21.怒り
フィーリアとクロナが少しづつ落ち着いてきたので話を聞くことができた。
〜〜〜〜〜〜〜〜フィーリア・クロナside〜〜〜〜〜〜〜〜
さあ! 今日も気持ちのいい朝です! 早くレイ様のところへ行かなければ!
「フィーリア様! 早く行きましょうよ〜! 今日は私が最初に撫でてもらうんですからね!」
レイ様のなでなではとても気持ち良いです! 何といいますか、ぽわ〜んとしてふわふわ〜とした感じになってお空を飛んでいるようです! ごろごろにゃ〜ん! って感じです!
「待つのです! お兄様になでなでしてもらうのは私が一番なのです!」
朝はいつもなでなでの順番を争ってケンカします。フィーリア様はこの順番だけは譲ってくれません! 私だって一番になでなでして欲しいのに!
「ずるいです! いつもフィーリア様ばかり先にして!」
そう言い私は膨れます。それはもうほっぺをぱんぱんになるくらい膨れます! あっ、でも昨日からこの顔をするとレイ様が突いてくれます。私とフィーリア様はそれが嬉しくてレイ様に会う度にこの顔をします! あ〜早くレイ様に会いたいです!
すると、ようやくフィーリア様の準備が出来たようです。
「よし! 準備が出来たのです! クロナ、タオルは持ったのですか?」
「はい、お母様より預かっています! 他にも飲みのものなどもあります!」
お母様が言っていました。侍女たるものは主人の行動を先読みして行動するべし、と。ふふふ! これで私もレイ様専属のパーフェクトメイドの称号を得る日も近いでしょう!
「なら行きましょう! お兄様が待っております!」
「はい! 行きまし、きゃあ!」
私はフィーリア様の後を追おうとして転けました。おでこが痛いです……でも泣きません。パーフェクトなメイドはこんな事で泣いてはいけません。ぐすん。
「大丈夫ですか、クロナ?」
「大丈夫です! さあ、行きましょう、フィーリア様!」
ようやく出発し始めた私たちは、今日の話をします。
「今日はお母様とお兄様にドレスを選んでもらうのです! あ〜早くお昼なって欲しいです!」
そんな事を話しながら廊下を歩いていると、廊下の曲がり角から丸い人が出てきました。え〜と、確かレイ様とフィーリア様のお兄様であるマルコ様です。第一印象はとにかく丸いです。レイ様とフィーリア様のお兄様という事で似ているのかなとか思っていたけど全く似ていません。なぜでしょう?
「あん? 確か妹のフィーリアだったか。それと猫族の侍女か」
そう言ってジロジロと見てきます。何でしょうか。レイ様に見られるのは嬉しいですが、この人は全然嬉しくないです!
「どうしたのです、マルコお兄様?」
フィーリア様がそう聞くとマルコ様は
「おい、フィーリア。その侍女を俺によこせ」
私とフィーリア様は一瞬何を言われているのかわかりませんでした。私をよこすというのはどういう事でしょうか?
「どういう事です、お兄様?」
「その猫族の侍女を俺専属にしてやるって言ってるんだよ。光栄に思えよ? 俺の専属になれるんだから。ヒヒヒ! 将来は美人になるだろうから今の内から調教すれば……」
そう言い気持ちの悪い顔で笑っています。偶に兵士さんに連れて行かれている悪い人と同じ顔をしています……私とフィーリア様は思わず悲鳴をあげてしまいました。
「ヒッ! な、何を言っているのです! クロナはレイお兄様専属の侍女になるのです! それにクロナを物みたい扱わないで欲しいのです!」
私のために怒ってくれるフィーリア様。
「うるさいな。妹のお前は俺の言う事聞いておけば良いんだよ。さあ来い侍女! 今日からたっぷり可愛がってやるよ!」
そして私の手を掴んできます!
「や、やめて下さい! イヤ! 離して!」
「やめるのです!」
私とフィーリア様は抵抗しますが、全く意味がありません。
「うるせえ!」
そう言いフィーリア様を突き飛ばします。私は我慢する事が出来ずマルコ様の腕を噛みました!
「うわっ! 何するんだこの女! 主人に逆らっても良いと思っているのか!」
「ふー! ふー! 私のご主人様はレイ様です! あなたではありません!」
そう言うとマルコ様は
「この獣人風情の女が! 人が下手に出ていれば良い気になりやがって。ふざけるな!」
マルコ様は腕を振り上げて殴りかかってきます。私はあまりの怖さに動く事ができませんでした。その時に私とマルコ様の間に入る影が見えました。誰かと思って後ろ姿を見ると、それはフィーリア様でした。あ、危ないです!
