閑話 勇者召喚
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俺は直径10メートルほどもある魔法陣を見る。これが勇者召喚の魔法陣か。面倒な術式を幾つも組み合わせ、何千人という人間の魔力を吸い上げて勇者を呼び出すか。勇者を呼び出すというよりは、悪魔を呼び出すようなものだな。
「では、これより勇者召喚の儀を始める。」
此処には皇帝、宰相、軍団長、魔法師団長、そして皇子が3人に、皇女が2人。そして俺は客として此処にいる。この国は面白い事に金を渡せば、色々な事をさせてくれる。人を殺そうが、女をやろうが、すべて金で解決する。本当に腐ってるぜ。まあ、魔剣の提供もしていた事も功を奏したのだろう。
「……父上。やはり勇者召喚などお止めになりませんか? 無関係の人を呼び出すなんて。私たちで解決せねば今後も解決できません!」
ん? あいつは確か第3皇子だったな。今そんなことを言えば
「黙れクリフト! 貴様皇帝陛下に何たる口を聞くのだ! 兵ども、こやつを引っ捕えよ!」
ほらバカ第1皇子が喚き出した。第2皇子殿は見ているだけだが。っとそこに、
「申し訳ございません兄上! クリフトが差し出がましい真似を! クリフト! 陛下に謝罪しなさい!」
第2皇女か。この2人は確か妾の子だったか。この国は王妃は10人ほどいるが子供は5人だけ。しかも皇后にしか子供が生まれなかったという、不思議なことが起きている。十中八九皇后が何かしているのだろうが。
そしてこの姉弟は皇帝が密かに侍女に手を出して孕ませた子供らしい。皇后が気づいた時にはすでに生まれており皇帝も認知したことで発覚したとのこと。全部お喋りな侍女と夜を過ごしたら教えてくれたぜ。2人とも魔法の才能があるから生かされているらしい。なければ皇子の方はすでに殺されているか、皇女は慰みものになっているな。
「しかし、姉上!」
「クリフト!」
「くっ! ……申し訳ございませんでした、皇帝陛下」
「お前たちは出て行け! 皇帝陛下それでよろしいですね?」
「……ああ、それでいい。それよりも始めるぞ。魔法師団長よ」
第3皇子と第2皇女が出て行くのを誰も気に留めないまま、魔法師団長が最後の魔力を込めて行く。すると魔法陣が蒼白く光り輝き、そして、
ピカッ!
くっ! 辺り一面を眩い光で埋め尽くされる。視界すべてが白一色になる。少しずつ光が収まり、魔法陣の方を見てみるとそこには
「うぅぅ……一体何だったんだあの光は」
10人ほどの少年少女が倒れ込んでいた。まだ状況がわかっていない者、辺りを見回す者、他の者と寄り添う者、1人で考え込む者、様々だがそこに、
「これは勇者殿たち! よくぞ我が呼びかけに答えてくださいました! 儂は感謝で涙が止まりませぬ!」
ぶっ! だ、誰だよ! いつもの皇帝と全く違うので危うく噴きかけたぜ。ウケ狙いなら100点やるぜ。
「あ、あのここは何処でしょうか?」
召喚された中の1人の少年が皇帝へ話しかける。
「ここはレガリア帝国と言う。お主たちからすれば別の世界と言った方がわかりやすいだろうか?」
皇帝がそう言った瞬間、少年たちは困惑した表情を浮かべる。そりゃあそうだ。いきなり連れてこられて別の世界だなんて言われたら困るわな。その上残酷な事を聞かされるのに
「しかもお主たちには謝らないといけないことがある」
「な、なんでしょうか?」
「お主たちは2度と元の世界に帰ることは出来ない」
皇帝がそう言った瞬間、音が消えたように静まり返る。そして
「な、ふざけているの! 私たちを勝手に呼び出しておいて元の世界に帰れないなんて!」
1人の少女が皇帝に向かって怒鳴り散らす。周りを見れば泣く者もいれば、怒鳴る少女を止めようとする者、放心状態で動かない者……ん? なんであの少年は喜んでいるんだ? 状況がわかっていないのだろうか?
