後日談.新婚旅行?編 化け物掃討
「……あ、あなたは、先ほどの」
「今の内に女の子を連れて後ろに下がるんだ、俺がこいつらを引きつけている間に」
俺は異形の生物たちを睨み付ける。仲間意識があるのか、サソリ型を倒してから、俺にたくさん集まって来た。仇でも取ろうと考えているのだろうかね。
「で、でも……」
俺の後ろでは戸惑い逃げようとしない青髪の女性。腕の中では気を失ってしまってぐったりとしている少女の姿が。
「俺は大丈夫だから早く。その女の子も安全なところに連れて行かないといけないだろ?」
俺がそう言うと、青髪の女性は俺と少女を交互に見て
「わかりました。何とか私が戻るまで耐えて下さい。女の子を安全なところへ連れて行ったら、必ず戻りますので!」
青髪の女性はそう言うと、町の中心にある20メートルほどの巨大な壁へと向かって走る。あれがさっき女性が叫んでいた第2の壁だろうか。
「グギャギャギャ!」
おっと、奴らも我慢の限界のようだ。ゴリラのように姿をして腕が異常に発達した怪物が殴りかかってくる。
俺を潰さんと振り下ろしてくる巨腕を、俺は左手で受け止める。ズシリとのしかかるが、まあその程度だ。俺はガラドルクを振るい、ゴリラ型の上半身と下半身が分かれる。
それを境にそれぞれの姿をした異形たちが一斉に襲って来た。サソリ型、犬型、ゴリラ型、カマキリ型、ムカデ型と他にもいるのだが、中々種類豊富だ。
俺はそいつらの攻撃を逸らして、ガラドルクを振る。こいつらの強さは、元の世界でのBランクほどだろうか。それは1番弱い異形ですらって事だ。
その上、こいつら中々死なない。体を貫いたぐらいじゃあ倒れないのだ。さっきのゴリラ型みたいに体を切り離しても中々死なない。
面倒な事に頭を潰さなければ、体が切り離されても動いて襲ってくる。結構面倒な相手だ。まあ、それでも負ける気はさらさらないが。
切っては投げ、切っては投げを繰り返して、倒した数は100ほどだろうか。少しは数が減った気がするが、外側にある多分第1の壁だろう、そこに穴が空いており、次々と異形たちが入ってくる。
穴が空いているのは、その一ヶ所のみだが、他にも穴が空いてないとは限らない。どうしたものかと迷っていると
「ご、ご無事ですか!?」
後ろから、焦ったような声が聞こえて来た。振り返るとそこには、急いで走って来たのか、息を荒げる青髪の女性が立っていた。
「お、戻って来たのか。戻って来て早々に悪いのだが、外側の壁に穴が空いているのだが、そこから次々とこいつらが入って来る。どうする?」
俺は未だに襲って来る異形の相手をしながら、青髪の女性に尋ねる。あの穴を塞がなければこの騒動は収まらないだろう。
「……やっぱり壁に穴が。そこを閉じなければ収まりません。しかし、それが出来る人が来るのには時間が……」
その間にも住民が、と悔しげに表情を歪める青髪の女性。あそこの穴を塞げば一時的とはいえ、この騒動は収まるんだな。
「わかった。俺が塞いで来るから、他に逃げ遅れた人がいないか探してくれ! 雷装天衣!」
俺はそれだけ伝えて、瓦礫を飛び越えて穴の空いた壁を目指す。後ろで、青髪の女性の叫ぶ声が聞こえるが、今は後だ。とにかくこの化け物どもをどうにかしなければ。
俺は目に入る化け物どもに向かって武器を放つ。全て顔面を穿つように。化け物どもは避けきれずに吸い込まれるように顔へと武器が刺さっていく。腕で防ごうにも腕ごと貫いていく。
ただ、化け物どももやられてばかりではない。鳥型の化け物は羽を放って来たり、蛙型は舌を伸ばして来る。口から胃液のようなものを吐いてくる奴もいる。まあ、全部当たらんが。
「……結構大きな穴だな」
化け物どもを吹き飛ばしながらも、ようやく目的の壁の穴へと辿り着いた。遠くから見た分には小さかったが、近くで見るとかなりの大きさだ。20メートルほど壁に縦横5メートルほどの大きな穴が空いていた。
化け物どもが壊したのだろうか? それなら、先ほどまで戦っていた奴らでは無理だ。大きくても2メートル程の奴らがこんな大きな穴を開けられる筈がない。そう思っていたら
「ダレダ、オマエ?」
他の化け物どもより大きく、4メートル程の巨大な蜘蛛が現れた。しかもこいつ人語を話したぞ。ますます謎が深まるな。
蜘蛛型の化け物は、8つの目で俺を見てくる。気持ち悪い。人の顔で8つ目が付いているからな。足もワシャワシャと動かして。
「シモベドモヲ、コロシタノハオマエダナ?」
「だったらなんだよ?」
「コロス!」
蜘蛛型の化け物は、言うのと同時に糸を吐いてきた。俺は飛んで避けると、再び吐いてくる。さっきより笑みが深くなっている気がする。どうせ、空中では避けられないと思っているのだろう。
残念だが、俺は盾を作って糸を防ぐ。蜘蛛型は怒りで牙をぶつけて鳴らしてくる。俺が降りてくるところを前足で攻撃してくるが、両手に剣を出現させ、切り落とす。
「ギャアアアア、イタイイタイ!」
切られた痛みがあるのか、蜘蛛型の化け物は泣き叫び始めた。そして、命乞いをしてくる始末だ。俺は蜘蛛型の言葉を無視して、周りに武器を出現させ、蜘蛛型へと放つ。
蜘蛛型は叫ぶ暇もなく細切れに擦り下ろされた。どうやら、蜘蛛型が最後だったようで、あの化け物たちの姿は見えなくなった。
俺は周りを警戒しながらも、土魔法で壁を修復していく。あまり同じ地面から持ってくると、地盤が緩んでしまうから、範囲を広く浅くする。硬さは前の壁よりも硬い筈だ。これで少しは持つ筈だ。
俺は直ったのを確認すると、みんなが待つ教会へと戻るのだった。




