後日談.結婚式編 幸せな報告
「パパ〜、私かわいい〜?」
俺の前までパタパタと走って来て、くるりと1回転。そしてにぱぁ〜、と笑顔を向けて来る天使。やばい、可愛すぎるだろ! 俺は直ぐに天使である我が娘、エレネを抱き上げる。
「ああ! 世界一可愛いぞ〜!」
「きゃあ〜!」
俺は抱き上げたエレネの頭を顎でぐりぐりとしてあげると、腕の中でエレネがきゃっきゃっと喜ぶ。俺の側では、今日は侍女役をしているヒカリンとマリリンがニコニコと立っていて、ヒカリンとアレンが遊んでいる。
何故マリリンではないかと言うと、ヒカリンの方が柔らかいからだと。何処とは言わないが。
いつもならクロナがいるはずなのだが、今日はいない。理由はもちろんあって、それは……
「あに……レイ様、失礼します」
開きっぱなしの扉から声がして来る。その方を見ると、入って来たのはロイのようだ。別に兄貴でも良いのだが、ロイが公私はわけると言うのでそのままにしている。
「おう、どうしたんだロイ?」
「はい、各国の王がやって来ましたので、会場に案内しました。ランウォーカー辺境伯も既にお見えです。これで、本日の参加者は揃いました」
予定よりかなり早いがもう集まってくれたらしい。俺も抱き上げていたエレネを下ろして、上着を羽織る。下ろされたエレネは頰をぷくぅと膨らませて、少し不機嫌そうだが許して欲しい。
でも、昔は物凄く警戒していたエレネがこんなに懐いてくれて物凄く嬉しい。アレンも今ではパパと呼んでくれるし。
「それじゃあ、みんなのところへ行くか」
俺は右手にエレネ、左手にアレンを連れて部屋を出る。部屋を出ると、兵士と侍女がそれぞれ並んで立っており、恭しく頭を下げて来る。なんか背中がむず痒いが慣れるしかないよな。俺なんかよりアレンとエレネの方がよっぽど堂々としている。
俺たちの目的の場所に着くと、そこでは女性騎士たちが立っており、恭しく頭を下げてから中へと確認をする。
「パパ、ここにママたちがいるの?」
「ああ、部屋の中にいるよ。今は中でお着替え中なんだ」
「へぇ〜」
アレンはそれだけ聞くと早く入りたいのかそわそわと扉と俺の方を行ったり来たりする。その間に女性騎士に向かってニコッと微笑んだりするもんだから、それを見ていた女性騎士たちが鼻を押さえてそっぽを向く。大丈夫か?
中から出て来た侍女が、ギョッとして女性騎士たちを見るが、そのまま俺の方まで来る。
「レイヴェルト様、皆様が中でお待ちです」
「わかった。アレン、エレネ、行くよ」
「「は〜い〜」」
俺の言葉に手を上げて元気に返事をする2人。その光景に周りの兵士や侍女たちは微笑ましそうに見て来る。
俺は2人と再び手を繋いで中に入ると、中ではブロッサムガーデンの店員が立っており、既に着替え終えたようだ。
マダムブロッサムにはとあるドレスをお願いしていて、その着付けに店員には来てもらったのだ。
流石にマダムブロッサムは来ていないぞ。いくら心は乙女でも、アレクシアたちの裸を見せるわけにはいかないからな。
まあ、1番の理由は、マダムブロッサムを見たらアレンたちが泣いてしまうからだけれど。俺が見ても恐ろしいから、子供からしたらもっと恐ろしいのだろう。
「既に準備は終えています。奥様方皆様とても綺麗ですよ」
店員を代表して副店長がそう言って来る。それは楽しみだな。
「ママたちは向こう?」
「ああ、早く会いに行こうか」
エレネがもう待てないとばかりに俺の腕を握って降って来るので、俺たちはいつも通り仕切られているカーテンの方へと向かう。そしてカーテンを開けるとそこには
「わぁ〜、ママたち綺麗〜!」
やはり1番に声をあげたのはエレネだった。エレネは目をキラキラと輝かせながら、自分の母親であるエアリスの方へと向かう。
「ふふ、エレネも似合っているわよ」
「うふふ〜、そうでしょ〜」
ドレス姿を褒められたエレネは、エアリスに抱き付いてスリスリと頬ずりをする。アレンもアレクシアの元へ行き綺麗だと言っている。
しかし、本当に綺麗だ。この3週間でそれぞれの国の結婚式の衣装を見たが、この衣装も負けていない。みんなが着ている純白のウェディングドレスは。
「なかなかの再現度だな、香奈」
「うん、私と麻里の記憶から何とか引っ張り出して来たんですから。どうですか、レイ君?」
「当然綺麗だよ。みんな見惚れるほど」
全くのお世辞ではなく本当に綺麗だ。誰が何と言おうとも、間違いなく俺の妻たちが1番綺麗だと言える。
「ふふ、そんな普通に言われたら照れようにも照れられないじゃない」
アレクシア、フェリス、キャロの王女組が並んで、キャロがそんなことを言って来る。大中小の順番だ……すみません、嘘です、だからそんな怖い顔で見ないで下さい、キャロさん。
後ろからキャロと、何故かヘレンの視線が俺の背に突き刺さる中、麻里が周りを気にしながらも俺の方へとやって来た。
「どうした、麻里?」
「ええっと、その……レイさんに報告したい事がありまして……」
俺に報告したい事? なんだろうか? みんなも気になるのか、俺たちを囲うように立つ。麻里は申し訳無さそうにしながらも、嬉しそうな顔をしている。
「実は、この前から周期が来てなくて、治療師の方に見てもらったんです。すると……出来ていたそうで……」
「……出来てたって何が?」
……正直に言うと、今、お腹をさすりながらそんな事を言う麻里を見たら何を言っているのかはわかったのだが、麻里の口から俺は聞きたかった。
アレクシアたちも口に手を当てて驚き、1番の親友である香奈は、既に目に涙を浮かべていた。
「そ、その、赤ちゃんが……きゃあっ!」
そして、麻里の口からその言葉が出た瞬間、俺は力強く麻里を抱き締めた。
「あわわっ、く、苦しいです、レイさん」
「ああ、ごめんな、麻里。あまりにも嬉しすぎてつい」
苦笑いしながらも抱き締め返してくれた麻里を離すと、今度は香奈が抱き着いた。鼻水まで垂らして泣いている。
「ねえねえ、みんなどうしたの?」
事情がわかっていないアレンとエレネは、俺の袖を引っ張りながら訪ねて来る。俺は2人の視線に合わせて、
「麻里のお腹の中には、赤ちゃんが出来たんだよ。アレンとエレネがお兄ちゃん、お姉ちゃんになるんだ」
「僕がお兄ちゃんに?」
「やったぁ! 私お姉ちゃんになるんだぁ!」
2人は多分意味がわかってないだろう。だけど、それでいい。これから生まれてくる命を大切に思ってくれれば。俺は2人の頭を撫でながら、みんなで喜びを分かち合う妻たちを見るのだった。




