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29.圧倒

 俺が練習場に向かっていると、そこには


「父上」


 ジークが立っていた。


「いや、その、悪かったな。色々と相談せずに勝手に決めたりして」


 そう言い謝ってくるジーク。本当に悪いのは俺なのに。


「いえ。こちらこそすみませんでした。俺のためを思って言ってくれたのに、父上を殴ってしまいました」


「ああ、なかなか痛かったぞ。エリスの怒ったときにそっくりだった」


 そう言い笑うジーク。あんなパンチをされているのか……


「アレクシアにも言われましたよ。この称号を見たらその様に考えるのは普通だって」


 俺は苦笑いをする。それを聞いたジークはなぜか驚いた表情をする。どうしたんだろう?


「レイ。今王女のことを」


「ああ、呼び捨てにしたことですね。アレクシアとヘレンさんにもステータスを見せたんです。その上で本当に一緒になるかを聞いたら、見くびらないで! と怒られてしまいました。だから俺も腹をくくることにしたんです」


「そうか」


「はい。だから俺は俺の意思で王都に残ります。俺のために色々と考えてくれる人や、俺と一緒にいてくれる人を守れるように強くなる為に」


 そう言うとどちらからともなく笑いあう俺たち。


「わかった。そういう事なら俺も応援しよう。まずは今からの模擬戦だな。レイの事だから心配はしていないが気を付けろよ」


 そう言い拳を突き出してくるジーク。


「大丈夫ですよ! 何て言ったって『疾風の槍術師』と『雷鳴の魔法師』の息子なんですから!」


 俺も拳を突き出してお互いに


 コツン!


 とぶつけ合う。


「それでは父上。行ってきます」


「ああ、頑張れよ」


 俺は練習場へと歩み始める。


 練習場へ出ると、そこは


「ワアアアアアアアア!」


 と埋め尽くされた観客が目に入った。何だこれは? よく見ると兵士ただのようだが。あっ! 前の方の観客席にはエリスにフィーリア、エリザにマルコ、ウォントが座っており、後ろにクロエとクロナが支えている。何故みんなが?


「これはこれはご子息殿。逃げずによく参られました」


 と気持ちの悪い笑みを浮かべ、ヘンドリクス騎士団長がやってきた。


「別にこの程度逃げるような事ではありませんので。それよりこれはどういう事ですか?」


「なぁに、兵士たちも毎日訓練ばかりじゃあ飽きてしまうと思いまして、少し余興に見てもらうだけですよ」


「じゃあうちの家族は?」


「辺境伯の一家についてはご子息殿の勇姿を見て頂こうかと思いましてお呼び致しました」


 ……趣味の悪い事を考える。家族の前で泣き叫ぶ姿を見せようってのが見え見えなんだよ。


「今回の模擬戦はどちらかが気を失うまで行います。まあ、ご子息殿が泣いて命乞いをするというのであれば止めて差し上げてもよろしいですが」


 だから気持ちの悪い笑顔を見せるんじゃねぇよ。


「ご心配なく。先ほども言いましたがこの程度どうって事ありませんから。それよりご自身の方が心配されてはいかがです? 8歳児に負ける軍隊を率いる隊長っていう称号がステータスに付いてしまうかもしれませんよ?」


 俺はヘンドリクス騎士団長にニヤッとジーク譲りの悪どい顔をしてみせる。すると効いたのか


「ちっ! 後で後悔しても知らねえぞガキが!」


 と去って行った。あれが本性だったんだな。そんな事を考えていたら王様たちが入ってきた。なんかいっぱいいるぞ。


 王様の後ろに夫人が3人。あれが王妃たちか。そして続くようにひょろりとした男がいて、その次が逆に筋骨隆々の男が来る。その次がアレクシアで最後に勝気な感じの女の子だ。


 聞いていた通りならひょろりとした男が第1王子のアルバート王子で、筋骨隆々の男が第2王子のアレックス王子。そして勝気な感じの女の子が第2王女のマリーナ王女だろう。


 続くように宰相や、ゲイン近衛団長。マーリン魔法師団長などもやってくる。ん? 反対側の入り口からも何人か入ってきた。……何だあの豚は? 豪華な服を着た豚がいるぞ。そんな事を考えると


「皆様ようこそお越しくださいました。今回の模擬戦は100人の兵士たち対8歳の子供という普通ではありえない構図となっております。何でも子供の方から勝てると啖呵を切ったそうで、我が隊長のヘンドリクス騎士団長も困り果てたそうです。何を言っても聞かないそうですから」


 そう言い爆笑する兵士たち。観客も呼応して笑い出す。いやいや進めてきたのそちらの隊長ですからね。


「これは、不本意ながらも我が王国軍が舐められている証という事で、今回の模擬戦を行う事となりました。まあ、結果は目に見えていますけどね」


 とまた笑い出す。観客からもヤジが飛ぶ。家族の方を見ると魔法を放とうとするエリスを、必死に止めるジークとエリザが見えた。何を言っているか想像できて笑ってしまうな。するとそこに


