後日談.最終話 未来への投資(2)
4本の柱から瘴気が噴き出す度、地面が揺れる。噴き出す瘴気は次々と集まっていき、魔兵へと姿を変えていく。
そして障壁から出ようとする魔兵たち。手には武器を持ち、障壁を壊そうと外へと向かうが、そこに放たれる高密度のブレス。しかもそれが4本も。
青色のブレスは、あたりを水浸しにし、とんでもない水圧に魔兵たちが潰されていく水竜王のブレス。
竜巻のように渦巻いているブレスは、魔兵たちを細切れに切り刻んでしまう風竜王のブレス。
あたりを照らすほど輝く光のブレスは、触れた相手を消滅させてしまう光竜王のブレス。
茶色のブレスは、触れた瞬間、魔兵たちを次々と石化していき粉々に砕け散る土竜王のブレス。
大陸最強の竜種の頂点に立つ属性王たちの放つブレスは、瘴気により数を増やしていく魔兵たちの数を、一気に減らした。
竜王たちだけではない。師匠が風を纏い、エアリスが炎を纏い、アレクシアは2本の剣を持った巨人を作り出し、フィーリアは精霊王モードで魔法を放つ。
フェリスはいつの間に覚えたのか獣化を使い魔兵を蹴散らし、エクラも竜化して光と雷の複合魔法を放つ。ハクは周りに影の手を出現させ、手には影の短剣を持たせて、魔兵の首を切っていく。
ヒカリンは、雷装天衣を発動し雷の武器を放ち、ライトは光天ノ外套を使い敵を薙ぎ払う。マリリンは全員のサポートを行う。
……こんなところに連れて来ておいてなんだけど、妻たちが日に日に強くなっているのは何故だろうか。昔より強くなっている。何か特別な事でもあるのかな?
感心半分恐怖半分覚えながらも、俺も準備をする。柱から噴き出る瘴気が、4本の中心になる位置に集まって来ているからだ。
集まった瘴気は、形を作っていく。さて、何が現れる事やら。瘴気は少しずつ小さくなっていき、人一人分ぐらいまで小さくなった。そして瘴気も収まり、中から出て来たのは、顔のない男だった。
バロンの面影は無いな。意志のない化け物って感じだ。これならもう一度バロンが出て来た方がやり易かったかも。まあ、やる事は変わらんが。
バロンの残滓は、辺りをを見回してから俺を見ると、顔が割れた。いや、あれは口が開いたのか。俺たちの耳ぐらいのところまで口が開いたので、割れたように見えたのだ。
そして、口の中に見えるのは、1つの目。何であんな場所に目があるんだ、と思わなくもないが、俺はその場から飛び退く。次の瞬間、目から黒い光線が放たれた。
いきなりかよ。黒い光線が当たった場所ば消滅してしまった。バロンの残滓は、当たらなかった事に怒ったのか、口の中の目が細まる。そして次の瞬間、両手が肥大化して、殴りかかって来た。
やはりというのか、速さは本体だけだったバロン以上だ。こんな相手に出し惜しみなんかしてられないな。おれも神格化を発動。ガラドルクに神力を流し、真っ向からバロンの残滓の攻撃を受け止める。
バロンの残滓の攻撃を1発1発受けるほどに、吹き飛ぶ辺りの地面。魔兵たちも余波に巻き込まれ同じように吹き飛ぶ。
周りのみんなが巻き込まれないか心配だが、今はそれどころではない。こいつの強さは、本体だけだったバロン以上、シェイド以下ではあるが、油断して勝てる相手ではない。気を抜けばやられるだろう。
殴りかかってくる右腕をしゃがんで避けて、槍の石突きを下から振り上げる。バロンの残滓の顎を下から打ち上げる。
そして、槍を回してがら空きの体へと連続で突きを放つ。バロンの残滓の体に幾つもの穿たれた穴が開くが、少しずつ穴が小さくなっていく。
だけど、怯んでいるのには変わりない。俺は更に攻め立てる。振られる腕をガラドルクで切り落とし、足に向かって槍を振り、体勢を崩したところへ、蹴りを入れる。
バロンの残滓は吹き飛ぶが、直ぐに元に戻る足で踏ん張り、勢いを殺す。そして俺へと跳ぶように向かってくる。
しかも体の形を少しずつ変えて。さっきまではのっぺらな人間のような形だったが、少しずつ二足歩行の獣のような形へと姿を変えていく。
それに合わせて動きも素早くなっていく。腰には尻尾のようなものが生えて、その尻尾を使って急激に方向転換するものだから、行動が読めない。
仕方ない。まずは奴の動きを制限させる。俺は左手に神力を集める。それも今までのでは無くて、新しく手に入れた方を。
「神域魔法、影神ノ呪縛」
俺が新しく手に入れた神力を集めた手を、地面につけた瞬間、地面に黒色の穴が幾つも出来て、その穴から全てを漆黒に染めるほどの鎖が幾つも飛び出してくる。
その漆黒の鎖は、縦横無尽に駆け回るバロンの残滓を捕らえようと、バロンの残滓に向かって伸びていく。
バロンの残滓は、迫る鎖を避けようとするが、それ以上の速さで迫る。鎖の1本1本が、まるで意思があるかのように、次々とバロンの残滓の逃げる先を潰していく。
バロンの残滓は、尻尾や光線などで近寄らせないが、神力で作った鎖をそう簡単に壊すことも出来ずに、全身に鎖が巻かれて捕らえられる。
ジタバタと暴れるが、鎖に千切れる気配は全くしない。それも当然といえば当然だが。なんせこの鎖は、あの異世界で倒した影の神シェイドの力だからな。