「ウィンド!」
フィーリア様の風魔法はまだレベル1でなのでそれほど威力は高くありません。マルコ様に突風をぶつけるだけです。マルコ様は少し怯みましたが、そのまま腕を振り下ろしました。そして当たったのは
「きゃぁ!」
フィーリア様でした。壁にドン! と大きな音がするほど勢いよく飛ばされました。私はフィーリア様の元へ駆け寄ります。
「フィーリア様! 大丈夫ですか!」
ああ! 口から血が! すぐにハンカチを取り出します。血はすぐに止まりましたが、フィーリア様の頬が赤黒く腫れてしまっています! どうしよう!
「ふん! 侍女風情が調子にのるからだ。フィーリア。昼までに別れの挨拶は済ませておけよ。昼以降は会えなくなるんだからな。ヒヒヒ」
そう言いながらマルコ様は去って行きました。私はオロオロと何もする事ができませんでした。するとフィーリア様は
「……お兄様のところへ行きましょう。私の水魔法で腫れが引いて欲しいです」
水魔法で治療をするフィーリア様。しかし水魔法もレベル1のため少し腫れが引いたぐらいです。赤く腫れているのは変わりません。
私たちはその後は黙って歩いていました。いつもの楽しい朝がこんなに辛く感じるなんで……
私が考えているといつの間にかお外に出ていたようです。外ではレイ様がこっちに歩いてきてくれます。私とフィーリア様はレイ様を見た瞬間涙が出てきました。その涙は怖かった分とレイ様に会えて安心した分で、当分止まる事は無かったのです……
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜レイside〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
その話を聞いた俺はすぐにマルコのところへ行こうと思ったが、まず2人を安心させるのが先だ。フィーリアには水魔法で治療をする。うん、いつもの綺麗な顔だ。
「ほら、腫れが引いたぞ。いつも通り綺麗な顔だ」
そう言って腫れていた頬を撫でてあげる。すると安心したのかまた泣き出してしまった。よしよし。
「ほらクロナも。怖かっただろう。よく頑張った」
クロナも撫でてあげる。するとクロナも泣きだしてしまった。よしよし。
落ち着くまでずっと撫でてあげる。5分ぐらいするとようやく落ち着いてきた。
「もう、大丈夫か?」
「はい、ありがとうございます。お兄様」
「ありがとうございます! レイ様!」
「俺は今から行かなくちゃいけないところがあるから2人はクロエのところへ行っているんだ。良いな?」
「でも……」
「ほら、大丈夫だから。な?」
「わかりました。フィーリア様」
「わかったのです。でも、お昼のドレスは絶対に選んでもらうです!」
「ははは、わかったよフィーリア。可愛いの選んであげるからな」
そう言い2人の頭をポンポンしてあげると、ようやく笑顔になった。うん。2人は笑顔が一番だ。
俺はそのまま屋敷に戻った。2人を撫でていたら少し落ち着いたがやっぱり怒りが収まらない。頭の上のヒカリンもバチバチ音を鳴らして怒っている。精霊の見えるフィーリアとは友達だもんな。
「私の力を解放してあげるの! マスター! ここは一発大きいのを打ち込むの!」
……うん、ヒカリンが怒ってくれるおかげで落ち着いた。俺は近くにいた侍女にマルコが何処にいるかを聞いた。そのとき侍女に
「ヒィィィ!」
って驚かれたのはショックだった。笑顔で対応したはずなんだけどな?
