閑話 姉襲来
「やっと着いたわね」
私は馬車から降りる。うぅ〜ん! ずっと座りっぱなしだったから体が固まっているわね。伸びをすると気持ち良い! それにしてもさすが王都ね。道の幅も人の多さも、店の量も辺境伯領とは大違い。
「エアリス様参りましょう」
「わかったわクロエ。エリザお母様に挨拶しなきゃね」
そうして屋敷に入っていく。私は今日から王都に住む事になる。理由はカルディア学園に入学するためだ。
半年前レイが王都から帰ってこなくなってからどれだけこの日を待ち侘びたか。出会ったら一発殴ってやるんだから!
そんな事を思いながら屋敷を進んでいくと、そこには
「はい! ワン、ツー! ワン、ツー! もっと早く体を動かして!」
「はい、師匠!」
何かムキムキの男と、少年が上半身裸と物凄い笑顔で運動をしていた。あれって、マルコよね? 聞いた話だとデップリと太っていたって話だったけど、この半年間で何があったの? クロエの方を見ると若干頬を引きつらせている。クロエもこの事は予想外だったのだろう。
「あら、早かったわね」
後ろから女性の声がする。振り向くとそこには
「エリザお母様! お久しぶりです!」
「ええ、久しぶりエアリス。あなたも綺麗になってきたわね」
そう微笑んでくれるエリザお母様。綺麗になってきたなんて! 口が上手いんですから!
「お久しぶりです、エリザ様。それでアレなんですが……」
私たちは運動している2人を見る。
「ああ、アレね。クロエは知っていると思うけど半年前にジークがマルコに痩せる様指示したでしょ? それでウォントが食事関係を監視して、ジークがマルコに付けたあの兵士のティーンがマルコに運動を毎日させていたらああなったの」
……ムキムキすぎて気持ち悪いわ。12歳の体じゃないもの。
「わ、私レイのところへ行ってきます」
わたしはあまり関わりたくなかったので、逃げる様に家を出ようとする。
「そうね。レイの家はわかる?」
それは大丈夫。以前フィーリアの手紙のお返しに帰ってきた手紙に場所が書いてあったから。
「大丈夫です。それじゃあ行ってきます!」
私は使い慣れた相棒を腰に携え門を出る。確か王宮の方へ行けばわかるって書いてあったわね。私は身体強化を使用し走り出す。周りの景色が霞むくらい速く! どれだけこの日を待ち望んだか!
あの時私は王都に行っても普通に帰ってくると思っていた。だから普通に送ってたのだけれど、まさかそのまま王都に残るなんて。お母様はそうなるかもしれないって事は聞いていたみたいで余り驚いていなかった。
町の人々を避けながら走り抜ける。多分ここら辺なんだけど。
私は家の標識を1つ1つ見ていく。ここは……違う。ここも違う。ここは……ここだ! 手紙に書いてあった場所ここね! ひゃぁ〜、普通の一軒家に庭が少しついている家だけど、家族が住むには十分な広さね。ここにレイが住んでいるのかしら? 私は庭に入り扉まで進む。そして扉についているドアノッカーを使う。
コンコン、コンコン。
ふぅ〜。半年振りとはいえ緊張するわね。私どこか変なところはないかしら? 勢いよく走ってきたから髪がちょっと乱れているかな? そんなことを考えていたら中から声が
「は〜い、今開けま〜す!」
えっ? なんで? そして出てきたのは
「はい、どなたでしょうか?」
茶髪のボブカットの私より少し年上だろう女性が出てきた。あれ? 家を間違えた? 私が困惑して固まっていると
「あの〜、どちら様でしょうか?」
と出てきた女性が聞いてくる。そうだ、固まっている場合じゃない。聞かないと。
「あ、あの。この家ってレイヴェルト・ランウォーカー君の家ですよね? もしかして間違っています?」
私の中ではあっていて欲しい様な、間違っていて欲しい様な思いが混ざり合っている。
「はい、ここはレイ君の家で間違いないですが、ええっとどちら様で?」
あ、そういえば名乗っていなかったわね。物凄く困惑した顔で見てくる。
「申し遅れました。私の名前はエアリス・ランウォーカーと申します。この家の主であるレイヴェルト・ランウォーカーの姉です」
私がそう言うと、女性は
「まあ! そうだったの! ごめんなさい気付かなくて、私の名前はヘレンディーネ・ラルグルスよ。レイ君に勉強を教えているの。よろしくね!」
そう言い、手を出される。私も手を出し握手をする。
「あの、それでレイは?」
「レイ君は今頃ギルドの依頼に行っているわね。夕方には戻ると思うけど。それまで待っておく?」
ヘレンさんは首を傾け聞いてくる。当たり前でしょ! そのために来たのに帰るわけないじゃない!
