40.vs吸血鬼
師匠は男の方と向き合う。なら俺はこの幼女の方か。
「なんじゃ、まだ子供ではないか。このような子供の血を吸っても美味しくはないぞ。おい変態。そっちの剣聖を儂に寄越せ。代わりに子供をやるのじゃ」
「あぁん? 何言ってんだよ婆さん。俺は剣聖を切るっていっただろう。ふざけたことを抜かすなよ」
……なんか仲間内で喧嘩し始めたぞ。
「レイはそのまま吸血鬼を頼むよ。マーリンの嬢ちゃんはレイを助けてやりな」
「わかりました」
そう言い立ち上がるマーリン魔法師団長。確かに俺1人じゃあこの人は厳しいかも。悔しいが。
「頑張りましょう。マーリン魔法師団長」
「マーリンで良いわよ。長いでしょ?」
「わかりました、マーリンさん。とっとと捕まえましょう!」
そうして俺は、吸血鬼目掛けて魔法を放つ。
「ライトニングスピア!」
それを吸血鬼は
「小僧が、話し中に邪魔をするな! ダークネスクロー」
俺のライトニングスピアは吸血鬼の魔法付与した右手で消される。だが、
「アースショット!」
マーリンさんが魔法を放ってくれる。
「呪い持ちが、邪魔をしおって」
「それじゃあ、俺たちも始めるか剣聖」
「ふん。また……いや、今度はあの世に送ってあげるよ」
そうして師匠たちも戦い始めた。
「ちっ! 変態に取られたか。直ぐにこいつらを殺してあっちに混ざるとするかの」
「そう簡単にいくかな!」
俺は身体強化を発動し吸血鬼に迫る。
「はぁぁ!」
俺が槍で突くと払われ、薙ぎ払うと防がれる。中々すばしっこい。
「ほほう。年齢の割にはやるの。だかその程度では儂には届かんのじゃ」
「やかましい婆さんだな。ライトニングスピア10連!」
ズドドドトン!
俺は至近距離で魔法を放つ。これなら当たるだろう、と思っていると、砂煙りから
「まだまだ甘いわ!」
と吸血鬼が出てくる。そして魔法付与がされた腕で攻撃をしてくる。
くっ! 何とか槍で防ぐが一発一発が重たい。
「ほらほらどうした小僧。さっきまでの威勢はどこへいった!」
「ちっ、ならこれならどうだ!」
俺は殴りかかってくる腕を払いそして零距離で
「ライトニングスピア!」
ズギャーン!
「ぐはぁ!」
今のは手応えがあったぞ。
「どうなったの?」
「わかりませんが……つ! マーリンさん危ない!」
「えっ!」
吸血鬼を吹き飛ばした先から物凄いスピードで黒い物体がマーリンさん目掛けて伸びてくる。
俺はマーリンさんを押し出しそして、
グサッ!
「ぐはぁっ!」
「レイ君!」
くそ! 腹に刺さりやがった。しかも刺さった瞬間返しが現れて抜けない。
俺はそのまま宙に吊らされる。
「ぐぁあああ!」
「……お主の事を甘くみとったわ小僧よ。儂も本気を出そう。闇魔法カオステンタクル」
吸血鬼の背中から8本の黒い触手が蠢いている。気持ちの悪い魔法だな。
「ぐぅぅぅぅう! はぁ!」
俺は無理矢理触手を抜く。くそ、返しのせいで傷が抉れちまった。……腹に風穴が空いたぞ
「レイ君!」
「来るな!」
俺が触手から抜け出した瞬間、残りの触手が迫る。
「ちっ! ライトニング身体付与二重! 武器付与!」
俺は身体付与をし何とか槍で弾くが、それ以上触手が速い。
「レイ君! この! フレイムバースト!」
マーリンさんが何度も魔法を放つが触手で防がれる。何て硬さだ。
「面白い真似をするのぉ、小僧。だがまだまだじゃ。呪い持ちも邪魔じゃ!」
くぅ。どんどん速くなっていきやがる。今は何とか防げているがこのままじゃあ……
「考え事とは余裕じゃのう!」
やばっ! 弾ききれなかった触手が目の前に。そして
グシャ!
「がっ!」
俺は吹き飛ばされてしまった。近くにあった住宅まで飛ばされてしまう。……これは何本か骨がいっているな。
「レイ君! この! フレイムバースト! フレイムバースト!」
「効かんわ呪い持ちよ」
くそ! マーリンさんが危ない。動けよ。俺の手足動きやがれ!