マルコはジークとエリザ夫人たちのところへいるらしい。そういえば昨日今日は一緒にいさせてあげようってことになったんだったな。普通に忘れていた。
部屋の前について侍女に入室の確認をする。
「お取り次ぎお願いします」
「しかし、ジーク様よりお急ぎの案件以外は取り次ぎのないようにと言われていますので……」
「俺が来た事は急ぎでないと?」
そう言い少し魔力で威圧する。これで中にいるジークと、夫人は気付いただろう。
「い、いえ。そういうわけではございませんが……」
物凄い汗の量だ。少し悪いことをしたかな。すると中から
「どうかしたのですか?」
と夫人が出てきた。
「あ、エリザ様。レイ様がジーク様とマルコ様にお会いしたいと」
「ジークとマルコに? レイ、どうしたの?」
「少しお話ししたいことがありまして」
そう言うとジッと見てくる。
「わかったわ。だけどその魔力での威圧は止めなさい。侍女がしんどそうよ」
「わかりました。ごめんね」
侍女に向かって笑って謝ると、物凄い勢いで首を振る。そんなにビビらなくても……
部屋の中に入ると、ジーク、マルコにウォントもいた。
「いったいどうしたんだレイ? 急な用以外は通さないように伝えていたが何かあったのか?」
「はい父上。少しマルコ兄上とお話がしたくて」
「そうなのか。マルコ、何かあったのか?」
「さあ? 私には皆目見当もつきません」
そう言って笑うマルコ。ふざけた事をぬかしやがって。
ーーバチバチ、バチバチーー
おっとヒカリン。怒るのはわかるが、あまり俺の頭で雷魔法を放出しないで欲しい。あとで鏡を見ると偶にチリチリになっているから。
「よくそんな冗談が言えますね。フィーリアを殴っておいて」
それを聞いたジークの顔が困惑していた顔から、真剣味を帯びた顔へと変わった。夫人も怪訝な顔をしている。
「それはどういうことだ、マルコ」
「フィーリアが言うことを聞かないので少し教育をしただけですよ、父上」
悪気もなくそう言うマルコ。あー駄目だ我慢出来そうにない。
「言うことを聞かないと言うのは、クロナを守ろうとしたからですよ。兄上はクロナを自分の侍女に無理矢理しようとしたところをフィーリアとクロナに断られたから殴ったのです」
「マルコ、その話は本当なんだろうな?」
「本当ですけど悪いのはあいつらですよ。フィーリアは私の言うことを聞かないし、侍女に至っては噛み付いてきましたしね。そうだ! あの侍女を解雇してくださいよ。主人に手を出す侍女なんて必要ないでしょう」
プチンと俺の中の何かが切れた音がした。
「何を馬鹿なことを言っ「雷魔法ライトニング身体付与2重発動」なっ! 止めろ、レイ!」
俺にジークの声は聞こえていなかった。ただマルコを殴る事だけに頭がいっぱいだったから。
「はああああ!」
速すぎて何が起こっているかわかっていないマルコの顔目掛けて拳を振るう……
だが、マルコに当たる前に誰かに拳を払われて床を殴ってしまった。
ドガァーン! と大きな音を立てて床が抉れる。俺は払った人の方を見るとやはりジークだった。そのまま思いっ切り拳骨をされた。
「痛〜!」
「ばかもん! お前の気持ちはわかるがやり過ぎだ! そんな威力でマルコを殴ると死んでしまう」
「あっ……」
怒りに忘れて加減をするのを忘れていたようだ。
周りを見ると、防御の水魔法をマルコにかける夫人と、何が起こったかわからないウォントに、尻餅をついて漏らしているマルコがいた。
「マルコ。本来なら領地に帰して鍛え直すところだがあと半年もすればお前も学園に入学だ。入学までお前に俺の信頼できる部下を付けてやる。その弛んだ体を鍛え直せ!」
「は、はい!」
初めてジークが怒ったところを見た。
「あと、今回の誕生会の参加も無しで屋敷で謹慎だ」
「そ、そんな!」
「わかったな」
「はい」
ジークが威圧を放って黙らした。
「エリザ、すまないがそういう事だ」
「仕方が無いです。今回はマルコが悪いですから」
「レイ、お前の気持ちはわかるがやり過ぎた。今日1日は屋敷で謹慎しておくように」
「わかりました」
「父上! なぜそいつと私とでは対応が違うのですか!」
「はぁ、誰かいるか」
「はい、お呼びでしょうか?」
「マルコを風呂場に連れて行ってから部屋から出すな。マルコ。お前も自分が何をしたかよく考えるんだ」
そう言うと侍女に引きづられていくマルコ。凄い力だな侍女さん……
侍女と入れ違いに
「なに! 今の音!」
と、エリスとクロエ、フィーリアとクロナがやってきた。
「エリスか。すまないが今から俺とエリスとエルザで話がしたい。いいか?」
「それは大丈夫だけど一体何があったのよ?」
「フィーリアから話は聞いているか?」
「大まかにはね。まさかレイが?」
「ああ、その事も話そうと思う。レイ。お前は部屋に入っていなさい。フィーリア。すまないが今日の買い物にレイは行けない」
「そんな〜!」
そう言って泣き出すフィーリア。
「クロエもクロナもすまなかった。特にクロナ。怖い思いをさせてしまったな」
「い、いえ私は大丈夫です。フィーリア様が守ってくださいましたから」
「そうか。偉いぞフィーリア」
そう言って頭を撫でるジーク。俺は今の内に出ていこう。
廊下を歩いているとヒカリンが
「偉い、偉いの!」
と頭を撫でてくれた。なんか急に恥ずかしくなってしまった……
よろしくお願いします!




