後日談.新婚旅行?編 地下にいたのは……
「本当にこの子を助けて下さりありがとうございます!」
俺に向かって頭を下げてくるシスター。年齢は30代ほどか。物凄く美人というほどでは無いが、シスターをしているだけあって、何というか人を優しく包み込む雰囲気を持っている。何だかこれもデジャブだ。
「気にしないでください。それに俺が助けに入るより、彼の方が早かったのですから、彼も労ってやってください」
俺はベッドに眠る金髪の男を見る。あっけなくやられはしたが、それでも恐れる事なく女の子を助けるために割って入ったのは、素直に凄いと思う。そんな彼を労わず、誰を労うというのだ。
「わかりました。私はシエラの様子を見て来ます。ごゆっくりとしていて下さい」
シスターはそれだけ言うと部屋を出ていってしまった。シエラというのは、俺が助けた女の子の名前だ。
彼女はあの後直ぐに気を失ってしまって、今は別の部屋で寝かされている。まあ、あんな怖い目にあったらそうなるか。
今部屋には、俺とも香奈とカレンディーナだけだ。香奈は「ほへぇ〜」と言いながら辺りを見回している。そんな気になるのか?
カレンディーナもどこかソワソワとしている。2人してどうしたのだろうか?
そんな2人を見ていたら、香奈は落ち着いてアイテムバックから何故か紅茶セットを取り出し、紅茶を入れ始めた。自由だなおい。それを横目にカレンディーナを見ると……あれ? カレンディーナがいない。さっきまで香奈の隣に座っていたのだが。
その時に、くいくいと袖を引っ張られる。その方を見ると、いつの間にかカレンディーナは俺の隣に座っていた。顔はまだ赤いが、俺に触れる事は出来るまでになった。
「どうした、カレンディーナ? 何かあったのか?」
「は、はい。ここに来た頃はあまりわからなかったのですが、ここの下から反応があります。かなり小さいですが、確実です」
カレンディーナが示す反応って事は……クリーナの加護が与えられる孤児の事か。しかしどうして下なんだ?
「監禁でもされているのかしら?」
香奈は紅茶をすすりながらそんな事を言う。いつの間にか俺とカレンディーナの分も淹れてくれていた。しかも美味しい。
俺もカレンディーナも紅茶を飲みながら考えるが、それ以外に思い付かない。だけど、あの優しそうなシスターがそんな事をするだろうか? まあ、猫を被っていると言われたらそこまでなのだが。
色々と想像しながら3人で話をしていると、シスターがシエラちゃんを連れて戻って来た。どうやら目が覚めたようだ。良かった。
「ほら、シエラ、皆さんにお礼を言いなさい」
「はい、お兄さん、危ないところを助けてもらってありがとうございます!」
ぺこりと頭を下げるシエラちゃん。思わず頭を撫でてしまった。でも、シエラちゃんも満更じゃない様子だ。
「男の子たちはみんなシエラぐらいの歳になると、ここから出ていってしまうからね。レイさんみたいに撫でてくれる人もいないものね」
口に手を当てて微笑むシスター。そして、気がつけば香奈は2人の分の紅茶を……なんて早技なんだ。
みんなで談笑をしていたら、やっぱり気になるのか、カレンディーナが地下の反応の事を尋ねる。地下に誰かいるのかを尋ねると、2人はビクッと震えだす。やっぱり何かあるのか?
「地下に何かあるのですか?」
「そ、それは……」
「俺たちはこの国の住民ではありません。だから何があろうと外には話しません」
俺の言葉に一瞬驚くシスターだが、俺が嘘をついていない事が伝わったのだろう。シスターは頷いてくれた。シエラちゃんはまだ心配そうだが、シスターの後ろに付いて部屋を出て行く。
俺たちも2人の後について行く。いつの間にか香奈はティーセットを片付けていた。片付けも早いんだな。
ニコニコと微笑みながら俺の隣に引っ付く香奈と、反応が気になるのか、辺りをソワソワと見るカレンディーナ。
2人の後について行くと、2人は壁に向かって歩いていた。ぶつかるのも御構い無しにと突き進む2人を、俺たちは止めようとした瞬間、2人は壁を通り抜けてしまった。
何か魔法的な処理がされているのだろう。俺も触れるとすり抜けていった。こら香奈、楽しそうに何度も出入りするな!
俺たちも地下を下って行くが、思ったよりも綺麗な場所だった。地下で思いつくといえば、なんか薄汚れてカビ臭いようなところを思いつくのだが、ここの地下はそんな事もなく、綺麗だ。
それから、誰1人一言も話す事なく、階段を降りて行く足音だけが鳴り響く。そして、辿り着いたのは2つの扉だった。
「この中にいます」
シスターはそれだけ言うと、扉を開けて中へと入る。俺たちも中に続いて入って行くが、立ち止まってしまった。
カレンディーナは口を大きく開けて固まってしまい、香奈も手を口に当てて驚いている。俺も2人ほどではないにしてもビックリした。
何故なら部屋の中には、加護を与えられる孤児である黒髮の少女と、神々しい姿をした白銀の竜が寝そべっていたのだから。




