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35.誕生会(開催前の出来事2)

 俺はフェリス王女の手を引きながら廊下を歩いていく。もう誕生会の開始前だからか人が少ないことが幸いした。フェリス王女のこの姿を見たら、俺がやったみたいに見えるからな。


 先ほどの場所からある程度離れた場所で俺たちは立ち止まる。


「フェリス王女。先に腕の怪我を治療しましょう」


「……腕?」


 もしかして気付いていなかったのか?


「はい。この青アザが出来たままではいけませんので」


 そう言い水魔法のヒールを使う。よし、少しずつ色が戻ってきた。


「フェリス王女。痛みはありませんか?」


「大丈夫よ」


 さっきからずっと下を向いていて本当に大丈夫か? 俺は下から覗き込む。


「本当に大丈夫ですか、フェリス王女?」


 すると


「ヒィィ!」


 ……怯えられてしまった。本当にどうしたんだ?


「あ、ご、ごめんなさい。昔の事を思い出したらつい……」


「いえ、それは良いのですが、何かあったのですか?」


「……」


「いや、別に言いたくなければそれで良いんですが」


「……そうね。あなたも全くの無関係って訳じゃないから話すわ」


 何で俺が無関係じゃないんだ?


「何処か落ち着けるところへ行きましょう。確かこっちに……」


 俺より王宮に慣れているな。俺は先程とは逆にフェリス王女に手を引かれながら歩いていく。外に出たりして数分ぐらいすると


「ここでしましょう」


「おお、こんな大きな木があったとは」


 高さ6メートル程で幹周りが4メートルはある大きな木がそこには生えていた。


「この木はね。寒い季節から暖かくなる季節の中頃に花を咲かす木でね、咲いた時はね桃色の花をいっぱい咲かせてとっても綺麗なのよ。噂によると精霊が宿っているみたい」


 そう嬉しそうに話すフェリス王女。それってもしかして……


「名前はスリジエって言うらしくてこの王国が出来た時からあるみたい。伝承には名前と、このまま残すようにとしか書いていないってアレクシアお姉様が言っていたわ」


 絶対桜だ! 種類はわからないがそうに違いない。


「さあ、座りましょう」


 あっ! そのまま座ると


「フェリス王女様。そのまま座られると服が」


「良いのよ。さあ座って」


 そう言い自分の隣の地面を叩くフェリス王女。俺もフェリス王女の隣に座る。


「あなたが関係あるって言ったのはアレクシアお姉様も関係しているからなの」


「アレクシアが?」


「うん。私がアレクシアお姉様を好きになった理由が今から話す話だから」


 そう言いフェリス王女は話し始めた。


 ◇◇◇


 あれは5年前の暑い日だったわ。ナノール王国と獣人国ワーベストは5年おきに同盟の内容の確認と更新のために大きな会議を行っているの。


 普段も会議はしていたりするけど、その会議だけは各官僚や軍など総出で対応するような大きな会議。


 5年おきで開催する場所も入れ替えて行っていて、その年はワーベストでやる年だったわ。


 もちろんそれだけ大きな会議が1日2日で終わるわけもなく、1週間近くある会議。全員が出席すると言ってももちろん子供は出ない。ナノール王国側は上のアルバート王子が出席し、アレックス王子とマリーナお姉様が王妃様たちと王国に待機。その時9歳だったアレクシアお姉様はついてきたみたい。


 私は毎日アレクシアお姉様やファーガス兄様と遊んでいたのだけれど、2人は基本戦うだけで、その頃あまり武術に興味のなかった私は面白くなかった。


 誰も相手してくれないので、私は出来心で城を抜け出した。そうすれば誰かが私を構ってくれる、あの時はそう思い込んでいたわ。今にして思えば本当に子供みたい。


 私は王族だけが知っている秘密の通路を使って街へと出た。そこは街の真ん中の栄えている場所ではなく、人目につかないような少し暗い場所だった。


 でもその時の私は1人で探検できる事のワクワクには勝てずにそのまま進み出した。


 それから何時間ブラブラして歩き疲れた私は、もう帰ろうと思い元来た道を戻り始めたのだけれども、まだその時5歳だった私には来た道もわからずに迷子になってしまった。


 私は泣きそうになるのを我慢し進んでいると目の前に気持ちの悪い笑みを浮かべた男たちが立っていた。


「こんなところでどうしたんだよ、お嬢ちゃん?」


「へっへっへ。こんな身なりが綺麗なやつ、絶対貴族だろうな」


「しかもこんな可愛い子だったら、奴隷として売ったらかなりの高値になるぜ!」


 私は恐くて動けなかった。だけど男たちは待ってくれない。


「ひひひ、嬢ちゃん俺たちと良いところに行こうぜ」


「ヒャハッハ! こいつを売ればいくらするだろうな?」


「結構いくと思うぜ!」


「い、いやぁ、こ、こないでぇ」


 私は泣き出してしまったが、そんな事を聞いてくれるわけがない。私は後悔した。お父様やお母様の言う通りに城にいなかったからこうなった。アレクシアお姉様やファーガス兄様と一緒にいなかったからこうなった。ただただ心の中で謝るだけになってしまった。


