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特別編 奇跡の1日

逆お気に入りユーザーが500人を突破した記念に作成しました!


「ん? 空間に穴が空いた?」


 とある日の朝。魔法を教えて欲しいと言うエレネとアレンを連れて庭にやって来ていると、アステルがそんな事を言って来た。隣でその光景を見ていたエアリスも俺と同じ様に首を傾けている。


「はい。空間に穴が空いて別の世界に繋がっている様なのです」


「それって不味いんじゃ無いのか? 早く閉じないと?」


 俺が尋ねるとなぜか首を横に振るアステル。意味がわからんぞ。


「それが、こちらからは向こうへと行けるのですが、向こうからはこちらへは来られない様なのです」


 うーん、原因が全くわからないけど、取り敢えず閉じてしまえばいいわけだな。


「それならさっさと閉じて終おう。万が一誰かが通って戻れなくなってもいけないしな」


 俺は立ち上がりその場所に向かおうとすると、下から袖を引っ張られる感覚。手の引かれる方を見るとそこには、目をキラキラとさせたエレネがいた。物凄く嫌な予感。


「ど、どうしたんだ、エレネ?」


「パパ! 行きたいの!」


「ダメです」


 俺はエレネのとんでもない言葉に即答する。ダメに決まっているだろう。俺の言葉に頬を膨らませるエレネ。怒っている顔も可愛いがお父さん許しませんよ?


「今日はおじいちゃんのところに連れて行ってあげるから大人しく待っててくれ」


「い〜や〜! 連れてってぇ〜!!」


 俺がダメだと言うとエレネは庭に寝転がり駄々を捏ね始めた。こういうところは昔のどっかの誰かさんに似てるぞ。俺がチラッと見ると目を逸らすエアリス。本人も自覚はあるみたいだ。さて、どうやって諦めさせようかと考えていると


「別に連れて行っても大丈夫だと思いますよ」


 と、アステルが言い出した。その理由を聞くと、俺がいるから大丈夫とかなり適当な事を言い出してくるし。そして、何故かエアリスが行く気になっている。もう、こうなってしまったら止める事は出来ない。俺は嫁さんには弱いのだ。


 しかし、こういうところは本当に親子だよなぁ。エアリスも昔はかなりやんちゃしていたし。それに何度も巻き込まれたりして。


「ん? そんなに見て来てどうしたのよ?」


「いや、楽しそうだなぁと思ってさ」


「ふふっ、当たり前でしょ? 家族でお出かけなんだから」


 はは、そんな優しいものじゃ無いと思うけど、まあ、楽しそうなら良いや。何かあれば俺が何とかすれば良いし、最悪無理矢理転移してこっちに戻って来れば良いんだから。


「それで、アレンはどうする? 一緒に来るか?」


「い、いえ、今日はマリーと約束があるので良いです」


「そっか。それなら駄目だな」


 俺がニヤニヤと答えると、アレンは屋敷の中へ逃げて行ってしまった。全くウブなやつだ。そんな事をしていると、エアリスとエレネは準備が出来たようだ。


 アステルにはこっちに残ってもらいみんなへの伝言と、こっちから空間を超えないように見張りをしてもらう。


 アステルに言われた場所に転移すると、そこはランウォーカー王国の近くにある森の中だった。そこにはポッカリと穴が空いており、ゴブリンとかの魔物が中へと入って行っていた。


「うわぁ〜、こんな穴が出来るのね。初めて見たわ」


「ああ、俺もだよ。エレネ、向こうに行って危険だと分かったら直ぐにこっちに戻って来るから俺たちから絶対に離れるなよ?」


「は〜い!」


 手を挙げてお気楽に返事をするエレネ。少し心配だが俺たちが注意しておけば良いだろう。


「それじゃあ、行くけど絶対に離れるなよ?」


「ええ」


「はい!」


 俺たちは手を繋ぎ空間を通る。特に痛みなどを感じる事なく普通に通り抜ける事が出来た。そして、アステルが閉じたのだろう、消える空間の亀裂。


 亀裂が塞がるのを確認してから周りを見ると、先ほどのような森の中だった。ただ、さっきの森と違うのは、この森の中からは戦闘音が聞こえる事だ。


 それに気が付いた2人は直ぐに武器を構える。俺もアイテムリングからガラドルグを取り出す。戦闘音のする方へと森を抜けると、その先には、ゴブリンたちと戦うこの国の兵士たちの姿があった。その中でも一際目立つのが黒髪の少年だ。