すると
「主様。私を使って」
マリリンがそんな事を言う。
「え?」
「もう! 私と契約したのにどうして使ってくれないのよ。私と契約した時点で主様のステータスにはヒカリンと契約した時と同じ称号が付いているのよ。しかもさっき水魔法のレベルが4に上がっているから、レベル5までの水魔法が使えるわ。少し魔力が必要だけど誤差の範囲よね」
そう言いウィンクをするマリリン。……すっかり忘れていた。初めによろしくとか言っておきながら忘れるなんて。
「はは、ごめんよ。すっかり忘れてたよ。……レベル5の魔法が使えば俺は動くことができるのか?」
「しかもその雷魔法みたいに身体付与をすれば魔力の続く限り常時回復状態よ!」
それは有難い。問答無用に突っ込める。
「わかった。その水魔法を教えてくれ」
「そうね。主様の魔力借りるわよ。水魔法ハイヒーリング!」
マリリンが魔法を唱えた瞬間傷口が少しずつ塞がっていく。
「これは良いな。マキシマムヒーリングよりかは遅いがそれでも十分だ」
俺は何とか立ち上がることができた。
「それはそうよ。マキシマムヒーリングはレベル7の水魔法なのよ。効果は全然違うわ。さあ、主様も使って」
「ああ、ハイヒーリング身体付与三重!」
おお! さっきより傷口の塞がる速さが速くなった。
「むむむぅ〜! マスター! 魔力が溜まったの! 雷魔法も使えるの!」
「え? でも、ヘンドリクスの時に使ってしまったはずじゃあ」
「つーかーえーるーの! 今までネコババしてた分を使うの!……あっ」
……俺の魔力をネコババしていたのか。全く気づかなかったぞ。
「まあ、兎に角使わせてもらうよ。カオスボルテックス身体付与二重、武器付与!」
バチバチ! よし、これでいける!
俺が突っ込んでいった小屋から出ると触手に体を吊らされているマーリンさんが見えた。まずい、このままじゃあ貫かれる。
「終わりじゃ、呪い持ちよ」
そしてマーリンさんに触手が迫る!
「終わらせねえよ! 黒雷槍!」
俺は黒雷を纏った槍でマーリンさんに迫る触手を切り飛ばす。そしてマーリンさんを吊るしている触手も切る。おっと触手から解放されたマーリンさんを受け止めなければ。
俺はお姫様抱っこでマーリンさんを受け止める。
「大丈夫ですか、マーリンさん?」
「え、ええ、大丈夫よ」
なんかボーっとしてるけど本当に大丈夫か? とそこに
「なっ! なぜそんなに動ける! あれ程ボロボロだったのに何故じゃ!」
と喚く吸血鬼。
「俺には優秀な相棒達がいるからな」
俺がそう言うとドヤ顔をするヒカリンとマリリン。
「な、何のことか意味がわからんわ!」
「そりゃあ、わからないさ。まあ、そんな事はどうでも良い。終わらせよう」
俺は槍を構える。
「終わらせるじゃと。ふざけるのも大概にせよ、小僧がぁ!」
そう言い吸血鬼は触手で攻撃してくる。さっき切ったのも復活している。だが
「はぁぁぁあ!」
全ての触手を弾き返す。
「な、何故じゃ。この様な小僧に儂の本気が……」
「じゃあな、吸血鬼の婆さん。黒雷の撃槍!」
俺はそのまま吸血鬼を貫く。
「グギャャアアアア!」
雷鳴が轟く。そして収まると同時に
「あ……ああ……」
吸血鬼が倒れる。
「……中々ギリギリだったな」
途中でハイヒーリングが切れていたのか風穴が空いた傷は塞ぎきっておらず出血している。
「レイ君! レイ君だいじょ……血が!」
「……それよりも師匠のところに行かないと。まだ終わっていない様なら手伝わないと」
俺が無理を言うと、マーリンさんは怒りながらも、傷口を押さえながら肩を貸してくれた。助かる。
そして師匠のところに行くと
「ようやく終わった様だねぇ。格上との戦いはどうだった?」
切り裂き魔の上に笑顔で座る師匠がいた。切り裂き魔は手足が切り落とされて瀕死の状態だ。……さすがはナノール王国最強。圧倒的だ。
こうして脱走者100名近くを出し、戦死者を500名近くも出したヘンドリクスの脱獄事件は幕を閉じた。
評価等よろしくお願いします!