「落ち着け歩美! この人に怒鳴っても、来てしまったのはしょうがないだろ!」
「でも! 帰れないなんて! お父さんにもお母さんにももう会えないのよ! そ、そんなことって、うわぁぁぁん」
怒鳴っていた少女も泣き出してしまった。
「お主たちには申し訳もたたない。お主たちがここにいる間は不自由な暮らしをさせない事を約束しよう。お前たちも聞いたな!」
「はっ! 皇帝陛下の通りに!」
周りが声を揃えていうと、少年少女はまた唖然とする。
「皇帝陛下?」
さっきから発言するリーダーぽい少年が皇帝に聞く。
「そういえばまだ自己紹介がまだだったな。儂の名はガルバースト・レガリア。この国の皇帝だ」
皇帝がそう言った瞬間、頭を下げる周り。俺もしておかないと不審がられるな。
「これは失礼しました! まさか、皇帝陛下とは知らずに無礼な真似を!」
少年がそう謝る。
「良い良い。儂が初めに言わなかったのが悪いのだ。これからは共に過ごす家族ではないか。そのような事で気にしていてはこれから過ごしてはいけぬぞ。取り敢えず、色々と考えたいこともあろう、カタリナ、勇者たちを案内してあげなさい」
「畏まりました、お父様」
そうして出てくる第1皇女。召喚された少年たちは、見惚れてやがる。まあ、確かに第1皇女は綺麗だわな。金髪のロングカールに、柔らかい目つきにほっそりとした体型。胸は無いがな。外見だけは綺麗だからみんなが見惚れる。中身は最悪だけど。
「それでは皆様。皆様も話し合いたいと思いますので部屋を用意しております。そちらへ向かいましょう」
そうして第1皇女は勇者たちを伴って部屋を出て行く。可哀想に。彼らもこれで戦争の道具か。
「陛下やりましたね」
「ああ、宰相よ。奴らには監視をつけておけ。今は右も左もわからぬから逃げ出すことは無いと思うが念のためだ。それと腕輪はできているのか?」
「はい、命令は簡易なものしか出来ませぬが逆らわない様にするには十分でしょう」
「よし、それを勇者たちに着けさせておけ。くっくっく。これで我が悲願も叶う」
ふん。せいぜい頑張れよ。俺は俺でやる事をやるかねー。大行進を失敗してから3年。そろそろ動き出さないとあのお方が痺れを切らす。早く辺境伯領を手に入れないとな。
◇◇◇
「なぜ止めたのです姉上!」
「クリフト、あなたは馬鹿ですか! まだ私たちは生かされている立場なのです! それなのにあの様な場所で意見をすればどうなるかなどあなたもわかっているはず!」
僕は黙り込んでしまう。そんなことはわかっている。僕も姉上も他の人より魔法が使えるから生かされていることも。だけど、勇者召喚はしてはいけないものだ。召喚した人を帰すことが出来ないなんて、その人の人生を変えてしまうなんて。僕がそんな事を考えていると姉上が抱きしめてくれる。
「クリフト。あなたが召喚された勇者たちの事を思って言っているのはわかっています。しかし、私たちには陛下たちを止める力がありません。今は諦めるしか無いのです。わかりますか?」
「……はい、姉上」
「ごめんなさいね、クリフト。私の力を使えれば陛下たちに意見を言えるのだけれど、この首輪のせいで」
そう言い首元にある歪な首輪を触れる姉上。この首輪は制約の首輪といって、ある条件の元でしか能力を使えない様に制限されている。その条件というのは、戦いのときか自分が危険になった時のみだ。そのおかげで貴族から襲われはしないが、普段は全く力を使うことが出来ない。
「いえ、僕にも力があれば……」
「とにかく今は我慢の時よ。あなたも国を変えたいと思うなら今は我慢して」
「……わかりました姉上」
どれほど我慢すれば良いのだろうか。僕は姉上に抱き締められたままそんな事を思っていた。
そろそろ話を進めたいと思います!
評価どうしてよろしくお願いします!