 俺と同じか少し下ぐらいの少年は、この中で唯一黒髪で、左目には大きな切り傷がある。全身を髪と同じように真っ黒に染めた鎧を着て、両手には漆黒の剣と純白の剣がそれぞれ握られていた。


「旋風流、風切!」


 少年が剣を振ると、剣から斬撃が飛ぶ。放たれた斬撃は次々とゴブリンたちを切って行く。かなりの剣術の使い手だ。その隣には同じように強烈な斬撃を放つ水色の女性がいた。


 20体近くいたゴブリンたちは瞬く間に倒されて行く。他の兵士たちも先ほどの2人ほどでは無いが連携が取れており、怪我人は誰1人いないようだ。


「誰だ、お前たちは!」


 その光景を見ていると、別の兵士が俺たちに気が付いた。そして全員が俺たちへと武器を構えて来る。兵士の中をかき分けるように前へと出て来る黒髪の少年。


 うわぁ、かなり俺たちを怪しんでいる。それもそうか。俺たちは空間のある方から来た。その方角は当然ゴブリンたちが現れた方だ。怪しまない方がおかしい。


「……あなたたちはどこから来たのです? ここら一帯は兵士が通さないようにしていたはずですが?」


 そう質問して来る黒髪の少年。さて、どう答えようか。無駄に争いを起こしたくは無いし、嘘をつく理由も無い。どう答えようか考えていると


「空間の向こうから来ました!」


 手を挙げながら元気良く言っちゃったエレネ。その言葉を聞いた黒髪の少年と兵士たちは一気に殺気立つ。これはもう話し合いじゃあ駄目かなぁ。


「詳しく話を聞く必要があるな」


 そう言った瞬間、俺たちの方へと向かって来る黒髪の少年。仕方ない、あまり争いたくは無いけど、やるしか無いのか。そう思いガラドルグを構えた瞬間、ズドンッ! と、少年と俺との間に何かが落ちて来た。な、なんだ!?


「痛てて、まさか空間が割れるなんて」


「もう! あんなところでとんでもない魔法を放つからでしょ!」


 土埃の中から出て来たのは、白髪の少年と青髪の女性だった。白髪の少年は目が赤く、手には真っ赤に染まる剣が握られており、青髪の女性は青く輝く細剣を握っていた。


 ただ、これだけなら普通の少年と女性なのだが、彼らから感じる雰囲気が魔族に似ている。それも純粋な魔族では無く、混じったような感じだ。


「ご、ごめん、マリアさん。でもあの敵相手にはあれぐらい……あれ?」


「何を急に黙っちゃっ……て……え?」


 俺たちがいる事に気が付いたのか、固まる2人。その2人も敵だと思ったのか黒髪の少年はそのまま向かって来た。


「はあっ!」


 白髪の少年へと切りかかる黒髪の少年。白髪の少年は直ぐに右手に持つ赤く染まる剣で防ぐ。そこに横から細剣が突き出される。白髪の少年と一緒に来た青髪の女性が攻撃したのだ。


 黒髪の少年は顔を逸らして細剣を避けると、そのまま距離を取る。その際に飛ぶ斬撃を白髪の少年と俺に向かっても放って来た。


 白髪の少年たちは、転移の魔法を発動したようで斬撃の当たる範囲から離れたところに移動していた。俺たちの分は、俺が全部弾いたが。


 3人で睨み合う俺たち。さて、どうしようかと考えていると、バシッと何かを裂ける音がする。音のする方を見ると、突然空間が割れてそこから禍々しい竜のようなものが現れた。


 しかもこの竜、どこかで……八翼の翼に漆黒の竜。目には知性が感じられずにまるで人形のような雰囲気だが、間違いない。こいつは黒竜王のイレーズだ。


 なんで生きているのか、どうしてここに現れたのはわからないが、そんな事はどうでもいいな。取り敢えずレビンさんの仇を討つ事は出来るわけだ。


 思わず顔がニヤけてしまいそうだ。俺はガラドルグを強く握り、エアリスたちを後ろへ下がらす。


 イレーズは空間の裂け目から完全に現れると、大地を轟かせるような咆哮を放つ。良く良く見ればこいつ、微かに神気を纏ってやがる。一体どういう事だ?


