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22.報告

 今俺は馬車に揺られている。馬車で揺られている理由は王宮に行くためだ。王宮に行くのは俺とジークの2人だけ。昨日のこともあって何だか気まずい……


 昨日あの後は、ジークに言われた通り部屋に籠っていた。扉の前では侍女が立ち外に出れないようになっていた。外に出れるのはトイレに行く時だけ。食事も部屋で取ることになる。


 ただ部屋にいても仕方がなかったのでヒカリンから雷魔法を教えてもらったりして時間を潰していた。


 夕方くらいになると買い物から帰ってきたエリスたちが順番に会いに来てくれた。罰を受けての謹慎なのにそんな簡単に会いに来てもいいのかとも思ったが、どうやらジークが許可をしてくれたらしい。


 エリスからはやり過ぎだの、もう少し穏便に済ませるべきだの、床の修理代がかかるだの小言を沢山言われてしまった。だけどそれ以上に褒めてもくれた。エリスに思いっきり抱きしめられてお胸様に顔が埋もれる。うおっ! 呼吸が出来ないほどの密着感! 母親じゃなかったら色々と危なかったかもしれない……


 次に来てくれたのはクロエだった。クロエからはただ感謝ばかりされて逆に困ってしまったほどだ。何時でもクロナを襲っても良いですからね! と言われても困ってしまう。将来どうなるか分からないが、今はそんな気は全くない。幼女に欲情はしない。


 夕食の時は、フィーリアとクロエが来て一緒に食事をしてくれた。フィーリアからどの店を行ったなど、このアクセサリーが可愛かったなどと今日の買い物の時の話をしてくれた。その都度


「お兄様がいたらもっと楽しかったのに〜」


 など言われて、俺の精神ダメージは半端なかった。そして王都にいる間の買い物を2回行くことを約束させられた。何故か1回増えているがまあ、聞くのも野暮というものだろう。


 クロナは何故かスリスリと寄ってきたり、頭突きをしてきたりする。頭突きが地味に痛かったりするが、何をしているのか聞いても答えてくれないので、仕方なくさせていると、やり終えた時のクロナの顔はとても満足した顔ををしていた。前世含めても余り猫に詳しくない俺は、この行動の意味が分からないが、まあ、クロナの機嫌が良いのでこのままにしておこう。次の日クロエに会うと何故かサムズアップされたが意味がわからない。


 そんなこんなで1日謹慎を終えて今に至る。昨日のことを少し考えていると


「レイ、王宮が見えてきたから降りる用意をしろ」


 と教えてくれた。はぁ〜遠くからでも見えるくらい大きかったが、近くで見るとより大きいな。西洋風の城に大きな城壁5メートルほどだろうか。


 大きな城門まで行くと見張りの兵士がやってくる。


「通行証の提示をお願いします」


「ああ、これだ」


 ジークは王都に入る時に使った通行証を兵士に見せる。


「確かに確認できました。では、お入りください、ランウォーカー辺境伯様」


 そう言われると馬車が動き出す。


「レイ、この後は案内に従い陛下の元へ向かう。謁見の際は粗相がないようにな」


「わかりました。父上」


 正直言うと吐きそう……今まで余りそんな事もなかったがいざ会うとなれば緊張してしまう。


 馬車を停め、案内に従って歩いて行く。あまりに緊張して城の中の調度品を見る余裕もない。あー吐きそう。こういう時は深呼吸をしよう。スー、ハー、スーハー。深呼吸を何度か繰り返すとようやく落ち着いてきた。ふぅ〜、危なかったぜ。さっきのままで王様に会っていたら確実にリバースしていただろう。何とは言わないが。


 そんなことをしていると案内の人が止まる。目の前は3メートルほどの大きな扉があり、その前に兵士が左右に2人ずつ立っている。


「ランウォーカー辺境伯だ。お取次を願いたい」


「かしこまりました。少々お待ちください」


 そうして待つこと数分


「では、お入りください」


 そう言われ扉を開けられる。ジークが入りその後に続く。中は何だか会議室みたいなところだ。一番向こうの席に、かなり豪華な服を着ている男の人が座っている。年は40前半ぐらいだろうか。この人が王様なのだろう。5メートルほど離れたところでジークは礼をする。俺も倣ってしよう。


