後日談.新婚旅行?編 これからの事
「うぅぅっ、頭が割れそうですぅ〜。あんな力強く握らなくても良いじゃないですかぁ〜……はっ! まさか、これがレイさんから私に対する愛情表現なのでしょうか!? もう、レイさんったら照れ屋さんなんだからっ!」
俺の隣でそんな事を言いながら脇腹を「このこのっ!」と楽しそうに小突いてくるアステル。
もう一回してやろうかと思ったが、話が進まなくなるので、代わりにアステルの頭を撫でる。すると、「えっ、えへへ〜」とまた違った風に喜ぶ。まあ、痛みで喜ばれるよりかは、全然良いのだが。ハクも羨ましそうな顔をしないで。後でしてあげるから。
「はぁ〜、本当にあなた結婚したのね。普段はのほほんとしていたあなたが……はぁ〜」
そんな俺たちを見て、露骨にため息を吐かないでほしい。物凄く気になるじゃないか。神様の恋愛事情は全く知らないけど、女神クリーナほどの美貌ならモテそうな気がするけど。
「神たちって、基本は他人に対して関心が無いのですよ。世界を持っている人は、自分の世界に夢中ですし、持っていない人は、持てる様に様々な事をしていますし」
神同士で結婚するのはごく稀だと、アステルは言う。どういう基準で、世界を持てるのかはわからないが、アステルはその基準に達しているのだろう。少し気になるが、今はいいだろう。それよりも、クリーナの話を聞きたい。
「それで、どうしてこの世界は、こんな事になっているのです? あの化け物たちは何なのです?」
「ふふ、別に話し方はアステルと同じで良いわ。人の身で神に辿り着いたあなたに少し興味があるし。でもまあ、まずはその質問に答えましょう。この世界がこんな事になったのは、私たちと同じ神のせいよ」
そう言い、はぁ〜、とため息を再び吐くクリーナ。ここで、神が出てくるのか。思っていた以上に厄介な事になりそうだな。
「ごく稀にだけど、既に世界を持っている神に対して、その世界を奪おうとする神がいたりするのよ。奪う方法は色々、今回みたいに力づくもあれば、信仰を奪うという事もある。今回は両方してきてるわね」
「その神は誰なのかわかっているのですか?」
珍しくしんけんな表情をするアステルが、クリーナに質問をすると、クリーナは頷く。
「今回攻めてきたのは、影の神シェイド。神の中でも少し問題があるやつが来たのよ」
クリーナの言葉に、アステルは気持ち悪そうに「うぇっ」と言う。神にも色々といる様だが、アステルは本当に嫌そうな顔をしている。そこまでか。
「シェイドという神は、極上のナルシストなんですよ! 自分は1番じゃ無いと気が済まないというか、とにかく何かにつけて、他の神に手を出してくるのです!」
「ここ何百年かは、私の信仰が少なくなったせいか、力が小さくなったところを狙われてね。この100年ほどであっという間に奪われてしまったよ」
自嘲気味に笑うクリーナ。アステルも他人事では無いのだろう、真剣にどうすれば良いか考えている。
「この世界には4つの大陸があるんだけど、各大陸にシェイドの手下が送り込まれていて、その手下どもがあのあなたたちが言うコクシだっけ? あの化け物たちを召喚させている。
どの大陸も押されていてね。その中でも、あなたたちに来てもらった国、ジャパウォーネ王国のある大陸は、1番押されている大陸になる」
クリーナの言葉に、顔を青く染めるアルベリー。それも当然だろう、自分のいる国が1番危険だと言われているのだから。
「それで、クリーナが俺たちをここに呼んだ理由は、その神と戦って欲しいからか?」
「いいえ、アステルたちには、各大陸にいる私の事を1番信仰してくれた人たちを助けて欲しいの。今の私の力だと、各大陸にいる子たちに力を渡す事もままならない。だから、この場まで連れて来て欲しい」
クリーナは女神の加護を与える事が出来ないほど弱っているのか。だが、他の大陸に行く方法が無いのにどうやって。
「それは大丈夫よ。あなたには各大陸の首都の場所を教えるわ」
次の瞬間、見た事も行った事もない土地が、頭の中で鮮明に思い浮かぶ。これが、この世界の首都か。最新の映像なのだろう、どこもかなり廃れている。
「これならいけそうだな。それでその1番信仰があるのは誰なんだ? それがわからない事には連れて来られないぞ」
「あなたのいる国ジャパウォーネ王国は誰か分かるわよね。あなたの隣にいるのだから。
それからジャパウォーネ王国のある大陸を北に進んだところの大陸にある国、ペロソネス王国は、騎士王と呼ばれている人がそうよ。
そこから西に行った大陸には、レイブン王国というのがあって、そこにいる孤児がそうね。
最後のアルフレイド帝国は、とある傭兵団の団長が1番ね」
……クリーナから色々と情報をもらったが、レイブン王国とアルフレイド帝国だけが分かりづらいな。特にレイブン王国の孤児とは。孤児なんかたくさんいるだろうに。
「わかるわけないと思っているでしょうけど、それは大丈夫よ。加護を持っている人が近づくと、何と無くこの人だ、とわかる様にしてあるから」
って事は、探すのには必ずアルベリーを連れて行かないといけないわけだ。隣に座るアルベリーは困惑とした表情で、クリーナを見つめている。因みにハクは俺の膝の上だ。
「ほ、本当に私がこの国で1番信仰を持っているのですか?」
「ええ、あなたは毎日私の神殿に来てお祈りしてくれる、お供えもしてくれる。あなたがいなければこの国は見捨てても良いぐらいよ。だから、あなたには私が渡せる加護を渡すわ。これぐらいしか力になれないけど許して」
「いえ! クリーナ様に会えただけでも有り難いのに、その上、クリーナ様の加護まで貰えるなんて!」
物凄く興奮した様子で話すアルベリー。なんだか出会ってからは、ずっと暗い雰囲気だったから、こんな風に興奮する彼女を見るのは新鮮だな。
「それじゃあ、はい」
クリーナはそう言って、アルベリーの頭を優しく両手で挟み、おでこにキスをする。すると、アルベリーの体を光が覆う。
「これであなたには加護を与えたわ」
「ありがとうございます!」
感無量って感じだな。体を震わせるほど嬉しかったのだろう。
「レイさん、そろそろ時間です」
そんなアルベリーを見ていたら、隣に座るアステルが俺の袖をくいくいと引っ張ってそう言ってくる。この空間から出なければ。
「それじゃあクリーナ、見つけたらまた来る」
「ええ、待っているわ。またね、アステル。アルベリーも無理しちゃ駄目よ。ハクちゃんはアステルなんかに負けないでね」
クリーナの綺麗な微笑みを最後に俺たちは元の空間へと戻って来たのだった。




