアレクシアが急に王宮に呼び出されたと思えば、フェリスが今日から一緒に住むからって言い出すのだから。しかも獣王公認で。獣王が認めていることなのでアレクシアも強くは言えずに結局フェリスも一緒に住むことになったし。


 エアリスも初めて会うフェリスに威嚇するし、フェリスも強気な性格だから対抗するし。あの時は大変だった。今はみんなが仲が良い……はずだから、大丈夫……多分。


 そんなことを考えていたら、


「起きなさーい!」


 と、跳ぶ音が聞こえる。……え? 跳ぶ? 俺が気が付いたときは既に遅く


 ドスン!


「うぐっ!」


 俺の腹の上に跳んできたフェリス。や、やりやがったなこのやろう。身悶える俺を見て少し満足そうに笑うフェリス。フェリスよ。俺を怒らせたことを後悔させてやる!


「ひゃぁん! ちょっと、レイ!」


 艶のある声をだすフェリス。何故このような声を出すかというと、俺がフェリスの綺麗な尻尾をモフモフしているからだ! サラサラな毛を撫でるように触れ、時には尻尾の芯の部分を握ってモミモミする。


「ちょっ! あぁん! そん、な、触りか んっ! 触り方、しちゃダメぇぇ! うぅぅん!」


 やばい。ちょっと興奮してきたかも。


 モミモミモミモミ


「レイ! 本当に、やぁん! や、やめ……」


 モミモミモミモミ


「や、止めてって……」


 モミモミモミモミ


「言っているでしょうが!」


「ぐはぁ!」


 フェリスは我慢の限界がきたらしく、俺の鳩尾にグーパンをかましてきた。俺は鳩尾に拳がモロに入ったため悶える。


「フー、フー、レ、レイが悪いんだからね! 大事な尻尾をあんなに、モ、モミモミして!」


「ご、ごめんよ。フェリスが余りにも可愛かったからつい」


 俺がそう謝るとフェリスは、


「か、可愛いだなんて、も、もう! いいから早く起きてよね!」


 と足早に部屋を出て行ってしまった。しかし俺は見逃さなかったぞ。フェリスの尻尾がご機嫌に振られていることを!


 そんなこともありながらようやく起きる俺。今日からは何時もの訓練着ではなくて、今日から着るこの服だ。


「う〜ん。いつ見ても俺には合わない気がするのだが……」


 それは、カルディア学園の学生服だった。白を基調としたブレザーに、入学した年ごとに色分けされたネクタイと服に入るライン。エアリスの学年である最上級生が黄色で、フェリスのいる3年生が青色、2年生が緑で、今年入学である1年生が赤色になる。


 俺は新品の学生服に腕を通す。なんて言うんだろう。まだ何色にも染まっていない新品の匂い。着慣れた服よりパリッとした感覚と窮屈な感じ。そして慣れないネクタイ。そして鏡の前に立つと、……うーん、やっぱり似合っているとは思えない。


 そんなことを思いながらも着ないと学園には行けないので、このまま1階へ降りる。1階のリビングには、フェリスが朝食の用意をしていた。何気に家の中では一番料理が得意なフェリス。それとは逆に壊滅的なアレクシア。同じ王女なのに何が違うのだろうか?


「やっと降りてきたわ……ね……」


 ん? フェリスは俺の方を見て固まってしまったぞ。どうしたんだ?


「どうしたフェリス?」


 俺が顔を覗き込むように近づいて聞くと、フェリスは顔を真っ赤にして


「にゃ、にゃんでもにゃいわ! が、が、学生姿もに、似合っているわね!」


 と、この姿を褒めてくれる。昔は顔を真っ赤にして怒っているかと思っていたが、今となっては照れているのがわかる。2年も一緒に暮らせば、フェリスが俺のことをどう思っているかも。獣王からの手紙にも「結婚はアレクシア嬢と一緒に行う」って書かれたものが送られてきたし。フェリスには言ってないけど。ジークも知っていたみたいだ。多分コソコソと話していた時だろう。


 俺がじーっとフェリスを見ていると


「な、なによぉ」


 と恥ずかし気に聞いてくる。犬耳もピクピクと震えているし。可愛い。


「いや、フェリスは可愛いなぁと思って」


 俺がそう言うと、ボンッと音がするくらい顔を真っ赤にする。


「へ、へ、へ、変なこと言ってにゃいでご飯食べて! 遅刻するわよ!」


 と台所の方へ駆け足で戻る。そして


「ふぎぁ!」


 転んだ。……あっ、立ち上がって、涙目でこっちを見てくる。どうした?


「み……」


「み?」


「見るな〜〜〜〜!」


 と台所へ去ってしまった。あんまりいじっても可哀想だ。俺は素直に席に着き、ご飯を食べる。白パンに野菜のスープ。目玉焼きにベーコン添え、サラダの盛り合わせと朝の定番がこれでもか! ていうほど出されている。どれも美味しい。


 俺がご飯を食べていると、コソコソとフェリスが戻ってくる。何でそんなに警戒しているのだろうか? まあ、俺がここに来てから疑問に思ったことを尋ねてみよう。


「そういえば姉上はどうしたんだ?」


 そう、エアリスの姿が見えないのだ。何時もなら朝はみんなで食べて過ごすのに、何故か今日はいない。そのことをフェリスに聞くと、物凄く呆れた顔をする。何だよ?


「もう、昨日のお姉の話聞いてなかったの? 今日は入学式の準備で早く行かないといけないって言ってたじゃない。副会長も大変よねぇ〜」


 とご飯を食べだすフェリス。そういえばそんなことを言っていたような。すっかり忘れていた。エアリスは昨年から生徒会の副会長に就任している。会長はもちろん同学年のマリーナ王女だ。その補佐として日々頑張っていると聞く。「マリーナの世話は大変だわぁ〜」とぼやいていてアレクシアが同情していたのが思い出される。


「今日からレイが入学するから張り切って出て行ったわよ。素晴らしい入学式にするんだって」


 いや、いつも通りでいいのだが。


 そんなこんなでもう出発する時間だ。朝はフェリスと共に行く。


「さあ、行きましょ!」


 上機嫌なフェリス。尻尾も楽しそうにフリフリしている。今日から俺の新しい生活が始まる。面倒ごとが無ければいいが。

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