「さあ、来い!」


 男が私の手を掴もうとしたときはあまりの恐さに目を瞑ってしまっていた。でもその時に一筋の風が吹いたの。私はいつになっても掴まれないので目を開けてみるとそこには


「大の大人が小さな女の子を囲んで恥ずかしくないの?」


 二刀の剣を構えたアレクシアお姉様がそこには立っていた。


「また、綺麗な女の子だぜ! こいつも売れば」


「俺たちにも運が回ってきたぜ!」


「ふん! 下衆どもが。フェリス、下がっていなさい!」


「ひゃ、ひゃい」


 そこからは一方的だった。アレクシアお姉様が剣を振るえば腕は飛び、魔法を撃てば男たちは吹き飛んでいく。私はその時のアレクシアお姉様の戦う後ろ姿が眩しく見えたわ。


 そして少ししたらファーガス兄様と憲兵たちがやってきて事態は収まったわ。


 城に戻ってきた私に待っていたのはお父様の雷だったわ。でもその後に力強く抱き締められたのを覚えている。


 でも、より鮮明に覚えていたのはアレクシアお姉様の戦う後ろ姿だった。目を閉じても何かをしていても脳裏に浮かんでくる。あの姿は私にとっての女神だったわ。その時から私はアレクシアお姉様に恋をしていたのよ。


 ◇◇◇


「それじゃあ、さっき震えていたのも」


「やっぱりバレていたのね。そうよ。あの事件のすぐ後は、お父様とお兄様以外の男の人に近づくことが出来なかったわ。最近ようやく話すことが出来るようになってきたけど、ああ迫られるとやっぱりダメね。体が震えちゃう」


 さっきの光景と、昔の光景を思い出したのかまた震え出すフェリス王女。


 俺はそんな弱々しい姿を見ていられなかった。俺の中でのフェリス王女は初対面があれだっただけに元気な明るい女の子って感じがしてしまう。どうすれば乗り越えることが出来るのだろう?


「帰る前にお姉様にどうして私のいる場所がわかったのかって聞いたのよ。そしたら何て答えたと思う? ニヤって意地の悪い顔して『私も同じようなことをしたことあるからよ!』って自信満々に言うんだから私もう可笑しくて可笑しくて笑っちゃった」


 そう楽しそうに話すフェリス王女。本当にアレクシアの事が好きなんだな。


「あっ、ごめんなさい。1人で勝手に盛り上がっちゃって」


「いえ、全然大丈夫ですよ」


「ふふ、ありがとう。それでね、今話していて思い出したことがあるの」


「何ですか?」


「何でアレクシアお姉様が私との約束を忘れていたかよ」


 結婚がどうのって話か。


「会議が終わって帰る際に私はアレクシアお姉様に聞いたの『どうすればアレクシアお姉様と一緒になれますか!』って。私の中では結婚を含めた意味で言ったのだけれども、アレクシアお姉様は何て答えたと思う?」


「……私にはわかりません」


「ふふ、ちょっとは考えなさいよ。アレクシアお姉様は『私と一緒に戦いたいのなら私に勝てるぐらい強くなる事よ』ってね。そのあと私は『それなら私が勝ったらワーベストに来てください!』って言ってお姉様が『わかったわ』て答えただけなの。

 あの時は興奮していて気づかなかったけど、今冷静になって考えてみるとアレクシアお姉様は、私が一緒に戦いたいと思ってるのだと思う。笑っちゃうわよね。最初から間違っていたなんてね……」

 

 そう言い笑うフェリス王女。でも心は


「はは、って、あれ? 何で涙が流れるの。今は笑うところなのに。どうして。どうして止まってくれないのよ……」


 泣いていた。それが本心なのに。我慢する必要なんてないのに。俺はそう思い魔法を使う。


「土魔法アースウォール」


「え?」


「この壁の中なら声は外に漏れないですし、外からも見えません。俺も外に出ておきますので好きなだけ。中から殴ったら崩れるように脆く作っていますので」


 そう言い俺は外に出る。


 数分後


 バゴォーン!


 ……そんな勢いよく殴らなくても崩れるんだけど。


「大丈夫ですか」


「うん。ありがとう」


 そう言い微笑むフェリス王女。うわっ、泣き過ぎて目元腫れてるよ。


「フェリス王女。動かないで下さいね。ヒール」


 俺がヒールを使うと……うん。元に戻った。


「これで大丈夫です、フェリス王女」


 俺も微笑む。すると


「う、うん。ありがとぉ」


 また俯いてしまった。まだ調子が悪いのか?


「まだ思い出しますか?」


 俺が顔を覗き込むと


「う、ううん! 大丈夫! 大丈夫だから!」


 と慌てて俺から離れる。顔を真っ赤にするほど怒っている。よっぽど嫌われたな俺。まあ、いいや。とにかく戻ろう。


「フェリス王女。部屋に戻りましょう。みんな心配していましたよ」


「うん、わかったわ。その前にちょっといい?」


「何ですか?」


「そ、その、あの……」


 何だ? もじもじとして。


「まだあなたに謝ってなかったの。私の勘違いで殴ってごめんなさい!」


 そう言い頭を下げる。あれ? 謝らなかったっけ?


「先ほど部屋で謝ってもらいましたよ?」


「あれはお父様に言わされていたから。今のが本心。本当にごめんなさい」


「もう、良いですよ。フェリス王女の謝罪は受けとりましたから」


「うん、それとさっきは助けてくれてありがとう!」


 ……やっぱりフェリス王女はこれぐらい明るくないとな。


「当然のことをしたまでですから。さあ、みんな待っています。戻りましょう」


「うん、行きましょう、レイ(・・)!」


 そう言われ俺の手を引き歩き出すフェリス王女。……あれ? 今初めて名前で呼ばれたような……俺のこと嫌っているはずなのに。


 まあ良いか。

昼には更新できませんでした。

よろしくお願いします!

ブクマ、評価お待ちしております!

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