38.2体目
「な、なぜ貴様がここにいる! シルフィード・シックザール!」
「そりゃあ、学園の近くでこれだけ騒いでちゃあ来ないわけにはいかないだろう?」
俺は学園長とヘンドリクスが話している内にフェリス王女を抱え、離れる。
「レイ! 早く! 早く血を止めないと!」
「まだ、終わってません! 後にして下さい!」
「でも!」
「早く離れて!」
フェリス王女には申し訳ないが強めに言う。まだ魔剣持ちがヘンドリクス他に5人もいる。油断はできない。
「まあ、坊やは少しそこで見ておきなさい。私がこいつらを片付けるから」
そう言い、背に背負っている大剣を抜く。
「行くよ。ヘンドリクスの坊や。覚悟するんだねぇ」
「くっ! お前ら、貴族どもをころ……えっ?」
なっ! 気が付いたらヘンドリクスの首が飛んでいた……。早過ぎる。太刀筋が見えなかったぞ。あの大剣を何であんなに早く振れるんだ?
「なっ! ヘンドリクス様! 貴様!」
そこに他の魔剣持ちの兵士が迫る。だけど、慌てることなく構える学園長。
「遅いねぇ」
1人の兵士が学園長に剣を振りかざす。かなりの速さだが学園長には遅いらしい。そして大剣振るうと、兵士は胴体から上と下が真っ二つになった。
「くっ! 一斉に攻めるぞ!」
兵士たちは1人ずつでは駄目だと思ったのか、今度は四方から攻め始める。だけど学園長は怯まない。4人の剣戟を笑顔で防ぐ。
そして気が付くと1人。また1人と倒れていく。良く見ると首や胴が斬られている。
ははっ、これが国最強の強さか。次元が違う。そんなことを考えていると
「レイ……」
「大丈夫よ、レイ。これから強くなれば」
隣にいたフェリス王女と、いつの間にか側にいたアレクシアが俺の左手を握ってくれる。俺はいつの間にか強く握り締めていたようだ。
「これで終わりだよ!」
「なっ! ぐへぇ……」
気が付いたら4人とも斬られていた。強いな。
「ゲインの坊や。今の内に地下まで行きな。他の奴らはマーリンの嬢ちゃんが抑えている。今のところは安全だから」
「ありがとうございます。シックザール様。さあ、皆さん早くこちらに!」
ゲイン近衛団長は学園長にお礼を言うと、貴族の皆を率いて歩み始めた。それを見ていたら
「レイ。とりあえず治療をしよう。血が流れ過ぎている」
「そうよ! 早く血を止めないと!」
「レイ!」
「レイ君!」
「お兄様!」
「レイ様!」
皆がやってきた。
「誰か高レベルの水魔法を使える人はいないか!」
アレクシアが叫ぶが、そう簡単には見つからない。誰もが気まずそうに目をそらす。とりあえず止血だけでもするか。
「母上。取り敢えず止血だけでもお願いしてもよろしいですか?」
俺がエリスに頼むと、やべ。泣き出してしまった。
「この馬鹿息子! こんな無茶して! どうするのよ! ここには高レベルの水魔法が使える人がいないのよ! あなたは2度と槍を振れないのよ!」
それを聞いたフェリス王女が泣き出してしまう。それが伝わったのかヘレンさんやフィーリアたちもだ。アレクシアは苦い顔をしている。
「ご、ごめんなさい。私が、私が自分勝手に突っ込んだりしたから」
「それは関係無いですよ、フェリス王女。あの時は私も行こうとしていました。誰かが行かなければあの女の子は死んでいたんだから」
「でも!」
それでも言おうとするフェリス王女に被せるように声が聞こえた。
『なら私がシルフィードとフィーちゃんの願いを聞いてあげるわ』
「これは珍しい」
「本当ですか!」
近くにいた学園長とフィーリアが突然声を上げる。誰の声だこれ?
