後日談.臨時講師
「それでは受けてくださいますね、レイ様」
「俺で良ければ受けますが……そのレイ様っていうのやめて欲しいのですが……メロディ学園長」
俺が苦笑いしながら言うと、対面に座る、現在俺が訪れている母校、カルディア学園の学園長、メロディ学園長が口元に手を当てながら微笑む。
「ふふ、ごめんなさいね、レイ君。少し悪ふざけが過ぎたみたい」
「……まあ、構いませんが。それで俺が今日から受け持つのは……」
◇◇◇
「というわけで、今日からこのクラスの授業を持ってくださいます、レイヴェルト・ランウォーカー様です。みんな拍手を」
この教室の担任である先生の言葉に続き、盛大な拍手が鳴り響く。
異世界に飛ばされて、帰って来たから1ヵ月か経った。あの後は色々あったが、なんとか落ち着いて、みんなも国の政務に戻って行った。
そして、未だに無職な俺は、城でエレネやアレンとのほほんと暮らしていたところに、カルディア学園から手紙が送られて来たのだ。
その手紙の内容が、今日、俺がここに来ている理由、学園の臨時講師のお願いだった。なんでも、1人の女先生が結婚して、子供が出来たそうなので産休を取ったそうなのだが、この途中の時期で、新たに講師も見つからずに悩んでいたそうだ。
そこにメロディ学園長が、師匠に相談したところ、毎日暇をしている俺が選ばれたというわけだ。
現在俺がいるのは3年生のクラス。その中には俺の見知った顔も……というより、妻の1人がいる。その従者も。
俺の妻の1人……フィーリアはニコニコとした表情で俺を見てくる。その隣に座る従者のミルミもだ。学園について来ているのはミルミだけで、他のドライやグミンは屋敷で待機している。
そんなフィーリアたちのクラスを見渡していると、
「それでは、後はよろしくお願いしますね、ランウォーカー先生」
俺をここまで案内してくれた先生は、それだけ言うと教室から出て行ってしまった。もう少し助けて欲しいところだが、仕方ない。こうなったら、俺のやれる事をやろう。
「えー、今日からこの教室を受け持つ事になった、レイヴェルト・ランウォーカーだ。よろしく頼む」
俺が挨拶をすると、教室からは再び歓声が上がる。何だか変な感じだな。有名人が学校訪問に来たみたいな感じだ。
そこからは、いきなり授業をするのもあれなので、俺の自己紹介をした。自己紹介と言っても、大した話は無いので、簡単にだが。
それでも生徒たちは真剣に話を聞いてくれる。そんな生徒を見ていたら俺も話すのが止まらなくなったり。
「っと、俺の自己紹介はこんな感じで良いだろう。それじゃあ授業を始めていくけど、この時間は……魔法実技の時間だったか。それは悪い事をしたな。それじゃあ早速移動しようか」
すっかり自分の自己紹介に時間をかけてしまった。まだ、始まって10分ほどだが、それでも、生徒たちの時間を使った事には変わりない。
それに、魔法実技の練習は訓練場でやる事になっている。今から移動していれば、また時間が無くなってしまうので、俺は地面をコンコンと足で叩く。
すると、教室全体を光が包む。生徒たちは驚きの表情を浮かべるが、フィーリアはわかっているのか、ニコニコとしたままだ。俺はそのまま転移を発動。眩い光が教室を包む。そして光が収まると、目の前は訓練場へと変わっている。
突然目の前の景色が変わった事に生徒のみんなは目を丸くするが、時間が惜しいので簡単に説明してから、授業へと入る。
やっぱり、学園の生徒はみんな優秀で、俺が少しアドバイスをすれば、直ぐに出来てしまう。流石だな。
そんな周りの生徒たちを見ていたら、俺に近づいてくる気配が。その方を向くと、生徒である5人の男子生徒が立っていた。そういえば、案内される時に担当の先生から注意する学生がいると聞いていたな。
成績は優秀なんだが、真面目に授業を受けないという不良がいるとかなんとか。ナノールでも良い家の出らしく先生も強く言えないって言っていたな。
「ランウォーカー先生は、強いんですってね。それを俺たちにも見せてもらえないですかねぇ〜」
男子生徒たちはそれぞれ魔武器を持って俺の前に立つ。へぇ〜、最近の生徒は魔武器まで持っているのか。
さっきまで魔法を練習していた生徒たちも、不穏な雰囲気を感じ取ったのか、俺たちから離れる。その中で、怒りの表情を浮かべるフィーリアとミルミの姿があったが、念話で大丈夫だと伝える。
「わかった。どこからでも良いぞ」
「……武器は使わねえのかよ?」
「必要ない」
俺の言葉に、顔を赤く染める男子生徒たち。まずは短剣を持った生徒が切りかかってくる。初めから俺の喉元を狙う攻撃で、搔き切るように振ってくる。
俺はそれを体を逸らして避ける。そこに魔槍を持った生徒が2人同時に突いてきた。俺はそれを手で弾くと、仲間を飛び越えて魔剣を持った生徒が切りかかって来た。
魔剣の生徒が、魔剣を振り回すが俺はそれをのらりくらりと避ける。
「退けぇ!」
更には、初めに話しかけて来た生徒が魔斧を持って走って来た。そう言えばこいつら何処に魔武器を隠していたんだ? アイテムボックスでも持ってんのか?
俺がそんな事を考えながら避けていると、生徒たちもどんどん息が上がっていっている。修行が足りないな。これは訓練場100周ぐらいして貰わないとな。
「く、くそっ、な、んで、あた、ら、ねぇ!」
「鍛え方が足り無いな。もっと体力を鍛えろ」
俺はそう言いながら、振り下ろされる魔斧に向かって、指を弾く。デコピンするように斧へぶつけると、斧は力負けして、生徒の手からすっぽ抜けていった。
魔斧を持っていた生徒は、自分の手と飛んでいった斧を交互に見て口をあんぐりと開けている。それから、次々とくる生徒の武器を全部指で弾き、終了。生徒たちは大人しくなった。
そして、教師である俺に武器を向けた罰として、予定通り訓練場100周を課した。逃げられないようにゴーレム付きで。これで大人しくなるだろう。
それから、次々と授業をこなしていく。さっきの光景を見ていた生徒たちは、かなり真剣に話を聞いてくれるのでやり易い。
途中で色々とあったが、何とか教師という仕事もやって行けそうだ。これでニート脱出だ! 妻たちのヒモも卒業だ!




