後日談.新婚旅行?編 やられたら倍返しだ。
俺たちを値踏みするかのように見下ろして来る騎士王。他の兵士たちとは、見ただけで性能が段違いな鎧を纏っている。
ここからは見えないのか、元々持って来ていないのかわからないが、多分武器も鎧に近いかそれ以上の力を持つ物を持っているはずだ。
この世界ではダントツに最強の人物だ。七魔将ぐらいの力はあると思って良いだろう。万が一の時は負ける気はさらさらないが、それでも用心に越した事は良い。元々戦いに来たわけではないしな。
何とか話し合いで済めば良いが。俺はチラッとアルベリーを見る。アルベリーも俺の意図がわかって頷く。話し合いはアルベリーに任せよう。俺じゃあこの世界の事は説明出来ないからな。
「騎士王よ。突然の来訪をお許し下さい。私の名前はアルベルティーヌ・ジャパウォーネと申します。南にある大陸の最後の国の第3王女をしています」
「ジャパウォーネ? ……ああ、昔はこの国とも交易があった国だな。懐かしい国の人物がやって来たものだ。だが、お前たちはどうやってここに来た? 大陸にはコクシが大量にいる。外を歩くのもままならないはずだ。それなのに海など超えられるはずが無いだろう?」
騎士王の疑問はもっともだ。だからここで隠し立てをする事なく正直に話す。隠す必要は無いし、隠す事で怪しまれるのは困るからな。
「それは、この方レイヴェルト・ランウォーカーの魔法で移動して来ました」
「ほう、魔法とな。何かアーティファクトでも持っているのか?」
アーティファクト? なんだそれは? 初めて聞く言葉に疑問に思っていると、アルベリーが
「アーティファクトとは、レイヴェルト様が私に作って下さったネックレスのように魔力を流すと効果が発動するようなものです。現在の私たちの能力では、魔法は生活に少し使える程度の事しか出来なくて、コクシ出現の際に、魔法の殆どは失伝してしまいました。
私たちもアーティファクトの力を借りなければ強い魔法は使うことができません。アーティファクト自体も私たちでは作る事が出来ず、昔から残された物を使うしか無いのです。私の細剣もアーティファクトです」
と、説明してくれた。壁の外にはアーティファクトが眠っていると、探しに飛び出していく人たちもいるそうだ。その人たちは例外無く帰ってこなかったようだが。
「ふむ。他の大陸に移動ができるほどのアーティファクトか。まだそのようなものが眠っていたとは。レイヴェルトといったか。どうだ、俺に仕えないか? お前がいれば、壁の外の探索の危険が少なくなる」
そう言い微笑む騎士王。色々と勘違いしているが、この微笑みは腹が立つ。騎士王に対する好感度がダダ下がりだ。理由は、微笑むと同時に魅了の魔法を発動したからだ。
俺を魅了して、俺の持つ力を手に入れようとしたのだろうけど、残念だったな。俺じゃ無かったら魔法にかかっていただろう。だけど俺にはそういうのに対する耐性があるからな。
周りの兵士たち、男女問わずに魅了されている中、俺たちだけは普通にしている。アルベリーたちに向けられた魅了も、俺が防いだからだ。魅了といっても結局は魔法の1つだ。防ぐ事は出来る。
「さあ、どうする?」
俺が断るとは思っていないような声色だ。危険なく騎士王と接触するのなら、この提案は受けるべきなのだが、このまま舐められたままではな。
俺は神格化を目だけ発動。キャロの持つのと同じ神眼を発動する。そして、騎士王と目を合わせる。すると、騎士王の目は少しずつトロンとして来た。
「自分の自己紹介もせずに、どうするは無いだろう、騎士王よ。まずは自分の本当の名前を名乗れよ」
俺の口調にギョッとするアルベリーと兵士たち。そして、兵士たちから色々と口汚い言葉が飛んでくるが、無視だ。
騎士王はと言うと、兵士たちの中から出て来て、俺に向かって
「お、俺の……いや、私の名前はカレンデイーナ・ペロソネスです。おお、おみしりおきを!」
外壁の塀から体を乗り出すように大きな声で自分の名前を叫ぶ騎士王、いやカレンデイーナ。周りの兵士たちは、どうやら初めて聞く名前のようで、ざわざわとざわついている。
俺も神眼で見て初めて気がついたのだが、カレンデイーナは男では無くて女だった。さっきまでの雰囲気からして、男のように振舞っていたが、性別にはれっきとして女と書かれていた。
そして、そのカレンデイーナに対して俺はやり返しただけだ。神眼の一部の力。マーリンも持つ魅了眼で。そのため、カレンデイーナは、俺の目を見た瞬間、反抗する暇もなく俺に魅了されたわけだ。マンガ風に言えば、目がハートになっている状態だな。
「か、カレル様、一体どうされたのです!? 正気に戻ってください!」
「何をいっているのだ、お前は。私は正気だぞ?」
カレンデイーナと兵士たちが何か言い合っている。言い合うのは勝手にして欲しいのだが、このまま外で待つのは辛い。いつコクシが来るかもわからないところで待っていられない。
「カレンデイーナ、もし良かったら中へ入れさせてくれないか? このまま外で待つのは危険だからさ」
「ああっ! これは申し訳ありません! おい、お前たち! さっさと門を開けろ! 早くレイヴェルト様たちを中へ入れるのだ!」
外壁の上から聞こえるカレンデイーナの声。これは魅了眼が効き過ぎだな。
アルベリーたちは軽く俺を引いていたし。普段はこんな力使わないぞ? 今回はされた仕返しにしただけだから。本当だぞ?
疑わしそうな目でジッと見て来るみんなに、弁解しながらもようやく門を潜る事が出来た。速攻で兵士たちに囲まれたが、それは仕方ないな。このまま進ませてもらうとしようかな。