 左右には鎧を着た男が5人ほどと、文官みたいな人が5人ほど並んですわっている。


「よく参ったなランウォーカー辺境伯。前に会ったのは3年ほど前かな?」


「はっ! 余り陛下にご挨拶する機会がなく申し訳ございません」


「良い良い。辺境伯領がどのような場所なのかは儂にもわかっているつもりだ。そのような事気にするでない。あまり領地も離れられぬだろうしな」


 見た限りは優しそうな王様だ。


「それでは本題に入ろう。ランウォーカー辺境伯よ。此度はどのような用で参ったのだ?」


「はっ、今回は大行進を防いだ事についてのご報告と、その時の異変についてです」


 ジークがそう言い、話が始まった。


 いつ大行進が起きたかや、どのぐらいの数だったかとか、どのぐらいの犠牲が出たかなど色々と聞かれては答えていく。俺は座って置物となっておこう。


 俺は置物俺は置物俺は置物俺は置物俺は置物俺は置物俺は置物俺は置物俺は置物俺は置物俺は置物俺は置物俺は置物俺は置物俺は置物


「では、レイに説明させます。レイ!」


「あ、はい!」


 おっと! もう奇襲の時の話か。危ない危ない。危うく聞き流すところだった。


 俺が席を立つと、みんなが怪訝な顔をしてくる。それはそうだろう。こんな子供が何を話すのだと思うのは当然だ。


「ではレイ話しなさい」


 おれは促され話し出す。転移魔法陣の発生や、出現した魔物の数、魔物の種類などを俺のわかる範囲で話した。


「ふうむ、転移魔法陣か……確か魔法陣の作成にはかなりの時間と労力が必要になる筈だな、マーリン魔法師団長」


「はい、その通りです。話に聞く限りでは100体ほどのオークたちが転移してきたとの事。それ程大規模ならかなりの時間を費やしていると考えていいでしょう」


「やはり帝国か……」


「私もそう考えています」


 みんな黙ってしまった。それもそうか。これほど大きな話になると。


 すると、鎧を着た男の内の1人が話し始めた。


「そういえば、その奇襲を防いだのはその辺境伯のご子息と先ほどおっしゃいましたが、それは本当ですかな?」


「本当ですが、何か?」


「いえ、奇襲の中にはオークジェネラルもいたとか。Bランク相当の魔物を相手するには我が軍でも何人かで囲まないと対応出来ないもので、その上100体近くのオークもいたのでしょう。本当にそのご子息が倒したのかと思いましてね。いえ、決して疑っているわけではありませんよ。ただ疑問に思っただけで」


 めちゃくちゃ疑っているじゃないか。確かに信じられないかもしれないが本当だから仕方がない。


「……どうすれば信じてもらえると?」


「そうですね〜その少年が我が軍の兵士100人と隊長を含めた小隊に勝てば信じましょう」


「な! それはあんまりだぞヘンドリクス騎士団長!」


 ヘンドリクスという男性の隣に座っている人が怒鳴り上げる。


「じゃあ、あなたは信じられるのですかゲイン近衛団長?」


「ぐっ! それは信じられぬ話だが!」


「なら良いでしょう。どうです、ランウォーカー辺境伯?」


「……わかりました。受けましょう」


 うわぁ、受けちゃったよ。面倒な事になった。


「では、陛下。明日の正午に執りおこなうということでよろしいですか?」


「……良いだろう。ランウォーカー辺境伯もそれで良いな」


 しかも明日か。


「では、今日の会議は解散とする。辺境伯は少し残ってくれ」


 そして他の人たちは出て行く。みんな一様におれを哀れんだ目で見てくる。そんなに見つめられると照れてしまう。すると、


「あなたの魔力なら大丈夫と思うけど頑張ってね」


 そう言い手をフリフリと振ってくれる。確かマーリン魔法師団長だっけ。取り敢えず礼はしておこう。


「ジーク、済まない。止めることが出来なかった」


「仕方ないさ、ゲイン。俺も事情を知っていなかったら疑っているさ」


 えらい親しげだけど知り合いか?


「辺境伯、それにゲインか。ゲインも空いているなら付き合ってほしい。多分決闘することになるだろうからな」


 そう言い溜息を吐く王様。何なんだろうか?


 そう考えていると扉が開いた。


「お父様、来ましたわ!」


 入ってきたのは、年は10代前半だろうか。ちょうど女の子から女性へ変わっていく途中みたいな女の子だ。金髪のロングをサイドテールでまとめて碧眼で凛々しい顔つき。服装はドレスでなくて学生服のようなものを着ている。白と青を基調とした服装で、学生服がはち切れんばかりのお胸様! この年でこの大きさとは末恐ろしいものだ。


「ふむ」


 ふむ、じゃねえよ。エロ親父。巨乳が大好きだからって見過ぎだ。


「ああ、この者が、お前が会いたがっていたランウォーカー辺境伯だ。辺境伯、知っていると思うが儂の娘であるアレクシアだ」


 第1王女じゃないか! ジークに何の用だ?


「初めまして。ナノール王国第1王女アレクシア・ナノールです。よろしくお願いしますわ、ランウォーカー辺境伯」


「初めまして、ジークハルト・ランウォーカー辺境伯です。お会いできて光栄です、アレクシア王女殿下」


「私ずっとこの日を待ち望んでいましたの! ゲインからことある事に出てくる名前。学園に残るほどの武勇。そんなあなたに不躾なお願いがあるのですがよろしいですか?」


「私に出来ることなら何なりと」


「では! 私と決闘をしてください! 辺境伯!」


 笑顔は眩しいのだが言っていることはかなり物騒だな。噂通りの戦闘狂だ。


「私とですか?」


「ええ、あなたの槍捌き見てみたいですわ」


 物凄くキラキラしている。俺はジークの方を見ると、ジークも俺の方を見ていた。すると、ジークはニヤッと物凄く悪そうな顔をして俺を見てくる。なんか嫌な予感……


「アレクシア王女殿下。私とする前に我が息子の相手はどうですかな? まだ負ける気はありませんが、将来は私より強くなるでしょう。息子に勝てたら私もお相手致します」


 何言ってんの、この人は! そして、ギリギリ、ギリギリとアレクシア王女の方を見ると、物凄い笑顔で俺を見ていた。この笑顔は恐い……


「良いでしょう! 私が勝てばお相手お願いしますね。さあ、ボク行きますよ! ゲイン、練習場の用意を!」


 こうして俺はアレクシア王女に引きづられていく。どうしてこうなった……

よろしくお願いしますわ!

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