後日談.新婚旅行?編 戻って来たら……
「うぅ……こ、ここは……?」
「目が覚めたかしら?」
私はベッドの上で動くミレスを見る。ミレスはぼーっとしているけど、私の顔を見るなり、ガバッと起き上がる。だけど
ガシャン!
と、鉄が擦れる音がする。理由はミレスの腕についている捕縛用の腕輪のせい。暴れられては困るからね。
「……ちっ、私は捕まったのか」
悔しそうに歯をくいしばるミレス。まあ、レイが相手じゃあね。勝てる人の方が少ないから、気にする事はないとは思うけど、それを言ってもダメそうね。
「そうよ。あなたはレイに負けて捕まったの。あなたが侮った私の旦那様にね」
私がドヤ顔で伝えると、ミレスは本当に悔しそうな顔をする。どうしてそこまで男が嫌いなのかしら? ミレスは見た目が良いから男に言い寄られる事はあると思うのだけど、それが嫌なのかしら?
「エアリス、調子はどう……って、目が覚めたか」
私を睨むミレスと睨み合いっこをしていたら、そこにレイがやって来た。側には一緒にいたフィーリアとこの世界の住人であるカレンディーナがいる。
「調子はどうだ、ミレス?」
「気安く私の名前を呼ぶんじゃないよ! 怖気が走るわ!」
ミレスのとんでもない言い草にも、たはは、と頭を掻きながら苦笑いをするレイ。女性に寛容なのは良いのだけど、妻の1人としては、旦那にそんな事を言うミレスが許せないのよね。1発殴れば黙るかしら?
「はは、そう邪険にしないでほしい。別に取って食おうって訳じゃないんだ。少し話がしたいだけで」
「フン! そんな事を言いながらも私の体が目当てなんだろ! ヤルならヤリな! でも、私は絶対に落ちないよ! あんたを噛み殺してでも逃げてやる!」
「あっ、それは心配しなくても大丈夫。襲わないから」
「ぷっ!」
しまった。レイが即答で否定するから思わず笑っちゃったじゃない! ミレスは口をパクパクとさせながらも
「こ、こんな体だぞ? お、男なら興奮するはずだが……帝都にいた時も男たちは私の胸ばかり見て……」
「悪いな。ここにいるエアリスとフィーリア合わせて妻が14人いるんだ。だからそういう事には間に合っているんだ」
私たち全員で挑んでも勝てないけどね。それにレイは鬼だから、私たちが降参してもやめてくれないしね。
「だから、安心してほしい。大丈夫。俺がそんな事すれば妻たちに殺されてしまうからな」
ミレスは私とフィーリアを見てから、渋々といった感じで頷く。ようやく落ち着いてくれたわね。多分私たちが離れたらまた暴れだすでしょうから、このままいないといけないわね。
それから、まずはカレンディーナの自己紹介から始まる。ミレスも他大陸については知っていたみたいだけど、そこにある国の名前なんかは初めて聞いたみたい。
その後に私たちが異世界人で、この国の女神クリーナに呼ばれた事を話して、各大陸で加護を与えられる人物を探している事を伝える。そのうちの1人がミレスという事も。
「わ、私にクリーナ様の加護が頂けると言うのか!?」
「うおっ! あ、ああ、この国の傭兵団の団長ってミレスの事だろ? だったら大丈夫だ」
突然前のめりで尋ねてくるミレスに、レイは驚きながらも答える。さっきまで男性嫌いと言っていたミレスから想像がつかないほど、レイに近い。どれだけクリーナ様の事が好きなのよ。
それから、別の部屋にいたアステルを呼んで、レイとアステルの力で、クリーナ様の場所まで空間を繋ぐみたい。私も初めて行くから少しドキドキしている。
そして、空間が繋がり現れたのは、黒髪のとても綺麗な女性だった。ミレスなんて感動で涙まで流していたし。
加護を与えるというのは簡単に終わった。クリーナがミレスの頭に手を添えただけだもの。それだけでも、ミレスは息を荒くして興奮してたけど。
元の世界に戻って来ても、夢心地のミレスに私は数発ビンタして目を覚ました。少しスッキリ。ミレスは頰を少し腫らしながらも嬉しそうに笑っている。ここに来た時から想像が出来ないほどの笑顔。
「ほら帰るわよ。いつまでもレイに引っ付いてデレデレしないで!」
「わ、私は別にデレデレしてないぞ! してたとしても、べ、別にこの男にしているわけじゃないのだから!」
ミレスは慌てるようにレイから離れる。全くもう。クリーナ様に出会えた事で興奮し過ぎよ。
「まあ、今からミレスを帝国に返すよ。エアリスも付いてくるか?」
「ええ」
レイは、ミレスを捕まえていた腕輪を壊して、アーティファクトの腕輪をアイテムリングから取り出し、ミレスに返す。ミレスは安堵した様子で腕輪を受け取り、自分の手につける。
私がレイと手を繋いで、ミレスが私の手を握る。落ち着いて来たら、レイの近くにいるのは嫌みたい。
「さあ、行くぞ」
レイの転移で一気に視界が変わる。そして変わった先にあったのは
「……えっ?」
あちらこちらから煙が立ち上がる女性だけが住む町だった。