 訳がわからずに考えていると、イレーズへと向かう影が。黒髪の少年と白髪の少年たちだ。出遅れちまった。


「はっ!」


 黒髪の少年が剣に魔力を纏わせながら、イレーズへと切りかかった。イレーズは左腕で払うように黒髪の少年の剣を弾くと、そのまま右腕で黒髪の少年へも殴りかかる。


 黒髪の少年は横に飛んで避けるが、イレーズが地面を叩きつけた勢いに吹き飛ばされる。吹き飛ばされた黒髪の少年を狙うように、イレーズは翼に魔力を纏わせはためかせる。


 イレーズの翼から放たれた風圧は黒色のかまいたちとなり、黒髪の少年へと襲いかかる。黒髪の少年は避けようと動くが、黒のかまいたちの方が速い。これは間に合わないと思い、俺が転移で助けに入ろうとしたその時、黒髪の少年を囲むように火柱が立ち上る。


 火柱は黒髪の少年をかまいたちから守る。そして、イレーズの目の前に現れたのは白髪の少年だった。彼も転移を使えるようだ。


 目の前に移動した白髪の少年は、イレーズの頭へと切りかかった。防御が間に合わないイレーズは、モロに白髪の少年の剣を頭に受ける。


 イレーズの頭に傷が付くが、イレーズは気にした様子もなく、頭で叩きつけるように振って来る。白髪の少年は転移で避けるが、イレーズは予測していたのだろう、白髪の少年が移動した先へと尻尾を振っていた。


 白髪の少年も流石に連続して転移を使う事は出来ないようで、迎え撃つ姿勢を取る。まあ、そんな危険な真似はさせないけど。


 俺も転移を使い白髪の少年の隣に移動。白髪の少年は驚いているが、今はそれどころではないので、そのまま再び移動する。今度は黒髪の少年の横へと。


「おおっ、あんたも転移が使えるのか?」


「ああ、まあな。それよりも、ここは共闘と行こうぜ」


「……共闘ですか?」


「ああ。あいつを倒すのにな」


 俺1人でも倒せない事はないが、協力した方が楽だ。彼らもかなりの実力者のようだし。


「俺は賛成だ。近くには俺たちの領地もあるんだ。ここで食い止めなきゃ被害が出る」


「僕も構いません。あいつに一太刀入れないと気が済みませんし」


 俺の案に賛成してくれる2人。良し、それならやろうか。俺たちは特に合図などもなく同時に3方向へと分かれる。


「纏・天!」


憤怒の炎心魔剣ラース・レーヴァテイン!」


 2人はそれぞれ切り札なのか技を発動する。黒髪の少年は目に見える程の魔力を身に纏い、それぞれ白と黒に輝く剣を構えて走る。


 白髪の少年は、先ほど以上に禍々しく変わった赤黒い剣を持つ。まるで血管のように脈打つ線は魔力が通っているようだ。これは俺も負けてられないな。


「雷装天衣!」


 俺も走りながら魔法を発動。俺の得意な雷魔法だ。背後には雷帝の武器庫(グロム・アームズ)を発動しているため、雷で作り出された武器が舞う。


 3人の中で1番初めにイレーズへと迫ったのは、黒髪の少年だった。先ほどの倍以上の速さで迫る少年を見て焦ったのか、イレーズはかまいたちを連発する。


 しかし、かまいたちは黒髪の少年を掠る事なく後ろへと外れていった。黒髪の少年は必要最低限の動きで避けているため、まるですり抜けているかのように見えるのだ。


 かまいたちでは駄目だとわかったイレーズは、刺し殺そうと鋭い爪を振り下ろす。魔力を纏った爪が迫るのが、黒髪の少年は落ち着いた様子で構える。


 まるで弓を引くかのように体を逸らす。左手の黒剣を前に出し、右手の白剣を弦を引くかのように後ろへと引く。そして


「旋風流奥義……死突!」


 黒髪の少年が一気に神速の突きを放つ。限界まで引かれた腕から放たれた一撃は、ビュンッ! と矢を放ったかのような音を鳴らしながらイレーズの爪へとぶつかる。


 黒髪の少年の突きとイレーズの爪がぶつかった瞬間、辺りにぶつかった余波が吹き荒れる。そして次の瞬間、同時に弾かれた。


 黒髪の少年はその衝撃に吹き飛ばされ、地面を転がる。数十メートルは吹き飛ばされたが大きな傷は無さそうだ。


 イレーズは直ぐに体勢を立て直すと、黒髪の少年へと左腕で殴りかかろうとするが、させん!