「どうしたのよ、フィーリア?」
「お母様! 水の精霊さんがお兄様の腕を治してくれるそうです!」
「「「「なっ!」」」」
全員が驚きの声を上げる。それもそうだ。精霊が力を貸してくれるなんて。
『その代わりフィーちゃんの今ある魔力を全部貰うわね』
「わかったのです!」
「なら私も渡そうかね」
『あら、気が効くじゃない。それじゃあフィーちゃんからはある分の半分を貰ってシルフィードから残りを負担してもらいましょうか。それじゃあ腕を引っ付けて』
水精霊がそう言うと学園長が腕を持ってきてくれた。そして
『いくわよ。水魔法マキシマムヒーリング!』
おお! 俺の腕が引っ付いていく! 魔法ってなんでもありだな。
「ふにゃあ〜」
「フィーリア!」
『大丈夫よ。魔力の消費が大き過ぎて気を失っただけだから。それじゃあバイバイ〜』
そう言って水精霊は消えていった。学園長はまだ余裕そうだな。
「ありがとうございます、学園長。ほとんどの魔力を負担して頂いて」
「なに、大した量じゃないさ。気にすることはないよ。それより待ってるよ」
えっ? 俺が何かを聞こうとした時
ドスン!
うぐっ! は、腹に衝撃が……
「うえぇぇぇえん! ごめんなさい! 本当にごめんなさい!」
フェリス王女が俺の腹に突撃してきてまた泣き出してしまった。耳も垂れ下がり尻尾も元気がない。
「そんなに気にすることはありませんよ。腕は元に戻りましたし」
「でも! でもぉ」
「ほら泣き止んでください。可愛い顔が台無しですよ」
俺はフェリス王女の顔を拭いてあげる。
「わだじ、決めた」
「何をですか?」
俺は笑顔で聞いてみると
「これからレイのために強くなる。レイに心配かけないようにもっともっと強くなるから!」
決意の満ちた目で俺を見てくる。
「なら、一緒に強くなりましょう! 俺も頑張りますから」
「うん!」
やっぱりフェリス王女は笑ってないとな。すると肩を叩かれた。そっちを見るとアレクシアがいた。
「そろそろ私たちも移動しようか。学園長はどうされるので?」
「私はこのままマーリンの嬢ちゃんのところへ行ってくるよ。奴らを止めないとねぇ」
そう言い肩に大剣を背負う学園長。
「坊やも来るかい?」
「良いんですか? 俺じゃあ足手纏いじゃあ」
「なに、さっきみたいに人質をとられたりしなければ大丈夫だろう。魔剣持ちを抑えといておくれ」
「わかりました。母上。行ってきます」
「もう! お願いだから無茶だけはしないでね」
「わかりました。それじゃあフェリス王女。申し訳ないのですが離れて頂いてもよろしいですか」
「フェリス」
「え?」
「私の事はフェリスって呼んでちょうだい! あと敬語も禁止! わかった?」
「いや、でも、王女にそのような……」
「フェリス!」
「いや、その……」
「フェ・リ・ス!」
「わ、わかりま……わかったよフェリス」
俺がそう言うと
「よろしい」
と離れてくれた。耳は元気よく立ち、尻尾は嬉しそうに振られている。なんでだろう?
『あなたも罪な男ね。どんどん女を落としていって』
「え? あなたはさっきの精霊? 消えたはずじゃあ……」
姿は見えないが声だけがする。
『あなた面白そうだからついて行くわ』
え? ついてきてくれるの? でもその言葉に
「ダメなの! マスターの精霊は私なの!」
とヒカリンが反対する。
『でも、1人の人間に1体の精霊って誰が決めたの?』
「そ、それは決まってないの」
『なら良いじゃない。まあ、今までいなかっただけなんだけどね。契約できる人は限られているし、私たちも気まぐれだから』
「うぅ〜、仕方がないの。マスターがもっと強くなるためならガマンするの。でも! マスターの1番精霊は私なの!」
『わかったわよ、先輩。さあ、契約しましょ。名前をつけて』
名前か……ヒカリンに付けた時は即ダメだしされたからな。ここは注意して付けないと。
「それじゃあキミの名前は……マリリンだ!」
名前をつけた瞬間青白い光が輝いて、青の長髪をした俺の頭に乗るくらいの小さい少女が現れた。
「……まあ、いろいろ言いたいことはあるけどよろしくね主様」
「よろしくマリリン」
周りは俺が1人で話しているように見えるのか怪訝な顔をしているが、こうして2体目の仲間が増えた。
よろしくお願いします!




