後日談.新婚旅行?編 化け物より面倒な事
「どうでしたから、レイ様?」
俺が部屋から出てくると、外で待っていたフェリスたちに、アルベリーとカレンディーナが尋ねてくる。
「やっぱり思った通り、彼がこの大陸の使徒だった。あの倒れていた男が作っていたコクシは、あの巨大な一体だけらしい。だから…….」
「もしかして、この大陸は戦わなくても済むのですかっ!?」
俺が言い終える前に、カレンディーナが俺に迫る。俺の襟元を掴み、前後にガクガクと振るわれる。俺がカレンディーナの手をタップして、ようやくやめてくれた。ふぅ、焦ったぜ。
「す、すみません、あまりにも興奮してしまって」
「いや、構わないよ。カレンディーナの気持ちを考えればそうなるのも当然だ。ずっと戦って来た敵が倒せたと思ったらな。カレンディーナの思った通り、この大陸でコクシは現れる事は無いだろう。シェイドが新たに使徒を送ってこない限りは」
俺がそう言うと、カレンディーナは崩れるように座り込む。そして漏れる嗚咽。仕方ないよな。自分の命を削って守って来た国を守り通す事が出来たんだから。
顔を手で覆い涙を流すカレンディーナを、アルベリーが優しく抱き締める。アルベリーも気持ちがわかるのだろう。
「それでこれからどうするの?」
フェリスが俺の隣に立って尋ねてくる。周りに見えないところで、尻尾を擦り付けて甘えてくる。可愛い。俺がニヤニヤとすると、フェリスは頰を赤く染めてプイッと、そっぽを向く。自分から来ておいて、この可愛いやつ。
俺が耳の裏のコリコリしている部分をコリコリしてあげると、フェリスはトロンとした表情を浮かべる。耳をプニプニすると、ふにゃ〜、と言い、とても愛らしい。
しかし、これからどうするか、か。取り敢えずはジャパウォーネに戻ってアレクシアたちと合流が最優先だ。アステルは大丈夫だと言っていたが、一目見ないと。
その後は、先にジャパウォーネの使徒を探した方が良いのかも知れない。
そんな事を考えていたら、アステルからの連絡が入って来た。また、何かあったのだろうか?
「どうした、アステル。何かあったのか?」
『メーデー、メーデー。こちらアステル、皆さんピンチです!』
俺の頭の中に響くアステルの焦ったような声。本当に何かあったのか!? その後直ぐにアステルからの通信は切れてしまったので余計に焦る。
俺はまだ涙目のカレンディーナに、一旦ジャパウォーネに戻る事を伝えて、みんなを転移で移動する。視界は一瞬にして変わり、目の前には
「パパぁ〜!」
勢い良く飛んでくるエレネの姿があった。俺はそのまま避けずにエレネを抱きかかえると、エレネはそのまま頬擦りしてくる。やばい、何この天使は。その後に続いてアレクシアたちがやってくる。
「ごめんなさいね、レイ。本当は帰ってくるのを待つつもりだったのだけど、エレネがパパに会いたいって聞かなくって」
「と、いうのは建前で、本当は私たちがレイ君と会いたかっただけなんですけどね」
アレクシアが話す理由を、一瞬で粉々にする香奈。アレクシアは香奈を追いかけ回して、香奈はきゃあきゃあ言いながら逃げ回る。
俺がまだ頬擦りしてくるエレネの頭を撫でながら見ていると、フィーリアが
「アレクシアお姉様もカナお姉様が言っている事は本当ですよ。エレネも私たちもお兄様成分が足りませんでしたからっ!」
フィーリアはそう言うと、俺にぴたっと抱きついてくる。それに気が付いたアレクシアと香奈は、ああっー! と言いながら抱きついて来た。なんだこれ。
アレンはエアリスの胸を枕にして寝ている。なんて羨ましいんだ! 俺も今度させて貰おっ!
「みんな、本題は違うでしょうが。レイ、問題が起きたのよ」
みんなアレクシアたちに感化され、おしくらまんじゅうのように抱きついてくるのを、受け止めていたら、キャロの呆れるような声が聞こえてくる。キャロも抱きついているはずなんだが?
「それで、問題って何があったんだよ?」
俺はいつの間にか近くに来ていたクロナをもふもふして、麻里を優しく抱き締める。その間に満足したのか、離れていたマーリンが教えてくれた。
なんでも、コクシは直接この内側を襲って来たらしい。兵士たちは当然外壁側に配置されており、この内側に残るのは名ばかりの兵士のみ。とても耐え切れるわけがない。
そんなところにアレクシアたちがコクシを殲滅させたせいで、この国の貴族たちが呼んでいるそうだ。国王も含めて。
「だから、アルベリーの部下たちにお願いして、アルベリーが帰ってくるまで、待ってもらう事にしたのよ。私たちだけで行って問題でも起こしたら面倒だし」
それ確かにそうだな。ここはアルベリーに助けて貰おう。アルベリーも少し苛立っているようだ。彼女もこの国の貴族に色々と苦労しているらしい。
アルベリーを先頭に屋敷から出ると、屋敷の前には外壁のところにいた住民からは想像がつかないほどの煌びやかな服を纏っている男たちが立っている。
そして、遠慮無しにアレクシアたちに気持ちの悪い視線を浴びせてくる。こいつらぶっ飛ばしてやろうか? ロイのやつがメイちゃんたちを庇うように立つ。俺もアレクシアたちの前に立つ。
「何の用ですか、皆さん。この屋敷には近づかないように言っているはずです」
「アルベリー王女。そんなこと仰らないで頂きたい。我々としては、この国を救ってくれた彼女たちを厚く迎えたいだけですよ」
心にも無い事をよくも言えるものだ。アルベリーなんか殺気放っているし。それにすら気が付かない貴族たち。
殴ってこいつらを黙らせるのは簡単だけど、それをすると、アルベリーの立場が悪くなるからな。こんな奴らでも、この国の貴族だ。事を荒げてアルベリーに迷惑をかけたくは無い。
仕方ない。ここは大人しく行くとするか。俺の大事な妻たちにちょっかい出したら、命の覚悟はしてもらうが。