 俺は周りに旋回する雷の武器をイレーズへと放つ。イレーズは八翼の翼に魔力を纏わせて、全てを一気にはためかせる。


 翼から放たれた風は大きな黒い竜巻へと変わり、俺の雷の武器を破壊していく。


 そして、黒い竜巻を突き破って現れたのが、イレーズの尻尾だった。それと同時に感じる巨大な魔力。あいつ、竜巻の向こうでブレスを準備してやがる。


 俺が竜巻を叩きつけて来る尻尾を避けると、直様放たれた巨大な魔力。目の前に迫る漆黒のブレスは全てを飲み込み無にする。


 以前の俺なら耐え切るのに精一杯だったが、今の俺なら神格化を使うほどではない。


雷神ノ雷霆(ケラウノス)!」


 俺の雷魔法最強の魔法、雷神ノ雷霆を発動。ガラドルグは雷を纏い矛へと変わり、左手には雷の籠手を纏わせる。背後には8つの円状の雷が旋回する。


 俺は迫る漆黒のブレスへと、旋回する雷を放つ。8つの雷がぶつかった瞬間、先ほど以上の衝撃波が俺たちを襲う。


 更に俺が放った瞬間、イレーズの上空に別の魔力が渦巻いていた。魔力の感じからするとあの白髪の少年だった。


「早速だけど、僕の技の実験体になってもらう。そう簡単にやられてくれるなよ! 日輪大葬サンズ・デストラクション!」


 白髪の少年が持つ剣から次々と炎が放出され、イレーズの頭上で集まっていく。次第に集まっていく炎は1つの球体へと変わっていく。その姿はまるで小さな太陽のようなものだ。


 そして小さな太陽からイレーズへと一筋の光が降り注ぐ。一瞬にしてイレーズへと降り注いだ瞬間、ズドォーン! と、とんでもない轟音と熱風が辺りを襲う。


 なんて熱風だ。空気中の水分が吹き飛ぶほどの熱風。木々などに触れると一瞬で燃え上がる。やばい、このままだと森に引火する!


 そう思ったが次の瞬間、辺りを巨大な氷の壁が覆う。これをやったのは白髪の少年と一緒にやって来た水色の髪の女性だ。


 巨大な氷の壁により熱気が森へと伝わる事は無くなった。よし、これならイレーズに集中出来る。


 辺りを燃やすほどの熱量を誇る技を受けるイレーズはというと、空から降り注ぐ光を、八翼の翼に闇属性の魔力を纏わせて防いでいた。


 しかし、イレーズの方が押されている。それも当然か。俺の球体と白髪の少年の一撃を同時に防いでいるんだ。俺の攻撃から気を抜けば、一気に押し切られるのがわかっているのだろう。意識を割くとしたら白髪の少年の方になる。


 だが、それがお前の命取りとなる。それは


「くそっ、あちぃ……纏が出来なかったら大火傷してるぜ」


 イレーズの喉元に黒髪の少年が忍び寄っていたからだ。2剣を下へと向け上へと振り上げる構えをとっている。そして吹き荒れる少年の魔力が全て剣へと集まり、黒と白の光が混じり合っていた。


「行くぞ、覚悟しろ! 黒閃!」


 黒髪の少年が下からイレーズの喉元へと一気に2剣を振り上げた。その瞬間黒と白が混じり合う斬撃がイレーズの喉元を抉る。


 イレーズは俺と白髪の少年の攻撃により身動きが出来ないため、黒髪の少年の斬撃を避ける事が出来ずにまともにぶつかる。


 喉元を切り裂かれたイレーズは雄叫びを上げる。その瞬間、拮抗だった俺の雷とブレスは、ブレスを押し破り雷がイレーズへと迫った。避ける暇もなく次々とイレーズへとぶつかる。


 そして、防御に使っていた翼の魔力も下がり、そちらも白髪の少年へと軍配が上がった。一気に身を焼かれるイレーズは既に叫ぶ事も出来なかった。


 俺はイレーズの頭の上まで行き、雷の矛を振り上げる。こいつがなんでここにいるかはわからないし、どうしてこうなったかもわからない。だが、敵として暴れている以上、倒させてもらう。


「これで終わりだ。雷神ノ撃鉄」


 円状の雷がイレーズの周りを旋回し始め魔法陣を作り始める。その魔法陣へと向かって空から一筋の雷が落ち、魔法陣と共鳴してイレーズを穿つ。


 満身創痍だったイレーズは俺の雷を受けて、消えていった。残っていた神力も消え去り、残ったのは戦闘の後だけだった。


 怪我人はイレーズの攻撃に巻き込まれた兵士たちがいたぐらいで、死者は1人も出なかったのが幸いだろう。


 どうして、空間が避けたのか、どうしてイレーズがここに現れたのか、そのイレーズがどうして神力を持っていたのかなど、色々わからない事はあるが、今はそれよりも2人の元へ戻ろう。


 エアリスもエレネも特に怪我は無いようだ。エアリスが守っていてくれたようだし。エレネは俺たちの戦いを見て大興奮。可愛いのだが、もう少し女の子らしい反応をして欲しいところだ。