「あなたたち黙りなさい! レイの実力も知らないくせに喚いてんじゃないわよ!」


 とアレクシアの一喝。これを聞いた観客や兵士も流石に黙ってしまった。


「えっと、では、模擬戦を始めたいと思います。陛下よろしくお願いいたします」


「わかった。両者とも遺恨のないように。では始め!」


 こうして模擬戦が始まった。


 兵士たちは合図と同時に突っ込んでくる。子供だからって侮りすぎだろ。これじゃあオークと変わらない。


「死ねぇ! ガキ!」


 死ねって言ってしまってるし。まあ、そっちがその気なら俺も本気を出そう。


「身体強化発動。雷魔法ライトニング身体付与」


 そして向かってくる兵士目掛けて


「はぁあ!」


 槍を薙ぎはらう!


「なっ! ぐへぇ!」


 槍を受けた兵士はそのまま吹き飛ばされる。……軽すぎるだろ。ほかの兵士たちはこの程度で足を止めるし……辺境伯の軍の方がもっと凄かったぞ。


「まあいいか。雷魔法ライトニングスピア100連」


 俺は即座に魔法を使用。俺の背後には100本の雷の槍が宙を舞う。これを見ても足を止めている。


 それとは反対に


「魔法師団! 総員魔法障壁発動! 観客を守れ!」


 と即座に指示を出すマーリン魔法師団長。これはもうトップの差だな。


 俺も観客を気にする事なく魔法を放てるし。


「行くぜ。荒れ狂う雷槍の雨(レイジングスピア)!」


 雷の槍を兵士目掛けて放つ! そして


 ズドドドドドン!


 と轟音を立てる。うわっ! 砂煙で何も見えない。少しやり過ぎたな。


 砂煙が落ち着いてくると立っているのは全体の3分の1ほどしか立っていなかった。


「な、何なんだよあのガキ!」


「なんであんなに魔法が撃てるんだよ!」


「ギャアアアア! 腕が! 俺の腕がぁ!」


 阿鼻叫喚の渦。観客も黙り込んでしまった。


「お、お前たち。今だ! 今がチャンスだ! あんな量の魔法を連発して撃てるわけがない!」


 おっ! ヘンドリクス騎士団長も残っている。腐っても騎士団長って事かな。ではお望み通り


「雷魔法ライトニングスピア100連」


 もう一回撃ってあげよう。これを見た兵士たちは


「うわあああああ! 無理だ! 俺は棄権する! 早く出してくれ!」


「俺も棄権する!」


「俺もだ!」


 とみんな我先に出口に向かう。まあ、あの人たちは巻き込まれただけだから良いか。俺の狙っているのはただ1人。


「何逃げようとしてんだよ!」


 逃げようとするヘンドリクス騎士団長目掛けて数本のライトニングスピアを放つ。


「ひぃぃぃい!」


 わざと外したんで尻餅をつくヘンドリクス騎士団長。


「何処へ行こうとしているんですか? ヘンドリクス騎士団長。さあ、剣を構えて下さい。あなたが望んだ事ですよ」


「くっ、くそ! このクソガキが! どうせ魔法主体なんだろ! 接近戦はダメなんだろ。受けてやるよ!」


 そう言い剣を抜くヘンドリクス騎士団長。あの辺境伯の息子がそんな訳ないだろ!


「ひゃあああ!」


「辺境伯家を舐めすぎだ! この野郎!」


 俺は槍の穂先でヘンドリクス騎士団長の剣を弾き飛ばし、そのまま回転。石突きでヘンドリクス騎士団長の顎目掛けて振り抜く!


「はぁぁぁああ!」


「ぐへぇぇえ!」


 そのまま地面へ叩き落とす!


 ドガァン!


 ヘンドリクス騎士団長は頭から地面にぶつかる。周りを見てみると既に立っている人はおらず、残っていた人も棄権したようだ。


 そんな風に見ていると


「レイ〜〜〜〜!」


 とアレクシアが走ってくる。そして俺のそばまで来ると


「カッコ良かったわ! レイ!」


 とそのまま顔が近づいてくる。俺は動く事ができずそのまま


 チュッ!


 ……えっ? 俺は呆然としていると


「勝ったご褒美よ!」


 と赤くなりながらも笑ってくれるアレクシア。


 ……唇にキスされた!


 周りの兵士たちからは怨嗟の声があげられながらも、こうして模擬戦は俺の圧勝で幕を閉じた。


 ……この日から俺には『雷帝』という称号と二つ名が付いてしまった。

よろしくお願いいたします!

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