「もちろん待たせていただきます!」
「そう、なら入って」
私はヘレンさんに案内されながら中に入っていく。外で見るよりも広く感じるわね。中のリビングには3人掛けのソファーが2つあって向かい合うように置いてある。そして一番奥には1人掛けのソファー。ソファーに囲まれる様に机が置いてある。
「それじゃあ、ゆっくりしていてね。今お茶を入れるから」
そう言いどこかへ向かうヘレンさん。私は部屋の中を見る。ここでレイが暮らしているのね。だけど、さっきの綺麗な人とはどういう関係なんだろう。レイがいなくても家には入れる様な関係だし。私が唯一勝っているといえば胸の大きさぐらいだろう。あんなお淑やかには振る舞えない。
「あら? 座ってれば良かったのに。こちらへどうぞ」
私が考え事をしているとヘレンさんが戻ってきた。手にはお盆に乗せられたティーカップが2つ。1つは上座の席に置かれ、もう1つはヘレンさんの方へ置かれる。
「どうぞ。いつも侍女がお茶を淹れてくれるからあまり得意ではないのだけど」
そう言い微笑むヘレンさん。悔しいけど綺麗。こんな人と毎日レイは……。
「侍女がいるって事はどこかの貴族のご令嬢でしょうか?」
「ええ、私はこの国の宰相をしているラルグルス侯爵の娘なの」
そんな相手に私は気安く話していたのか。
「これは申し訳ありませんでした。侯爵家のご令嬢にお茶出しをさせるなんて!」
私は頭を下げる。
「そんなの気にしないで。私が好きでやっているんだから」
そう言ってくれるヘレンさん。
「だけど」
「それなら私のお願いを聞いてくれる?」
そう提案してくる。何だろうか?
「何ですか?」
「ええっと、その、辺境伯領にいた頃のレイ君のお話を聞かせて欲しいなあ〜って。ほら私とか王都に来てからここ半年ほどのことしか知らないからね。レイ君も自分のことそんなに話す方じゃないし」
と顔を赤くしながら話すヘレンさん。……女の顔になっている。お父様から聞いた話だと、アレクシア殿下とは婚約者だと聞いていたけど、まさか他にもいたなんて。
「わ、わかりました。私が知っていることであれば……」
私が話し出そうとした瞬間、扉が開いて声が聞こえる。
「ただいま〜。ヘレンさんいる〜?」
この声は! 私が半年間待ち望んだ声だ! 私は即座に立ち上がり玄関の方へと走り出す。そして
「レイ!」
「へっ? わっ!」
思いっきりレイに抱きつく。もう、これでもか! っていうほど強く強く抱き締める。
「レイの馬鹿! あのまま帰ってこないなんて! もう!」
私はレイに色々言いたいことがあったけど、そのまま何も言えずに泣き出してしまった。
「姉上。お久しぶりです。半年前は帰れなくてすみませんでした」
「ううん。私こそごめん。レイの事情を知っているのに、無理言って。久しぶりレイ!」
「はい、姉上!」
久しぶりに出会ったレイは半年前よりも身長は伸び少し男らしくなった……かな? まだ9歳だからそんなに変わらないか。
「レイ、私にも紹介して欲しいな。その子を」
するとレイの後ろから綺麗な女性の声が聞こえてくる。そちらを向くとそこには金髪の髪をサイドテールにした巨乳の女性が立っていた。この人がアレクシア殿下か。
私とアレクシア殿下は少しの間睨み合っていた。
「な、何これ?」
後からやってきたヘレンさんは困惑していたけど。
長くなりそうだったので分けます。
この話は感想に描かれる前からわたしの中では書こうと思っていた話です。決して感想に描かれたからではありません!(笑)
評価等よろしくお願いします!