 そんな2人を見ていると、俺たちに近づいてくる影が。近づいて来たのは黒髪の少年と白髪の少年だった。


「まさかあんな竜が現れるなんてね。僕1人じゃあ倒せなかったよ」


「ああ、俺だけでも無理だった。あなたたちのおかげで俺の知り合いの領地、隣の俺の領地も守られたありがとう」


 そう言って微笑む白髪の少年と頭を下げてくる黒髪の少年。何だかこそばゆいな。俺は昔の敵と戦っただけだからな。


「そうだ、自己紹介がまだだった。俺の名前はレディウス・アルノード。アルノード子爵領の子爵をやっている」


「僕はエルだ。よろしくね」


「ああ、俺の名前はレイヴェルト・ランウォーカーだ。よろしく」


 何だか変な感じだな。俺は初めてこの世界に来て、今日初めて彼らに出会ったはずなのに、初めて会った気がしないのは何故だろうか? そんな事を考えていたら、バキンッと何かが割れる音がする。


 音の方を見ると再び空間が割れていた。そして、その向こうには見知らぬ空間が広がっていた。どこかの大きな部屋のようだが


「あっ! マリーシャたちだ! マリアさん戻れるよ!」


 どうやら、あの向こうに広がるのは、白髪の少年、エルの世界らしい。エルの声にマリアと呼ばれた女性はエルの隣に並ぶ。


「それじゃあ僕たちは元の世界に帰るよ。あっ、これ貰って帰るね」


 そう言って見せて来たのはイレーズの爪だった。これはさっき拾って俺とレディウスも持っている。


 エルはその爪を振りながら空間を通って行った。彼らが空間を通り抜けた瞬間、空間は直ぐに閉じて、残ったのはただの風景のみ。


 残ったのは俺とエアリスにエレネ。黒髪の少年、レディウスとその隣には水色の髪の女性が立つ。他の兵士たちは被害状況の確認などに行っている。


 エレネは興奮し過ぎたのか、気が付けばウトウトと船を漕いでいた。まあ、あんなものを間近で見たら疲れるよな。


「それじゃあレディウス。俺たちもそろそろ帰るよ。娘も眠たそうだしな」


「そうか。だけど、帰られるのか? たしか、空間の向こうから来たはずだけど。さっきのエルみたいに空間が開かなければ帰られないのでは?」


「ああ、それなら大丈夫だよ。俺の力を使えば」


 俺は神格化を発動して空間を開く。俺だけだとそんなに長い事開いてはいられないから直ぐに行かなければ。


「それじゃあ、レディウス、俺たちが会えるのはこれが最後だろう。こんな奇跡はもう二度と起こらないと思うしな」


「ああ、レイヴェルト、エル、どちらが欠けてもあの竜は倒せなかった。2人のおかげだ。本当にありがとう」


 俺とレディウスはそう言いながら握手をする。エルともしておけば良かったな。もう二度と起きない奇跡だったのに。


「ばいばい」


 眠たそうなエレネも、微笑みながらレディウスと女性に手を振る。可愛いエレネに2人も笑顔で手を振り返してくる。


「さあ、行こうか」


 俺とエアリスはエレネの手を引きながら空間を通る。少ししてから振り返ると、少しずつ閉じていく空間の向こうでまだ手を振ってくれている2人の姿があった。


 俺は空間が閉じ切る前に最後に手を振り、空間を通り抜ける。通り抜けると俺たちの世界へと戻って来た。既にこちらは日が暮れていて、空には夕焼けが広がっていた。


 俺はその後少し閉じ切った空間の跡を眺めていたが、ジッと見ていても仕方ないな。もう彼らとは出会う事はない。アルベリーたちの世界のようにクリーナのような存在が向こうから繋いでくれない事には。


 だけど、俺はそれでいいと思う。彼らとわざわざ俺なんかが行く必要がある事なんて起きないだろう。彼らがあの世界にいるのだから。


「レイ〜、どうしたの〜」


 1人で考えていたら、エアリスに呼ばれる。さて、俺は俺の出来る事をやろう。一度だけ、ほんの少しの間だが、一緒に戦った彼らに恥じぬように。

最近は忙し過ぎて他作も中々投稿が出来ないところ本当に申し訳ございません。

今やっている引っ越し作業が落ち着けば、以前のように投稿が出来ると思いますので、それまでお赦しください。


ちなみに

レディウス・アルノードは「黒髪の王」の主人公

エルは「復讐の魔王」の主人公になります。

興味を持たれた方は読んでみてください!

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